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第35話 狂信徒
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旧魔王城跡地一帯。
そこは魔王が死の間際に放った呪いによって、生命の入り込めない地となっている。
そんな場所を、聖女であるタケコ・セージョーは解呪したいと口にした。
「いやしかし、いくら聖女と呼ばれる貴方でも危険です。命を落とす可能性も……」
エンデル王国も解呪を試さなかった訳ではない。
実際、過去に大掛かりな解呪を試した事がある。
だがそれは失敗し、それに関わった者達は全て命を落としていた。
――何故なら、魔王の放った呪いはそれを解こうとする者を呪い殺すからだ。
解呪が成功すればいいが、失敗すれば待っているのは死。
そして如何に聖女として優れていようと、魔王が施したものである以上失敗する可能性は高い。
そう考え、セルトイは考え直すよう彼女を説得しようとするが――
「ご配慮ありがとうございます。ですが私も神に仕える身。世界の為に命を懸ける事を決して恐れはしません。どうか私に許可を」
――そんな事は百も承知と彼女は許可を求めてくる。
「ぬう……」
セルトイは小さくうなる。
そもそもかの地はもう王家直轄ではないとはいえ、王国の領土である事には違いない。
なので解呪は、国にとってプラスになる事はあってもマイナスになる事はないのだ。
その過程で聖女が命を落とせば外聞は悪くなってしまうだろうが、それも危険を承知した相手からの要請であったなら、さして影響は出ないだろう。
――つまり王国側には、断るだけの明確な名分がないのだ。
だからセルトイは困る。
このままだと、パイプを繋げて利用するという目的が破綻してしまうから。
「出来れば、考え直して頂きたいのですが……」
「私は自らの命をかけて使命を全ういたします。ですので、どうか信じてください。セルトイ様」
聖女タケコが真っすぐにセルトイを見つめる。
その瞳に恐怖の色はない。
「……」
神への信仰の元、妥協する事無く死すらも恐れないその蛮勇。
損得勘定で生きるセルトイからすれば、その姿勢は聖女というよりも狂信徒に近いと映る。
「分かりました。私の一存では決められないので、一旦陛下へ話を通させていただきます。まあタケコ様の強い決意を知れば、陛下も反対はされますまい」
絶対に考えを曲げそうにない。
強く突っぱね、機嫌を損ねては結局同じ事。
ならば成功する方にかけ、許可を出した方が利に繋がる可能性がある。
そう考えたセルトイは、王へ判断を仰ぐと聖女タケコへと約束する。
「ありがとうございます」
「ただ……陛下はお忙しい身であります為、少々お時間を頂く事になりまかと。宜しいですかな?」
「こちらがお願い事をする身ですから、我儘を言うつもりはありません。ですのでお気になさらずに」
「そう言って頂けると助かります。では、私はこれで失礼いたします」
セルトイが貴賓室を後にする。
一人残された聖女タケコは紅茶の入ったカップを一口すすりり、そして独り言ちた。
「もう少ししつこく粘られるかと思ったけど、案外あっさりだったわね。こちらの能力を測れた訳でもないでしょうし……見た目の割に、意外と優秀みたいね。あの宰相は」
聖女タケコが、宰相を務めるセルトイの素早い判断を評価する。
「それにしても美味いしお茶ね。そうだわ、折角だから成分解析しておいて今度マスターに振る舞うとしましょう」
聖女タケコが嬉しそうに魔法を唱える。
王宮には許可のない者の魔法を封じる特殊な結界が施されているのだが、彼女の唱えた魔法はそんな物を完全に無視して発動してしまう。
「それにしても……私だけがこうしてマスターに貢献している事を知ったら、他の奴らはきっと悔しがるでしょうね。ふふふ……」
タケコが笑う。
聖女とは思えない愉悦の表情を浮かべ。
そこは魔王が死の間際に放った呪いによって、生命の入り込めない地となっている。
そんな場所を、聖女であるタケコ・セージョーは解呪したいと口にした。
「いやしかし、いくら聖女と呼ばれる貴方でも危険です。命を落とす可能性も……」
エンデル王国も解呪を試さなかった訳ではない。
実際、過去に大掛かりな解呪を試した事がある。
だがそれは失敗し、それに関わった者達は全て命を落としていた。
――何故なら、魔王の放った呪いはそれを解こうとする者を呪い殺すからだ。
解呪が成功すればいいが、失敗すれば待っているのは死。
そして如何に聖女として優れていようと、魔王が施したものである以上失敗する可能性は高い。
そう考え、セルトイは考え直すよう彼女を説得しようとするが――
「ご配慮ありがとうございます。ですが私も神に仕える身。世界の為に命を懸ける事を決して恐れはしません。どうか私に許可を」
――そんな事は百も承知と彼女は許可を求めてくる。
「ぬう……」
セルトイは小さくうなる。
そもそもかの地はもう王家直轄ではないとはいえ、王国の領土である事には違いない。
なので解呪は、国にとってプラスになる事はあってもマイナスになる事はないのだ。
その過程で聖女が命を落とせば外聞は悪くなってしまうだろうが、それも危険を承知した相手からの要請であったなら、さして影響は出ないだろう。
――つまり王国側には、断るだけの明確な名分がないのだ。
だからセルトイは困る。
このままだと、パイプを繋げて利用するという目的が破綻してしまうから。
「出来れば、考え直して頂きたいのですが……」
「私は自らの命をかけて使命を全ういたします。ですので、どうか信じてください。セルトイ様」
聖女タケコが真っすぐにセルトイを見つめる。
その瞳に恐怖の色はない。
「……」
神への信仰の元、妥協する事無く死すらも恐れないその蛮勇。
損得勘定で生きるセルトイからすれば、その姿勢は聖女というよりも狂信徒に近いと映る。
「分かりました。私の一存では決められないので、一旦陛下へ話を通させていただきます。まあタケコ様の強い決意を知れば、陛下も反対はされますまい」
絶対に考えを曲げそうにない。
強く突っぱね、機嫌を損ねては結局同じ事。
ならば成功する方にかけ、許可を出した方が利に繋がる可能性がある。
そう考えたセルトイは、王へ判断を仰ぐと聖女タケコへと約束する。
「ありがとうございます」
「ただ……陛下はお忙しい身であります為、少々お時間を頂く事になりまかと。宜しいですかな?」
「こちらがお願い事をする身ですから、我儘を言うつもりはありません。ですのでお気になさらずに」
「そう言って頂けると助かります。では、私はこれで失礼いたします」
セルトイが貴賓室を後にする。
一人残された聖女タケコは紅茶の入ったカップを一口すすりり、そして独り言ちた。
「もう少ししつこく粘られるかと思ったけど、案外あっさりだったわね。こちらの能力を測れた訳でもないでしょうし……見た目の割に、意外と優秀みたいね。あの宰相は」
聖女タケコが、宰相を務めるセルトイの素早い判断を評価する。
「それにしても美味いしお茶ね。そうだわ、折角だから成分解析しておいて今度マスターに振る舞うとしましょう」
聖女タケコが嬉しそうに魔法を唱える。
王宮には許可のない者の魔法を封じる特殊な結界が施されているのだが、彼女の唱えた魔法はそんな物を完全に無視して発動してしまう。
「それにしても……私だけがこうしてマスターに貢献している事を知ったら、他の奴らはきっと悔しがるでしょうね。ふふふ……」
タケコが笑う。
聖女とは思えない愉悦の表情を浮かべ。
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