上 下
2 / 65

第2話 でっち上げ

しおりを挟む
聖愛魔導学園《ラブマジシャンズアカデミー》は、基本女子しかいない。
何せ勇者の花嫁候補を育成する場所だからな。

召喚された勇者は、全員この学園に通う事になる。
そして自らの気に入った相手を囲い、ハーレムを形成するのだ。
それこそが、種馬たる者達の仕事。

さて、めでたくE判定を受けた俺な訳だが――絶賛ボッチ街道驀進中だ。

花嫁候補?
誰一人として近寄って来やしねぇ。
こっちから挨拶しても、よそよそしい塩対応だ。

俺、此処に何しに呼ばれたんだろうか?
せめて顔が良ければ多少はマシだったんだろうが。

え?
顔が不細工なのかって?

まあな。
そこまで酷いとは思っていないが、とにかく召喚された他の勇者が全員イケメンなんだよな。
当然その花嫁候補たる女生徒達も、全員超が付く美人揃いだ。

お蔭で場違い感が半端ない。
犬の品評会に、小汚い野良犬が紛れ込んだ感じである。

力もなく、見た目も悪い。
そうなると、好き好んで近づいて来る奴もいないだろう。
女生徒は勇者のハーレム候補ではあるが、決定権は本人達にあり、嫌な相手と結ばれる必要はないそうだからな。

クッソ広い校庭の端にあるベンチに腰を下ろし、俺は呟く。

「しっかし、何でE判定なんだ?」

それが分からない。
最初は平和な世界での力だからと思っていたが、手に入れた力の一つである鑑定を使ってみた所、俺が超強い事が判明する。

戦闘力を数値で表すなら、Bランクの勇者はだいたい1000万ぐらい。
Aランクで最も高い奴でも2000万いってないレベルだ。

んで、俺自身の鑑定数値は……軽く10億超えていた。
Aランク勇者の、50倍以上の数値である。

「これはやっぱあれか?神の力は測定できないとかいう例の」

だとしたら、どでかい力を見せつけて認識を改めるべきだろうか?
でもなぁ、力をひけらかすのは好きじゃないんだよな。
しかも貰い物だし。

バイオレンスなんて物騒な仇名を付けられていた俺だが、力をひけらかしたり、何もしてない奴に暴力を振るった事は無かった。
俺が殴るのは、揶揄って馬鹿にしてきたり、敵意を向けてきた奴らだけだ。
だからこそ両親も、俺の事を叱る事は決してなかった。

「まあ勉強しながら様子見だな……」

理事長曰く、元の世界に帰す手段はないそうだ。
そのため、モテなかろうが何だろうが、俺はこの世界で生きていくしかなかった。
取り敢えずまじめに勉強して、この世界の事を知るとしよう。

「まあそれに、男はハートって言うしな」

まだ学園生活は始まったばかりだ。
そのうち俺の魅力に気付いてくれる子だって出て来るかも知れない。
まあそんな物があれば、の話だが。

それから1週間ほど、孤独な学園生活が続く。

相変わらず女生徒は俺を避けている。
他の勇者連中も、Eランク判定を受けた俺には興味がないのだろう。
すれ違った際に挨拶しても、綺麗に無視される始末だ。

まあいいけどな。
挨拶も出来ない幼稚な奴だと思うだけだし。

「墓地。理事長がお呼びだ」

教室で一人寂しく飯を食っていると、禿げ散らかした教師が教室にやって来て俺に声をかけた。
教師連中は他の勇者には様付けしているが、俺は呼び捨てで命令口調だ。
分かりやすい対比である。

まあでも、この程度では俺も怒らないさ。
一応教師と生徒な訳だしな。
勇者だからと言って、敬語で接する方がどうかしてるってもんだ。

まあ勝手に召喚しといてって部分があるので、若干引っかからなくもないが。

「なんです?」

俺は一応ノックしてから理事長室に入る。
中はかなり広く、長机やいすが並んでいるので、個室というよりは会議室と呼んだ方がしっくりくる。

中には十人程人がおり、全員長机の椅子に座っている。
何人かは授業で見た事のある顔――教師――だ。
そして最奥の豪華な席には、理事長が座っていた。

「座り給え」

言われて手近な席へと腰を下ろした。
見ると、全員難しい顔をしている。
一体俺に何の用だろうか?

「実は、君に対する女生徒からの苦情が多くてね」

「苦情ですか?」

俺は理事長の言葉に、眉根を顰めた。
完全にスルーされている状態で、何の苦情があるというのか?
まさか不細工だから不快とか、そういうハラスメントな苦情じゃないだろうな?

「ああ。勇者である事を良い事に、君が更衣室を覗いているという苦情がある」

「は?」

覗き?
何言ってんだ?
当然そんな真似をした事はない。

「それと、頻繁に女性徒にわいせつな行為を求めているともだ」

髭面のおっさんが、これまた意味不明な事を言い出す。
話も真面にできない状態で、どうやってそんな真似をしろと?

「それと――」

次々と、身に覚えのない悪事が周囲の連中から告げられていく。
女性徒の笛を舐めただ。
全裸を見せつけだ、と。

ただ俺も馬鹿ではない。
なぜそんな話が出て来たのか、それぐらい直ぐに分った。

要はでっち上げだ。
勇者を学園から追放、もしくは処刑する為の大義名分を得るための。
まあ弱い勇者はいらないって事だろう。

「で?何が言いたいんです?」

話を聞くのも飽きてきた俺は、さっさと答えを求める。
こいつらの話をこれ以上聞くのは、時間の無駄以外何物でもない。

落ち着いてる?
馬鹿言え。
ぶちぎれ寸前だ。

やられたらやり返す。
人の事を勝手に呼び出しておいて、こんな真似をされて許す謂れなどない。
せっかくなので、戦闘力10億オーバーがどの程度か少し試してやるとしよう。

「不埒な真似をしておいて!何てふてぶてしい態度なの!」

唯一の紅一点。
20代位の女性が、どんと長机を叩いた。

彼女も教師だろうか?
その顔は、憤怒に歪んでいた。

ふむ……どうもこの女は、本気で俺が勇者の権限をかさに着てやりたい放題してると思っている様だな。

女性からは本気の怒りを感じる。
もし俺をハメる気での行動なら、此処までの怒気は放っていない筈だ。

「反省の意志はない様だな」

「していない事を反省する余地はないし」

「何てやつだ!私はこの学園から追放する事を求めます!こんな男に勇者たる資格はありません!!」

「「「「賛成!異議なし!」」」」

ちょび髭男の言葉に、周囲の人間が全員一致で賛成を返した。
見事なハモりだ事。
練習でもしてきたのだろうか?

「いいだろう!墓地無双!勇者の称号を剥奪し、勇者の名を貶めた罪で終身刑を言い渡す」

理事長が席から立ち上がり、手にした扇子を俺に向けてそう宣言した。

はい、死刑。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...