天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一

文字の大きさ
上 下
30 / 52

第30話 怪我の功名

しおりを挟む
「な、何の事かしら……」

 俺の指摘ちょうはつをエイナスが笑顔のまま、しかし頬を微妙に引くつかせつつスルーしようとする。これが小学生男子の揶揄いなら、追加でカツラを引っぺがす残酷なイベントまであり得るが、流石にそこまでする気はないので止めておく。

「まあいい。で?用件は?まさか以前の事を謝罪に来ただけじゃないんだろ?」

「ええ、まあそうね。実はあなたにお願いがあってやって来たのよ。お願いって言うのは――」

「断る!」

 最初は取り敢えず話だけでも聞こうと思っていたのだが、俺はふとある事に思い至り、エイナスの言葉を遮ってノーを突きつけた。内容も聞かず断ったのは、ある事を確認する為だ。それは――

 ――召喚側の対策セーフティー

 例えば、急に意味不明な世界に呼び出されて面倒事を頼まれたとしよう。召喚された――と思っている――人間がそれを快く引き受けるだろうか?普通に考れば、それがすんなり通る筈もない。実際、俺も面倒事を避けるために無能なふりをしてその場をやり過ごしてる訳だしな。

 まあ報酬——富や名誉に女。元の世界に戻すなど――を提示する事で懐柔する事も出来なくはないだろうが、それでも全員が全員、それで首を縦に振るとは限らない。

 その最たる例が……魔王だ。

 まあ流石に魔王は極端な例だが、どんな提示にも首を縦に振らない人物がいたとしてもおかしくはない。そうなった時、召喚した側は、じゃあしょうがないねとなるのだろうか?

 否。

 俺の時はそもそも能力がないと判断されたから放置されたが、普通ならそうはならなかったはずだ。そんな軽い物なら、俺が召喚された時に、王女と魔塔の副塔首が責任の押し付け合いなどなかっただろう。なので、普通なら何が何でも自分達の都合を押し付けようとするはず。

 だが、勇者は強力な力を持っている事が前提だ。無理強いは容易くない。そう考えた時、相手の意思を無視する一手――対策セーフティーを用意していると考えるのが自然である。

「そう結論を急がないで頂戴。貴方にとっても悪い話じゃないのよ。だから――」

「くどい。お前らの頼み事を受けるつもりはない」

 まさか話も聞かないうちに断られるとは思わなかったのだろう。エイナスが慌てて交渉しようとするが、それもぴしゃりとシャットアウトする。強烈な殺気を放ちつつ。

 真正面から俺の殺気を受けて、余裕が吹っ飛んだエイナスの顔が苦し気に歪む。さあ、もう説得は出来なくなったぞ。強制出来る何かがあるのなら見せてみろ。

 使われると危険じゃないか?

 問題ない。魔王も変身前の状態でそれを乗り越えている様だった――人型でうろついていた事から推測――し、きっと俺にも出来る筈。エイナスもそう考えているからこそ、此方に怯えているのだ。

 ……最悪、耐えられなきゃ屈伏するふりをすればいいだけだしな。

 相手の切り札がどういった物かさえ知ってさえいれば、後々対処方法を見つける事は可能だ。何せ、俺は天才だからな。まあ仮にそれが死に直結する様なものだったとしても、肉体が粉々にでもされない限り蘇生も出来るし。

「く……そんな態度を……はぁ、はぁ……取っていいのかしら?こっちには……切り札がある……のよ……」

 ……ちょっと強くし過ぎたか。

 俺の殺気に、エイナスが苦しげに喘いで膝を突く。その影響は彼女だけではなく、後ろに控えていた兵士達にもでている。まあそこまでなら問題ないのだが、離れている場所の一般人にまで影響が出てしまっていたので、俺は慌てて殺気を引っ込めた。

 殺気はコントロールが難しいな……

 これは最近威嚇用に開発したばかりで、まだまだ上手く調整できていない技だ。一見単純そうに思えるだろうが、実はこれ、中々に難度の高い技術だったりする。ゆくゆくは、遠くの相手にピンポイントで浴びせられる位にまで錬磨したい所である。

