天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一

文字の大きさ
上 下
7 / 52

第7話 けち臭い

しおりを挟む
「なんだ?練習しなくていいのか?」

「どうせそんな直ぐにできるもんじゃないんだろ?一人で気長にやるよ。だいだい爺さんに指導してもらうと、追加料金を取られそうだしな」

「ちっ、勘のいい奴だ」

 段階別習得方法を聞いた俺は、実際に訓練する事無く、爺さん達の見えない離れた場所へと移動する。ここへ来たのは元々魔法を試し打ちする為だ。まずは、以前爺さんに見せて貰った物と同じ属性の基礎魔法を使ってみる。

「クリエイトウォーター」

 魔法陣を思い浮かべ、その中に魔力を込める。すると俺の右手から水が溢れ出す。

「量は大体2リットルぐらいか」

 爺さんの時もそれぐらいだったので、やはり増幅のかかっていない基礎魔法の威力は統一されている様だ。次に土、風、火と発動させていく。

「大体分量的には全部一緒ぐらいか」

 風や火には質量はないが、まあもし体積を測れたとしたら同じぐらいだと感覚的に把握する。

「じゃあ次は初級魔法を使おう」

 魔法陣を同時に二つイメージして魔力を流し込み、水魔法を発動させようとして――

「ありゃ、基礎魔法になっちまった。順番にやらないとやっぱ駄目なのか?いや、まだそう決めるのは早計だな」

 次は同時ではなく、魔力が満ちるタイミングを輪唱の様に少しずらしてみた。まずは属性、ついで推進の魔法陣の順になる様に。

「お、出た。けど……外れちまったな」

 魔法は見事発動。水の塊が高速で前方に飛んでいくが、狙った木を外れて別の木に当たってしまった。

「掌の中心点の真正面に飛ぶわけか。もう一発――よし」

 次は一度目の経験から調整を加え、魔法を狙った木にあてる事に成功する。

「にしても、初級でも中々の威力だな」

 的となった木に近づい確認すると、水の塊が当たった木の表皮が大きく抉れているのが分かる。この時点で普通の人間だったら一発ケーオー物の威力だ。

 ……発射までの手順を頑張れば、コンマ1秒以下に縮められそうだから、この魔法の連打だけで地球では余裕で無双出来そうだな。一発で消費した魔力は総量に対して微々たる物で、1000発ぐらいは余裕で打てそうだし。

「こら!何やってんだ!」

 そんな事を考えていたら、爺さんが血相を抱えて此方に走って来た。どうやら水の魔法が木に当たった大きな音に驚いて、こっちにやって来た用だ。

「いや、昨日魔法ギルドで覚えた魔法を試し打ちしてみようと思って」

「おいおい、木が偉い事になっちまってるじゃねぇか。ここはこの街が管理してる場所なんだぞ。こんな所で木に向かって魔法なんて撃つんじゃねぇよ」

 管理されているのだから、生えている木を破損させるのは当然不味い。考えてみれば至極当たり前の事なのだが、どういう訳だか、俺の頭からそういった常識がすっぽり抜け落ちてしまっていた。

 どうも異世界だから、その辺りはアバウトだろうと勝手に思い込んでしまっていた様だ。勇者がタンスの中身を漁って盗むのが当たり前的な。こういうのをゲーム脳と言うのかもしれない。

「すいません」

「俺に謝ってもしょうがねぇぞ。まあだが俺も鬼じゃねぇ……分かるよな?」

 そういって爺さんは嬉しそうに掌を差し出す。黙ってて欲しかったら金を寄越せと言う事だろう。態々走って来たのは、ひょっとして驚いたのではなく、金になると思ったからか?そんな気がしてならない。

「分かったよ」

「毎度あり」

 仕方ないので爺さんに100ボルに握らせる。正義漢溢れる人間なら素直に自分の過ちを認めて御用になるんだろうが、俺はそこまで清廉潔白じゃないからな。ましてやここは異世界。少額の賄賂で済むのなら、迷わずそっちを選択するってもんだ。

「ああ、そうだ爺さん」

「ん?」

「爺さんって初級以上の魔法も使えるんだよな?だったら初級以上の魔法陣を教えてくれないか?金は払うからさ」

 一応、自称魔法の腕も立つ凄腕の冒険者だったらしいからな。まあ話半分だったとしても、魔法ギルドに置いてあった基礎関連以上の魔法ぐらいは使えるはず。なら、爺さんから魔法陣を習うのがてっとりばやい。そう思って頼んでみた。

「ああ、そりゃ無理だ」

「なんでさ?」

 ひょっとして、魔法ギルドにあった魔法以上は使えないって事だろうか?そうだとしたら話半分どころではないな。

「魔法陣は特殊な処理を施された紙じゃないと、書き記せないからな」

「え?そうなの?」

 凄く嘘くせぇ。

「嘘だと思うなら、そこにお前の覚えた魔法陣を書き記して見な」

 俺の考えを見抜いたのか、爺さんが地面を指さす。俺は半信半疑ながらも、言われた通り地面に魔法陣を描こうとして――

「——マジかっ!?」

 ――魔法陣を書く事が出来なかった。

 記憶の中の魔法陣の形を描こうとして、何故か指先が勝手にグニャグニャと蛇行して訳の分からないラクガキに変わってしまう。

「どうなってるんだ、これ?」

「魔法は元々、魔法を司る神様から人間に与えられた力でな。勝手に広められない様、特殊な紙じゃないと書き起こせない様になってるんだよ。いわゆる神の禁制って奴だ」

「そうなのか……」

 神様の力か……

 普段なら、神どうこう言われても胡散臭いとしか思わなかっただろう。だがここは異世界で、それも禁制に実際に触れた身としては納得せざる得ない。

 神様にしてはけち臭い事だな……

 いやまあ、他の影響で実際は神様関係ない可能性もあるけど。

「本気で色々な魔法を覚えたいなら、王都にある魔塔に行くのが一番だな。まあ金は掛かるが」

「魔塔か……」

 心情的には余り近づきたくないと言うのが本音だ。何せ、魔塔の副塔主であるゴンザスが俺の召喚に関わってる訳だからな。

 まあ魔法を覚えに行って、そこで偉いさんに遭遇する確率はそう高くないだろうから大丈夫だとは思うが……

 だが、余計なリスクは可能な限り避けるに限る。なので、どうしてもという状況にならない限り、寄るのは止めておこうと思う。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...