上 下
7 / 65

第7話 お人好し

しおりを挟む
俺が勇者ビートに連れて来られた場所は、学園の裏手にある湖だった。
予想はしてたが、これでこいつの用事は確定する。

空気だった俺にいきなり勇者が声をかけて来る理由なんて、理事長がらみのお仕置きか、いじめっ子の成敗位しか考えられないからな。
湖に連れて来たって事は、後者で間違いないだろう。

ま、前者は死人が出るから可能性は初めっから0だとは思っていたが。

「2日前。たまたまここを通りかかった僕は、倒れている5人の女生徒を発見して介抱している。王国4大家門であるゲンブー家の御令嬢と、そこに連なる家の令嬢達だ」

その時の事を思い出してか、ビートが痛まし気な表情をする。
ただ顔面潰しただけだってのに、大げさな奴だ。

「彼女達が言うには、勇者墓地――君が急に襲い掛かって来た、と」

向こうが挑発して来たから殴ったのに、まるで不意打ちを喰らったかの様な主張。
酷い言いがかりである。

まあ挑発されなくても、ぶん殴るつもりではあったが。
虐めは見てて胸糞悪いし。

「それは本当の事なのか?」

「ぶっ飛ばしたのは事実だが、別に不意打ちなんてしてないぞ」

「不意打ちではないにしろ、殴ったのは事実なのか……まさか勇者たる者がそんな真似をするなんて」

ビートは手で額を押さえ、天を仰ぐ。
一々オーバーアクションな奴である。

「何故そんな真似をしたのか……聞いてもいいかい?」

成敗する!
とか言ってビートが攻撃して来るかもと思ったが、そんな事は無かった。
人の話を聞くぐらいのお頭はちゃんとある様だ。

「虐めを止めに入ったら、挑発されたからぶん殴った。以上」

「虐めか……確かに勇者として放ってはおけない事だな。だが、それにしてもいくら何でもやり過ぎじゃないか?彼女他達の怪我の状態は尋常じゃなかったぞ」

「死なない程度にちゃんと手加減したぞ。それに、やりすぎなくらいじゃないと虐めなんて収まる訳ないだろ?俺が声を掛けたら、関わって来るなとか言いきりやがったしな」

ちょっと注意した位で、そういった行動が止まるなら苦労はしない。
ましてや貴族なんて特権階級なら猶更だ。

まあそんなの関係なしに実はぶん殴るつもりではあったが、そこは伏せておく。
俺は聖人君子じゃないからな。
全てをつまびらかにするいわれなどない

「君の言う事が事実なら……確かに注意した程度では聞かなかっただろう。だが流石にやり過ぎだ。女性の顔をあんなにぐちゃぐちゃにするなんて」

「どうせ回復魔法で治るんだ。大げさだな」

殺したんならともかく、魔法でどうにでもなる事だからな。
そう考えると、もっと痛めつけていた方が良かったまである。

勇者に自分達が何故ぶん殴られたか言ってない辺り、絶対こりて無さそうだし。
なんなら、その理由を理解してない可能性まであるな。
高位貴族なら、他人は虐げて当然的な思想を持っていてもおかしくはない。

「墓地君、このままじゃ大事になる。彼女は王国4大家門の令嬢だ」

「それがどうかしたのか?何かしてくるってんなら、全部ぶちのめすだけだ」

相手のバックが何かなど、俺は気にしない。
それはチートを授かる前からそうだった。
そして今の俺は、他の勇者達と比較しても破格の力を得ている。
今更気にする必要性は皆無だ。

「それは危険な思想だ。確かに僕達勇者は、他の人達よりも強い。だがこの国にも強者はいるし、それにゲンブー家が他の勇者に協力要請を出す事だって考えられる。そうなったら、君はどうするつもりだ。こういう事はあまり言いたくはないが、君はEランク判定なんだぞ?」

「全く問題ない」

「問題ない訳ないだろ!最悪殺されてもおかしくないんだぞ!!」

何か知らんが怒鳴られた。
まあ善意からっぽいので、殴ったりはしないが。

「すまん、つい怒鳴ってしまった。幸い、ベヒモス嬢は君が謝るのなら許してもいいと言っている」

なんで俺が謝らねばならんのだ?

「彼女も、この事は大事にしたくない様だ。ゲンブー家の令嬢が勇者に暴行されたとなれば、家門の名誉に傷がつくからだろうと思う」

「ああ、それで教室では駄目だった訳か」

教室で話をしたら、聞き耳を立てる奴も出て来るだろう。
そうなると、噂が広まるのは目に見えている。
それを避けるため、ビートは人気のない所に俺を連れて来たのだ。

「つまり、お前はあのベヒモスって女の犬って事か?」

「断じて違う!僕は同じ勇者である君が、酷い事になるのを見てられなかった。だから仲裁を買って出たんだ」

無駄にいい奴で困る。
まあ余計なお世話でしかないが。

「虐めを見逃せなかった君の正義感は分かる。悪事を憎む気持ちから、きつい攻撃になったというのもだ。だがやはり今回の事はやり過ぎだし、君自身の為にもベヒモス嬢に謝るべきだ。僕も一緒に彼女に謝る。だから、君もそれで納得してくれ」

ビートが俺に向かって深く頭を下げる。
他人事でそこまでやるか?
ここまでのお人好しをみるのは初めての事だ。

ハッキリ言って、俺は自分が間違った事をしたとは思っていない。
だから謝るどころか、他人のビートを使って謝罪を引き出そうとしている糞女共を追加で殴ってやりたいぐらいだ。

だがここは――

「わかったよ」

底抜けのお人好しの顔を立ててやる事にする。


……ま、相手が虐めを認めて二度としない事を誓った場合に限るが。

それを認めて約束しない様なら、話は変わって来る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです

青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 その理由は、スライム一匹テイムできないから。 しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。 それは、単なるストレス解消のため。 置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。 そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。 アイトのテイム対象は、【無生物】だった。 さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。 小石は石でできた美少女。 Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。 伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。 アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。 やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。 これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。 ※HOTランキング6位

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

処理中です...