「切り札ね。なら、その切り札とやらを見せて貰おうか。それ次第で、俺の気持ちが変わるかもしれないぞ?さあ、やって見せろよ」

 俺は両手を開き、見下す目つきでエイナスを挑発してやる。ここまですればきっと使って来るだろう。

「私は……こんな野蛮な真似はしたくはないの……話さえ聞いて貰えればよかったんだから……」

 殺気から解放されたエイナスが、グダグダ言いながらゆっくりと立ち上がって来る。

 言い訳を口にしているのは、もし切り札を使って俺を押さえつけられなかった時の保険だろう。本意ではないと思わせる事で、俺のヘイトを和らげるための保険。小賢しい女である。

「でも良いわ。貴方が望むのなら……見せて上げる。後悔する事になっても知らないわよ?」

「そんな物はしないさ。さっさとやってみろ」

「相当痛いだろうけど、恨まないで頂戴……行くわよ!」

 エイナスが俺に右掌を向ける。そこには不思議な文様が浮かんでおり、それが光り輝いたかと思うと――

「………………ん?」

 ――何も起こらない。

「……何もないぞ?」

「へ?」

「「…………」」

 数秒の沈黙。見つめ合う俺とエイナス。どういう事だ?

「え?なんで!?何でなんともないの!?もう一回!!」

 再びエイナスが右掌を向け、紋様が光る。だがやはり何も起こらない。

「そんな馬鹿な!?耐えるならともかく、発動自体しないなんてそんな事!?」

「ふむ……」

 頭を抱えてパニックになっているエイナスは捨て置いて、何故彼女達の用意した対策が発動しないのかを考えてみた。

 俺がハズレだからセーフティーはかけられていなかった?

 仮にあと掛けするだったとしても、それはないだろう。もしそうなら、エイナスの行動が意味不明である。かかっていると思っていたからこその、今の言動と反応な訳だからな。

 何らかの理由で解除された?

 それも正直、考えづらい気がする。強力な勇者を縛るための楔だ。普通に考えれば、ちょっとやそっとの事では解かれない様にしてあるはず。何かの拍子で簡単に外れるとは思えない。もしそんな簡単に解けるのなら、余りにも勇者の運用が不安定になりすぎるし。

「じゃあ何で……あ、そう言えば!」

 簡単には解けない。だが簡単ではない事が起こったなら?そう、それこそ普通ならあり得ない事が起こっていたなら……

 ――そして俺は半年前、まさにそう言う経験をしていた。

「なあ、ひょっとして……その切り札ってのは死んだら解ける物か?」

 そう、俺は魔王によって一度死んでしまっている。セーフティーがどういった物かは知らないが、死んだ後にまで維持する意味はない。ならば死ぬと同時にそれが切れてもおかしくはないだろう。

「へ?え?あ?そ、そうね……死んだら、そりゃ消えるとは思うけど……」

「なるほどな……」

 となると、やはりそれが正解の様だ。魔王に殺されたお陰で楔が取れるとか、此処はあいつに感謝しとくべきか?いや、無いな。殺されて喜ぶとかありえない。何より、あいつのせいで師匠や多くの人間が命を落としているのだ。あの糞野郎を唾棄だきする事はあっても、感謝など論外である。

「あの……その……ひょっとして……勇者様は自力で解いた……のですか?」

 エイナスがオドオドしながら聞いて来る。セーフティーが効くかもという僅かな希望も吹き飛ばされ、彼女の顔色は今や真っ青だ。

 何せ効かない所か、解除されていてる訳だからな。もはや打つ手なし。彼女からすれば、丸腰でライオンの前に立ってる様なものだろうし、さぞ不安な事だろう。

 まあ取りあえず、これでセーフティーの心配はもうない。

「そうなるな。まあいい。それで?お前さんは俺に何を頼もうとしてたんだ?」

 俺は視線をあっちこっちへとやる、挙動不審なエイナスに改めて用件を尋ねた。

 確認のために断りはしたたが、話自体は最初から聞くつもりだったからな。この国の王家が、勇者である俺に何を求めているのか知っておいても損はない。

 もちろん、話を聞くだけで頼みごとを受ける気はさらさらないが。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...