33 / 65
第33話 保険
しおりを挟む
Sランク勇者、ロウシン。
彼はベヒモスの母方の祖父に当たる人物であり、齢70を超える老人だ。
だがその強さは老いてなお健在で有り、ゲンブー家の切り札とも言える存在として周囲に名を知らしめていた。
「ん?あれは……」
場所は聖愛魔導学園《ラブマジシャンズアカデミー》近郊。
ゲンブー家が対墓地無双様に寄越した一団に向かって、凄まじい砂煙を上げる何かが信じられない速度で接近して来る。
本来なら警戒を強める事態であるにも拘らず、彼らにその様子はなかった。
何故なら知っているからだ。
その砂煙を上げる者の正体を。
やがてその超高速の物体は、一団の少し手前で急ブレーキをかけたかの様に減速して止まる。
「やれやれ、ワシまでひきづり出されるとはのう」
そこに立っていたのは、長い白髪を後ろで束ねた老人――勇者ロウシンだった。
「お久しぶりです、ロウシン殿」
「そう畏まらんでいい。同じゲンブー家に所属する者同士じゃろ」
その場にいる全員が頭を下げようとするが、彼はそれを片手で制した。
「相変わらず、ほれぼれする程のスピードでいらっしゃる」
「ほっほっほ。それだけがワシの売りじゃからのう」
S級勇者であるロウシンは、パワー自体はA級レベルしかない。
彼の売りは、その驚異的な程のスピードにあった。
孫からの連絡を受けた勇者ロウシンは、圧倒的な速度による軽功を駆使して、先行していたゲンブー家所属の勇者達にあっという間に追いついている。
この場にいた者は、その事を知っていたからこそ慌てる事が無かったのだ。
「ベヒモス様の知らせによると、相手は覚醒によってSランク相当の力を持っているとの事です。が……正直、私にはにわかに信じがたい話ではあります」
勇者墓地の召喚時の測定はEランクだった。
それからほんの僅かな期間で覚醒し、しかも前代未聞の5ランクアップなど、普通に考えればあり得ない事だ。
そのため、この場にいる者達の大半はSランクという報告を懐疑的に受け止めていた。
「そうじゃな。まあ誤認ではあるとは思うが、万一と言う事もある。じゃからワシはここへやってきた。こんな物騒なもんまで用意してな」
勇者ロウシンは、腰に差した剣を片手で触る。
それはゲンブー家秘蔵の宝器だった。
もし墓地無双が報告通りSランクだった場合、同じSランク同士の戦いになる。
それ以外の戦力があるとは言え、そうなればどちらが勝つかは未知数だ。
だからロウシンは自らの勝利を確実な物とする為、強力な宝器を所持していた。
万一の保険のために。
尤も、その保険は完全に無駄に終わるのだが……
何故なら、彼にはその剣を振るうチャンスすら与えられる事はないのだから。
「まあ使う事など無いじゃろうがな。今回は久しぶりに可愛い孫の顔を見に来たと思う事にしようかの、ほっほっほ」
ロウシンはそう言うと、愉快そうに笑う。
その呑気な姿に、他の者達もつられて笑いだす。
――自分達の向かう先に、どのような結末が待ち構えているかも知らずに。
彼はベヒモスの母方の祖父に当たる人物であり、齢70を超える老人だ。
だがその強さは老いてなお健在で有り、ゲンブー家の切り札とも言える存在として周囲に名を知らしめていた。
「ん?あれは……」
場所は聖愛魔導学園《ラブマジシャンズアカデミー》近郊。
ゲンブー家が対墓地無双様に寄越した一団に向かって、凄まじい砂煙を上げる何かが信じられない速度で接近して来る。
本来なら警戒を強める事態であるにも拘らず、彼らにその様子はなかった。
何故なら知っているからだ。
その砂煙を上げる者の正体を。
やがてその超高速の物体は、一団の少し手前で急ブレーキをかけたかの様に減速して止まる。
「やれやれ、ワシまでひきづり出されるとはのう」
そこに立っていたのは、長い白髪を後ろで束ねた老人――勇者ロウシンだった。
「お久しぶりです、ロウシン殿」
「そう畏まらんでいい。同じゲンブー家に所属する者同士じゃろ」
その場にいる全員が頭を下げようとするが、彼はそれを片手で制した。
「相変わらず、ほれぼれする程のスピードでいらっしゃる」
「ほっほっほ。それだけがワシの売りじゃからのう」
S級勇者であるロウシンは、パワー自体はA級レベルしかない。
彼の売りは、その驚異的な程のスピードにあった。
孫からの連絡を受けた勇者ロウシンは、圧倒的な速度による軽功を駆使して、先行していたゲンブー家所属の勇者達にあっという間に追いついている。
この場にいた者は、その事を知っていたからこそ慌てる事が無かったのだ。
「ベヒモス様の知らせによると、相手は覚醒によってSランク相当の力を持っているとの事です。が……正直、私にはにわかに信じがたい話ではあります」
勇者墓地の召喚時の測定はEランクだった。
それからほんの僅かな期間で覚醒し、しかも前代未聞の5ランクアップなど、普通に考えればあり得ない事だ。
そのため、この場にいる者達の大半はSランクという報告を懐疑的に受け止めていた。
「そうじゃな。まあ誤認ではあるとは思うが、万一と言う事もある。じゃからワシはここへやってきた。こんな物騒なもんまで用意してな」
勇者ロウシンは、腰に差した剣を片手で触る。
それはゲンブー家秘蔵の宝器だった。
もし墓地無双が報告通りSランクだった場合、同じSランク同士の戦いになる。
それ以外の戦力があるとは言え、そうなればどちらが勝つかは未知数だ。
だからロウシンは自らの勝利を確実な物とする為、強力な宝器を所持していた。
万一の保険のために。
尤も、その保険は完全に無駄に終わるのだが……
何故なら、彼にはその剣を振るうチャンスすら与えられる事はないのだから。
「まあ使う事など無いじゃろうがな。今回は久しぶりに可愛い孫の顔を見に来たと思う事にしようかの、ほっほっほ」
ロウシンはそう言うと、愉快そうに笑う。
その呑気な姿に、他の者達もつられて笑いだす。
――自分達の向かう先に、どのような結末が待ち構えているかも知らずに。
0
あなたにおすすめの小説
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる