天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一

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第3話 魔法

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 魔法ギルドは歴史を感じさせる古めかしい木造の、かなり大きな建物だった。

「……何か魔法が張ってあるみたいだな。それも何重にも」

 建物に複数の魔法が張られている事を、全体を覆い尽くしている魔力から俺は察する。これも爺さんが魔法を見せてくれたお陰だ。それ以前だったなら、違和感すら感じ取れ無かった可能性が高い。認識の有無は偉大だ。

「まあ見てても仕方がない。入るか」

 ドアを開けて中に入ると正面にカウンターがあり、そこには片メガネの、神経質っぽい男性が座っていた。それ以外、周囲に人影はない。

 ……人のいない時間帯か、もしくはこのギルド自体が閑古鳥なのか。まあそんな事はどうでもいいか。

 魔法ギルドの繁盛具合など、この世界に来たばかりの俺にとってはどうでもいい事である。

「魔法書を閲覧したい?ふむ……一時間1000ボルになる」

 男性に魔法書の閲覧を申し込むと、一時間1000ボル――ボルはこの世界での金銭の呼称――と告げられる。

 1ボル10円ほどの物価水準なので、つまり閲覧には一時間一万円かかる事になる。買うのではなく見るだけと考えると、かなり高い。まあ魔法書がそれだけ貴重と言う事なのだろうが。

「う……かなり高いですね。もう少し負けて貰えませんか?」

「残念だが、値引き交渉は一切受け付けていない。出せないのなら諦めたまえ」

 値下げをちょっと訴えてみたが、ばっさりと切り捨てられてしまう。

 値切りとか、家が金持ちの癖にけち臭い?

 まあ確かに。だがここは見知らぬ世界で。今の俺の所持金は革袋の中に入っている物のが全てだ。無駄遣いを避けたいと考えるのは当然の真理だろう。

 それにそもそもとして、俺は無駄遣いとかを一切しないタイプだったりするし。

「分かりました」

 断りの声が余りにも事務的で値段交渉は無理と判断した俺は、革袋から1000ボル取り出し素直に支払った。大きめの出費なので、精々元を取らせて貰うとしよう。

 まあその元がどの程度なのか、この世界に来たばかりの俺には知り様もない訳だが……ま、天才だから少なくとも損をする事は無いだろう。何せ超が付く程学習能力が高いからな。俺は。

「こっちだ。付いてきたまえ」

 男性に促され、俺は奥の扉に案内される。そこはちょっとした図書館の様な場所で、蔵書量は万近くあるのではという規模だった。

「全部魔法書……な訳ないか」

 もしそうだとしたら、とんでもない量の魔法がこの世界に存在している事になる。魔法の事については完全に素人だが、流石にそれは無いだろうという事は容易に想像できた。

「大半が研究資料や、各国の歴史が刻まれている書籍等だ。目録はそこのカウンターにある。見たいものはそれで探して見つけるといい」

「分かりました」

 目録があるのは助かる。これだけの書物の中から、魔法書を自力で探すのは骨だからな。

「言っておくが、魔法ギルドのセキュリティは完璧だ。本を盗んだり、破損させると直ぐに分るからな」

 大きな建物にも拘らず職員が全く見当たらないのは、魔法的な何かが色々な事を担っているための様だ。流石は、魔法を取り扱うギルドだけはある。

「肝に命じときます」

 来たばかりの世界で揉め事を起こす程、俺も馬鹿ではない。余計なことはせず、静かに魔法書を読み漁るさ。

「すくな……」

 俺は目録に目を通して顔を顰めた。これだけの蔵書の中、魔法書がたったの四冊しかなかったからだ。想像よりずっと少ない。

「まあ不満を言っても仕方ない。取り敢えず、四冊分暗記するとしようか」

 まず手に取ったのは火属性の魔法書だ。最初のページ――目次を見ると、基礎と初級と中級の三種類が乗っている事が分かる。基礎だけじゃなくて良かったと考えつつ、俺は基礎のページを開いた。

「基礎は属性を司る魔法陣を覚えるだけでいいのか。まあ10秒もいらんな」

 魔法陣は複雑な図形をしていた。文章などと違って、図形の暗記は時間がかかる物だ。なので、普通の人間なら覚えるのに十分ニ十分と時間がかかった事だろう。だが俺は違う。天才にとってこれぐらいの暗記は楽勝である。ものの十秒足らずで、俺は図形を完全に暗記してみせた。

「なになに……魔法の発動位置は自分の視線が届く肉体の近辺付近のみ、か」

 どうやら視線の届かない背後なんかを起点に、魔法を発動させる事は出来ない様だ。で、発動位置は意識しない場合は大抵の場合自然と利き腕の掌になるが、ちょっと意識を向ければ別の場所へと移す事が可能である。と、本には書いてある。

「次は初級……」

 ページを開くと、基礎とは全く違う形の魔法陣が描かれていた。

「なるほど。これは推進系の魔法陣か」

 基礎は属性——水や火を生み出す。初級はそれに進む力を与える事で、対象に飛ばす事が出来る様になる様だ。

「まずは推進の陣を思い描いて魔力を込めて、次に属性の陣か」

 魔法を発動させる場合、まずは推進、それから属性に魔力を込めて発動させる必要があった。これを逆にしてしまうと、属性に魔力を込めた時点で魔法が発動してしまうためだ。

「同時にやってもいいっぽいけど、難易度は高くなる……と。まあ俺は記憶力が抜群だから同時でも余裕だろうけど」

 推進の魔法陣を暗記し、試しに属性と合わせて同時にイメージしてみる。むろん天才なので楽勝。ああ、もちろん魔力は込めないぞ。図書館内で魔法なんか出したら絶対不味いからな。さっきの男にも注意されてるし。

「しかしこの推進の陣が一個って事は、魔法は前方にしか飛ばせないって事か?いや、そんな訳ないよな」

 恐らく、陣次第で色んな方向に飛ばす事も出来るようになる筈だ。単にこの本には載っていないだけだろう。基礎系の魔法書っぽいしな。

「中級は増幅陣か」

 三つ目の陣は魔法を増幅させる陣だった。これを使って威力を上げた物が中級魔法扱いになる様だ。この陣は魔法の許容量が大きい様で、どの程度魔力で満たすかを調整できると書いてある。

 これまでの陣は完全に魔力を満たす必要があったが、これは特殊な様だ。当然満たした魔力の量で、魔法の威力が変わる事は言うまでもないだろう。

 暗記して、三つ同時に頭の中に思い浮かべてみた。当然天才なので三つでも余裕である。

「火は終わったし、次は土属性の魔法書を――」

 土の魔法書の陣も、書いている事はほぼ同じ。違うのは最初の属性陣の形だけ。そのため先に他属性を覚えている場合、覚える必要がある陣は一つだけになる。俺はそれをサラッと暗記し、ついで風、水と習得して行く。

「ふむ……一時間所か、十分程で十分だったな。早く出たらキャッシュバックが……ある訳ねぇよな」

 目的は果たした訳だが、時間を余らせて帰るなんて勿体ない真似をする気はさらさらない。専門知識の塊である研究資料なんかはちょっと齧った程度で役に立つか怪しいので、俺は目録から歴史書を探して目を通した。この辺りは知っておいても損はないはずだ。

「時間だ」

 歴史書を読みふけって時間を潰した俺は、さっきの男がやってきた所で本を閉じた。
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