天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一

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第31話 話

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「話を……聞いてくれ――いえ、頂けるんですか?」

「一応はな。後……別にこっちから攻撃仕掛けたりしないから、そんなに怯えなくていい」

 わざわざ安心させる様な事を言ったのは、今のびくびく怯えている状態だと、どもったりして話がまどろっこしくなると思ったからだ。こいつの言葉を、根気よく聞いてやる気はないからな。

「まあそっちから仕掛けてくるなら話は別だけど」

「そ、そんな気は一切ありません!」

「じゃあ問題ないな。で?俺に何を頼みたいんだ?」

 エナイスが大きく深呼吸する。恐怖で動揺している自分を落ち着かせるために。

「お話の前に、音声を遮断する結界を張っても宜しいでしょうか?もしくは別の場所への移動をお願いしたいのですが……聞かれると少々不味い話になりますので」

 どうやら人に聞かせられない話らしい。一体どんな話なのやら。因みに、王女はさっきから俺に敬語を使っている。万一にも怒らせたくないから気を使っているのだろう。

「結界を張ってくれていいぞ」

 話の為だけに一々移動するのは面倒なので、結界を張るよう促す。

「ありがとうざいます」

 彼女は頭を下げてから、懐からゴルフボール大の球体を取り出した。その表面にはびっしりと魔法文字ルーンが浮かんでおり、それがマジックアイテムである事が一目で見て取れる。そこから魔力の波動が広がったかと思うと、見えない壁の様な物が俺と王女を包み込む。

 これなら魔法で再現できそうだな……いや、そもそも存在している魔法の効果をマジックアイテム化していると考えた方が自然か。取り敢えず、後で試しに使ってみるとしよう。

「それで?聞かれたくない俺への頼みってのは?」

「勇者様が以前この街で戦われた化け物。あれを私達は魔王と呼んでいますが、その魔王が破竜帝によって撃ち滅ぼされたという話はご存じでしょうか?」

「もちろん知ってる」

 あれだけ好き放題暴れまわった、超が付くレベルの危険生物だ。しかも鑑定では魔王と勇者の二つが出る意味不明具合。そんな化け物が破竜帝に倒されたという話は、瞬く間に広まっている。実際、俺も目覚めたその日に話を聞いているからな。知らない訳がない。

 それを確認して来るって事は……まさか実際は倒されていないのか?

 だとしたら、エナイスが俺に話を持って来るのも納得ではある。第三者的には、俺は魔王と戦って生き延びてる強者な訳だからな。実際は天と地ほどの実力差があった訳だが。

「ひょっとして、魔王が生きているのか?」

「いえ、討伐は間違いなくなされています」

 違った様だ。だったらなんで魔王の話をしたのだろうか?

「ですが、魔王の最後が問題でした」

 最後が問題……ね。何かやらかしたって事か。

「勇者様……勇者様はその……あの魔王がどういった存在かご存じでしょうか?」

 エナイスが歯切れ悪く聞いて来る。まあ自分達が召喚してやらかした、超ド級の失態だからな。歯切れが悪くなるのもしょうがない、

「ああ、あんたらが召喚した勇者だろ?あと、勇者召喚が実際は召喚じゃなくて、コピーだって事も知ってるぞ」

「——っ!?そこまで知って……いえ、ご存じでしたか……」

 エナイスの両目が驚愕に見開かれる。まさか俺が勇者召喚の正体まで知っているとは、夢にも思わなかったのだろう。まあ実際、魔王から聞いていなかったら俺も気づかなかっただろう事だからな。驚くのも無理はない。

「それで?」

「……召喚された勇者様には、オリジナルが存在しています。そして……あの魔王にも」

 俺にオリジナルがいる様に、当然魔王にもオリジナルがいる。そう言えばあいつ、この世界で用意された体では本来の半分ほどしか力を出せないって言ってたな。俺も少し似た部分がある訳だが……まあそこは良いだろう。

 にしても、オリジナルの話をしだしたって事は……

 何となく話が読めて来た。もし俺の想像通りなら、結構最悪な話だ。

「魔王は死に際に、自らの命を使ってオリジナルの元に何らかの信号を送った様で……」

「……」

「それを辿って、この世界にそのオリジナルがやってくる可能性が高いと……少なくとも、破竜帝はそう判断している様なのです」

 この世界における最強にして絶対者。師匠の心を折り、いずれ俺の超えるべき壁。破竜帝ジークフリート。単なる脳筋ではなく、全てにおいて規格外と師匠は言っていた。それ程の男がそう判断したのなら、きっとその可能性は高いのだろう。

