ハーレム学園に勇者として召喚されたけど、Eランク判定で見事にボッチです~なんか色々絡まれるけど、揉め事は全て暴力で解決~

榊与一

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第40話 十八番

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「な、なんじゃ!?」

理事長室。
そこで執務を行っていた主の前に、転移の魔法陣が突如現れる。
そしてその中から、金の長髪に、金の法衣を纏った、美しい妙齢の女性が姿を現す。
その女の顔を見た瞬間、理事長が席から慌てて立ち上がって叫ぶ。

「こ、これはキリン陛下!何故こちらに!?」

女の名は、キリン・トレサール。
トレサール王国の主、現女王にして、SSSランクレベルの力を持つ絶対者だ。
理事長は彼女の前で跪き、頭を深くたれる。

「驚異的な覚醒で、EからSSランクに到達した前代未聞の勇者。それに……SSSランクの力を持つ可能性のある、謎の女。そんな報告を受けたのでな。勇者はともかく、私に匹敵する力を持つかもしれない女の方は無視は出来なかろう?だからこの目でその者を確認するために、態々やって来たのだ」

直接の確認と聞いて、理事長――マカレール・ロングは背筋に悪寒が走った。
女王が墓地無双と顔を合わせて、タダで済む未来が思い浮かばなかったからだ。
彼が無礼な振る舞いをするのは目に見えていた。

嵐が吹き荒れる。
そんな嫌な予感が、理事長をひしひしと襲う。

「な、なる程……そう言う訳でしたか」

理事長は勿論、リリスの正体を知っている。
墓地の強さが、実際はExtraランクである事も。
だが、余計な事は口に出さない。

何故なら、呪いを受けているからだ。

墓地の能力や、魔神の封印を解いたという情報。
それを女王に伝えるという行動は、裏切りになる可能性があった。
だから、彼は余計な言葉を一切口にしないのだ。

もちろんその事が明かるみになれば、理事長は重い処罰を受ける事になるだろう。
場合によっては処刑もあり得る。

だが、確実に待っている死と。
上手く立ち回れば誤魔化す事も可能な秘匿とでは、どちらを選ぶかなど考えるまでもない。
それは当然の選択だった。

「しかし陛下……SSSランクの者とお会いするのに、お供も連れずというのは流石に……」

お供が居なければ危険を伴う。
だから帰ってくれ。
そんな願いを込めて、彼は屈んだ状態から顔を上げて、心配する様に女王へと具申する。

「ふふ、護衛など必要あるまい?何せ、私にはこの至宝があるのだからな」

女王が金の法衣の襟首を開き、自分の首元をマカレールへと見せつけた。
それを見て、理事長が目を見開く。

「――っ!?」

女王の首元には不気味な漆黒の宝玉が埋め込まれており、それはまるで生きているかの様に接触部分で脈打ち、彼女の体へと根を張り伸ばしていた。
その様は、まるで肉体が宝玉の浸食を受けているかの様に見える。

「それは魔神玉!完成されたのですか!?」

魔神玉。
それは封印に干渉し、その中に封じられている魔神帝の力の一部を引き出し、扱う事の出来る宝器だ。
一部とはいえ、Extraランクの力を扱えるその宝器は、もはや神器と呼ぶにふさわしい絶対的な力を備えていると言っていいだろう。

「うむ。短時間ではあるが、これさえあれば私の力は大幅に増す。今の私に勝てる者などおらんよ……それこそ、最近魔塔で感知されたExtraレベルの相手でもない限りはな」

「魔塔でその様な観測が……」

Extraランクの観測。
それは本来驚愕すべき事実だ。
だが、女王の言葉に表面上驚いて見せてはいるが、理事長のその内心は落ち着いた物だった。

――何故なら、その発生源が墓地無双であると理事長は確信していたからだ。

「陛下。貴方様は、今からそのどうにもならない相手と接触しようしているのです。どうかお気を付けください」

そう口にしたい所を、彼はぐっと堪える。
理事長にも国や君主に対する忠誠心自体はあるが、やはり自分の命が一番かわいい。
ゆえに日和る。
己のみを守る為、最後まで。

「まあ恐らくだが、何らかのミスであろうとは思うがな。もし本当にそのような者が現れたのならば、目立つなり暴れるなりしておろうからな」

実際はもうとっくに暴れまわっている訳なのだが、墓地無双が最低限の良識を持ち合わせていた為、その規模は有する力に比べて遥かに小さかった。
そのため、女王キリンには正確な情報が入っていない。
そんな状態であるため、彼女は観測自体が何らかの誤作動だと判断している。

まさか学園が呼び出した者の中に、Extraランクの超勇者が混ざっているとは、夢にも思わないだろう。

「さて、墓地無双の元へと案内せよ」

「陛下、現在は授業中でございますので……」

「それがなんだ?まさか、そんな事の為に私に待てと言うつもりではあるまいな?」

失言から女王に軽く睨まれ、マカレールは自身の失態に体を震わせる。
女王キリンの命令に対しての口答えなど、一学園の理事長でしかない彼に許される筈もない。
それは彼も当然理解していたが、気の重い事を先延ばしにしたいと思う本能から、つい口から出てしまったのだ。

「い、いえ……滅相もございません。どうかお許し下さい」

理事長が屈んでいる状態から、額を地面に擦り付ける土下座のポーズへと移行する。
墓地の時といい。
どうやら土下座は彼の十八番の様だ。

「まあ今回は、学生と授業を大事にしている。そういう事にしておいてやろう。だが、次同じ失態を犯せばそれ相応の罰が待っておると理解せよ」

「陛下の寛大な御容赦。感謝の言葉もありません」

「うむ。ではいつまでも伏せておらず、さっさと私を案内せよ」

「ははっ!」

理事長は起き上がり、墓地無双のクラスへと女王を案内する。
「揉め事が起きませんように」と祈りながら。

勿論、本人もそれが無駄な祈りであるだろうと理解してはいたが……
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