上 下
18 / 52

第18話 vs勇者①

しおりを挟む
 そのままオーラで飛んでディバイン教会に向かう訳にも行かないので、俺と師匠は街の手前で一旦降り、街中を通って教会へと向かう。

「——っ!?」

「なんだ?」

 街中を教会に向けて素早く走り抜けていると、急に背筋に寒気が走った。師匠も何か感じている様なので、勘違いという事は無いだろう。俺は嫌な感じのする方角。進行方向の上空へと視線を向ける。

 ――そこには空を飛ぶ人影があった。

 それが弧を描く形で、俺達の目の前に降って来た。ドーンという音が響き。山の様な巨体の大男が、勢いで石畳に足をめり込ませる形で着地する。

「……」

「何だこいつは……」

 大男から目が離せない。その巨体に、空から降ってきて足が地面にめり込むインパクトのある登場というのもあるが……それ以上に、相手から感じる異質な気配に視線が釘付けになってしまう。

「まじかよ……こいつ勇者だぞ」

「勇者……」

 師匠の言葉に、俺は咄嗟に鑑定魔法を発動させる。

 ――クラス【勇者】

 確かに師匠の言う通り、鑑定にはハッキリ勇者とでている。つまりこいつが新しく召喚された勇者という訳だ。だが何故急に空から降って来た?意味が分からない。

「おまえ……たちの……ちからを……みせてみろ」

 勇者の口の端が、楽し気に歪む。

「「——っ!?」」

 まるで大型の肉食獣に狙われたかの様な感覚に、俺は腰に帯ていた剣を迷わず引き抜いた。相手はやる気だ。師匠も俺と同じ物を感じたのだろう。剣を引き抜き、勇者に向けて真っすぐに構えている。

「では……いくぞ」

 奴の踏み出しに、轟音と共に石畳が破裂した。そしてその姿は一瞬で俺の目の前まで迫る。とんでもないスピードだ。確実に俺よりも早い。

「ふん……」

 突進して来た勇者の、無造作の大ぶりな一撃。技術も糞もない、スキだらけにも程がある一撃。だがそんな攻撃も、とてつもない身体能力から繰り出されれば回避は難しく、容易く命を奪う刃となる。

 それを手にした剣で受けるが――

「くっ……」

 ――圧倒的なパワーによって、踏ん張りがきかず吹き飛ばされてしまう。

 俺はそのまま近くの家屋に背中から突っ込んだ。

「なんてスピードとパワーしてやがる……」

 幸いダメージは大した事がなかった。だが、アレを倒せるビジョンが全く思い浮かばない。師匠と二人がかりでも正直怪しいレベルだ。とにかく身体能力がやばい。

 ――そう、純粋な身体能力。

 奴からはオーラを一切感じられなかった。強化無しであの動きは、本当に人間かと疑いたくなる。

「あれが勇者……か」

 呼び出されたばかりであの強さ。成程。そりゃあの三人が俺をハズレ扱いするのも頷ける。しかし、なんであいつは急に俺達に襲い掛かって来たんだ?意味不明にも程があるぞ。

「あ……あ……何が?」

 家屋を押しのけて立ち上がると、呆然と倒壊した部分を見つめる女性と子供の姿が目に入った。

「ここは危険だ!さっさ逃げ――っ!?」

 逃げろと警告しようとしたが、それが伝わるより早く彼女達が砕け、バラバラになった体が血をまき散らしながら吹き飛ぶ。

 外から飛び込んで来た勇者の巨体に轢かれて。

「あ、ああ……」

 殺した?嘘だろ?勇者が女子供を殺すとか……だって勇者だぞ?それなのに、あいつはそれを気にもせずこっちを見てて……笑ってやがる。こんなのが……こんなのが勇者だってのか?

「おれを……たのしま……せろ……」

「て…………テメェ!」

 殺されたのは、俺にとって何らかかわりのない人間だ。それでも、目の前で人が殺されて冷静でいられる訳もない。頭に血が上った俺は剣にオーラを込めて渾身の一撃を振るう。

 それは勇者の首筋に決まり――そして折れた。

「うそ……だろ?」

 防がれた訳ではない。完璧に首筋を捕らえ。そしてその上で、切り裂く事が出来ずに剣が折れた。まるで現実感のない光景に、思わず呆然としてしまう。

 確かに相手は強い。そこは疑いようがない。だが、渾身の一撃で傷一つ付けられないとか……

 ――それはもう、戦いにすらならない事を意味していた。

 俺は天才で。しかも一年半もの間、血の滲むような努力をして来たんだぞ。それが全く通用しないとか……

 いくらなんでも。

 いくら何でも理不尽すぎるだろうが!

「むん……」

 間合いを詰めた勇者の拳を腹に叩き込まれ、俺は成すすべなく吹き飛んだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき
恋愛
初代国王と7人の偉大な魔法使いによって建国されたルクレツェン国。そこには世界に誇る有名なルクレツェン魔法学園があった。 非魔法族の親から生まれたノエルはワクワクしながら魔法学園に入学したが、そこは貴族と獣人がバチバチしながら平民を見下す古い風習や差別が今も消えない場所だった。 ヒロインのノエルがぷんすかしながら、いじめを解決しようとしたり、新しい流行を学園に取り入れようとしたり、自分の夢を追いかけたり、恋愛したりする話。 ーーーー 7章構成、最終話まで執筆済み 章ごとに異なる主人公がヒロインにたらされます ヒロイン視点は第7章にて 作者の別作品『わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました』の隣の国のお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...