上 下
53 / 65

第53話 勘違い

しおりを挟む
「さて、これはもういらんな。勇者カモネギよ、封印を解いてくれ例にお前にくれてやろう」

「リリス!」

魔神帝が片手で掴んでいたリリスを、乱暴に放り投げた。
それをビートが慌ててキャッチする。

「よかった。無事だ」

リリスの状態を確認―単に気絶しているだけ――して、ビートの奴が安堵を吐く。

何一つ良くないんだが?

魔神帝が大幅にパワーアップした今、某野菜王子風に言うなら「もうだめだぁ。おしまいだぁ」状態だぞ。
リリス如きの安否の心配してる場合かよ。

「言っとくけど、死ぬ程やばいぞ。というか、絶対負ける」

「分かってる」

絶対に勝ちめのない絶望的状況。
ビートはクルクルパーだから気づいていないのかと思い現状を告げのだが、どうやらちゃんと認識できている様だ。

「確かにこのままじゃ、勝ちめは万に一つもない。だから……墓地君、僕が魔神帝を足止めする。だから君は、その間にリリスを連れて逃げてくれ。そしてこの世界の人達に、奴の脅威を伝えて欲しい」

ビートが魔神帝に聞こえないよう、俺にそう小声でつぶやく

「……」

どうやらビートのアホは、俺達を逃がすために此処で死ぬつもりの様だ。
善人ゆうしゃ特有の自己犠牲。
大した心意気だよ。

けど――

「だが断る!」

ビート一人だけを死なせたりしねぇ!

なんて優しい事を考えている訳ではない。
もちろんビートが死んでも何も思わないって事はないが、奴自信が選んだ道でそうなるのなら、それがビート自身の生き様だ。
そこに付き合ってやるほど、俺はお人好しではないからな。

――理由は別にある。

「墓地君!?」

「ビート、お前は大きな勘違いを三つ程してる」

「勘違い?」

「まず第一に――俺の生き様じしょに、尻尾を巻いて逃げるなんて言葉は刻印されてねぇ」

やりたい放題して生きて来たんだから、俺はやりたい放題最後まで突っ走る。

相手が誰だろうと。
勝ち目がなかろうと。
最後までこの拳を振るうまで。

逃げだするくらいなら喜んで死を選ぶ。
それが俺の生き様だ。

「第二に――あいつは俺達を絶対逃がさない」

魔神帝くそやろうは、目の前の獲物を逃がす様な甘い奴には見えないからな。
俺の勘が、逃げるだけ無駄だと言っている。

「くくく……良く分かってるじゃないか。かつての宿敵。それと、明らかに生かしておくのは危険な相手」

魔神帝が俺を見る。

「それを見逃す程、私は甘くはない。お前達は、揃ってここで始末させて貰う」

「だそうだ」

「すまない、墓地君」

ビートが苦渋の表情で、俺に謝罪してきた。
責任を感じている用だが――

「何いきなり謝ってんだよ。まさか全部自分のせいだとか、そんな下らねぇ事かんがえてねぇだろうな」

「けど……僕のせいで」

「んな訳ねぇだろ」

自意識過剰も良い所だな。
ビートが邪魔したからこうなった?
違うね。
確かに最初の妨害で逃げられたのは、こいつのせいだ。

――だがそれは、一発ぶん殴ってチャラにしてある。

そして二度目は、俺自身がビートの頼みを聞くと判断した結果だ。
無視して無理やり突っ込む事だって出来た。
それをしなかった以上、そうしないと選んだ俺自身の自己責任でしかない。

「俺が自分で選んだからこうなった。それだけだ。一々悲劇の主人公ぶって謝ってくんな。うっとおしい」

「墓地君……ありがとう」

「何の礼だよ」

「君と友達になれて、本当に良かった」

「……」

ビートの言葉に、背筋におぞけが走って軽くサブいぼが立つ。
こいつは本気で言っているのだろうか?
一般的な基準で考えれば、ビートから見た俺は絶対友人でも何でもない。

頭お花畑の奴は、最後の最後までお花畑である。
こっわ。

「そう言えば、勘違いの三つめはなんだい?」

「ああ、三つめか……まあ三つめが、最重要だな」

先に上げた二つは、三つ目に比べれば些細なレベルでしかない。
最も重要なのは。
そして俺の中で絶対曲げられない物は。

それは――

「俺は他人の指図は絶対受けねぇ!」

これに尽きる。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...