「しかもその力は、コピーの比ではないとも。勇者召喚で与えられる肉体には限界があって、その制限の為、あの魔王は本来の力を発揮できていなかった様なのです」

「それは魔王と戦った時に聞いてる。半分程度だったと」

「私もそう伺っております」

 あの倍の力をもった奴がいずれやって来るとか……そう考えると、頭が痛くなってくる。当然今の俺に、その相手は無理ゲーも良い所。そしてそれは、恐らくジークフリートにも言える事なのだろう。破竜帝と魔王との戦いは、数時間にも及んだと聞くからな。

 実力が拮抗していたからこその長期戦。そして半分相手と互角レベルである以上、本体が乗り込んで来たら一対一での戦いに勝ちの目はない。

 まあ破竜帝が戦闘狂で、戦いを楽しむため手を抜いて相手をしていたとかなら話は変わって来るが……

 流石にそれはないだろう。仮にそうだったとしても、半分以下の力しか出して無かったって事は無いはずだ。戦闘狂が、半分以下の相手に何時間も戦いを楽しめたとは思えないし。

 そしてそう考えると、王女の俺への要請は必然的に――

「要は……魔王戦の際に、破竜帝のサポートを俺に要請したい訳か。王女様は」

「結論から言うと、そうなります。ただそれだけではなく、勝率を上げる為、勇者様にはこれから設立される訓練学校に入っていただきたいのです」

「訓練学校?」

「はい。今のままでは魔王に勝つのは難しいと、各国は判断しました。なので世界中から優秀な者達を集め、各国の協力の元、最先端の訓練を施す事で対魔王戦力を引き上げるのが狙いとなっています。勇者様には、我が国の代表としてそこに参加して頂きたく、本日はお伺いさせて頂きました」

「なるほど……」

 世界中から選りすぐりを集めて、魔王討伐隊を育てる……か。

 相手が個ではどうしようもない化け物である以上、数で対応する以外手はない。そのために優秀な人員を一か所に集めてその実力を底上げし、同時に集団戦の訓練も行う。判断としては合理的だ。

「ふむ……」

 エナイスの話を聞くだけ聞いて、要は情報だけ抜いて断ろうと最初は思っていたのだが……

 俺の中から、頼みごとを断るという選択肢が消える。討伐が失敗する可能性を考慮すると、参加しないのは下の下もいい所だ。

 何より、魔王は師匠の仇でもある。直接殺された訳じゃないが、あいつのせいで死んだのは間違いない。その敵討ちに参加しないなどありえない。

 本当はタイマンで倒すのが理想なんだが……

 どの程度の猶予があるのかは知らないが、最低でも十年……いや、今の成長速度ならそこまではいらないか。だがそれでも五年はないと、単独で戦うのは難しいだろう。

 ――今の俺の成長速度は、師匠と訓練していた時の比ではなかった。

 理由は至って簡単。地球の俺と繋がっているからだ。実は地球の方の俺も、この半年間訓練を積んでいた。そしてその成果はお互いの肉体にそのまま共有され、そのお陰で成長速度が劇的にが上がっている。という訳だ。

 更に付け加えるのなら、成長速度——潜在能力は、地球の肉体の方が遥かに高かったりする。所詮コピー品では、俺の天才としての資質を完全にコピーできなかったという事だな。魔王の時と同じで。なので成長速度は単純に二倍ではなく、数倍にまで膨れ上がっていた。

「勇者様……魔王の事はこの国だけではなく、この世界の一大事です。ですのでどうか、ご助力お願いします」

 エナイスが神妙な顔つきで、俺に向かって深く頭を下げた。

 自分達が引き起こした事の火消しを他人に頼むとか、厚かましい事この上なしではある。だが責任が誰にあろうと、魔王の事を俺は無視する事が出来ない。そして5年以上という保証がない以上、俺は新設される教育機関に入る以外の選択肢はないという訳だ。

「協力ね……当然、報酬は出るんだろうな?さっき悪い話じゃないって言おうとしてた訳だし」

 なら、後はどれだけの物をこいつから引き出せるか、だ。最低でも、ベッチの母親の病気が治せる位の報酬は貰わんとな。
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