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第26話 もう終わってます

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ヴァンパイアの存在は、極最近判明した事らしい。
元からそこにいたのか、それともどこかからやって来たのかまでは分からない。

そいつはカナン領の南部にある、人里離れた森の中に屋敷を立てていた。

発見したのは冒険者だ。
偶々依頼で森にいる魔物の狩をしにきて、そこには本来存在しないはずの多数のワーウルフと遭遇した事でその事が発覚する。
ヴァンパイアは自身の住処を守るため、周囲に配下のワーウルフを放つのが常であるため、一目瞭然だった。

報告を受けたカナン領主は、冒険者ギルドにヴァンパイア討伐の依頼を出す。
領内の安全を守る為に。

自分の騎士達を動かさなかったのは、屋敷の防備や都市の治安などを考えての事である。
小規模である男爵家の騎士団では、それらを維持するので手一杯なのだ。

程なくして、金級を含めた冒険者による討伐隊が編成される。
そこに投入された戦力は、ヴァンパイア討伐と考えても過剰な程だった。
そのため、誰もが成功の知らせが届くとばかり思っていた。

だが蓋を開けてみれば、討伐は失敗。
参加した冒険者の半数が命を落とす結果となっている。

そしてその事から、南部のヴァンパイアは真祖であると断定された。
普通のヴァンパイアレベルでは、冒険者ギルドが過剰気味に用意した討伐隊を返り討ちにするななどありえない事だったからだ。

その知らせを受けた領主のグレートは、自分達だけでは対処不能だと判断し、王国に討伐依頼を申請する。
だがカナン領は王国の辺境に位置し、優秀な騎士を遠征するには色々と問題があった。
そのため国は派兵を渋り、真祖であるヴァンパイアは放置される形となってしまう。

「本来は、こんな事を頼むつもりではなかったのだが……君の話をケインさんから聞かされてな。とんでもなく腕が立つという、その実力を是非とも貸してもらいたいのだ」

困り切っていた所に、妻に顔を見せる為にペイレス家の人間が騎士を連れてカナン領へとやって来た。
勿論彼らの仕事は護衛であり、魔物の討伐ではない。
そのため自領の都合で命を賭けて貰う訳にはいかないのだが、冒険者として付いて来た俺なら話は別だった。

「勿論、可能な限りの兵力は出すつもりだ。報酬も弾む。だから頼む」

グレートさんはそう言って頭を下げた。
彼は男爵で、貴族としては身分が高い方ではない。
だがそれでも貴族が平民に――セーヌ達は俺の出自は言っていないはず――頭を下げるのは余程の事だ。

それだけ真祖の事で、頭を悩ませているという事だろう。

だが、その仕事を引き受ける訳にはいかない。
というか、引き受けようがない。

何故なら――

「その事なんですが、ヴァンパイアでしたらもう討伐済みなんで……」

「へ?」

「冒険者ギルドに報告したのが今朝なので、まだ領主様の所に報告が届いてないんだと思います。南の森に住み着いていた真祖なら、もう討伐済みですので安心してください」

他の森に他の真祖がいるのなら話は別だが、同じ森に二人いたとは流石に考えられない。
領主の言っているのはガーグ・スイスイマーで間違いないだろう。

その事には早々に気づいてはいたのだが、途中でそれを伝えなかったのは、目上の相手の話は遮らないのが貴族的な礼儀だったからだ。

「……それは本当かね?」

グレートさんは信じられないといった様な顔で、俺をじっと見つめて来る。
周りの人間も皆同じ様な反応だ。
まあ厄介な仕事を頼んだらもう終わってましたたとか、すんなり受け入れられないのも無理はない。

「ええ。ギルドに確認して頂ければ直ぐにわかるかと」

「閣下、急いで確かめに行ってまいります」

「うむ」

男爵の言葉に自信満々に俺が返すと、騎士らしき人物が席を立って部屋を出て行く。
しばらく時間がかかるかとも思ったが、だが出て行った騎士はすぐに返って来た。

「確認出来ました。シビック殿が討伐された様で間違いありません」

この短い時間で確認できたという事は、丁度ギルドから報告が届いいたとかそんな感じなのだろう。
出なければこの騎士が神がかり的な俊足か、瞬間移動系のユニークスキルを持っているかだ。

ま、流石に後者はないか。

瞬間移動はかなり稀少なユニークスキルだ。
辺境の一騎士が持っているとは流石に思えない。

因みに、ジョビジョバ家の現当主であるグンランは、瞬転というユニークスキルを持っていた。
何の前触れもなく短距離を瞬間移動するという能力だ。

これが戦闘において、とんでもない力を発揮するスキルだったりする。
何せいきなり消えて背後に現れたりする訳だからな。
余程うまく対処できなければ、それだけで決着がつきかねない程強力だ。

「そうか。いやまさか本当に依頼する前に終わらせていたとは、君には何とお礼を言っていいやら」

「お気になさらずに。俺は冒険者として仕事を受けただけですので」

十分な報酬も得ているしな。
あの黒い球の価値は、お金に変えられない物がある。

「謙虚な男だ。うむ、気に入った!シビック君、君さえよければ家で騎士になる気はないか?」

「いえ、それは申し訳ないのですが……」

誘って貰えるのは有難いが、何処かの家に仕えるのは実家との確執的にアウトだ。
それを気にしないでいいのなら、ペイレス家からの打診を貰った時点で受けている。

「そうか、残念だ。まあ気が変わったならいつでも言ってくれ」

断られたからと言って、グレートさんは気を悪くした様子はない。
ムキムキマッチョな見た目通り、細かい事は気にしない豪快な人物の様である。

「シビック。グレイが貴方に凄く会いたがっていたわ。この後時間があるなら、顔を見せてあげて」

館について直ぐに仕事を受けたたため、グレイとはもう一週間ほど顔を会わせていなかった――俺の休みの間はイーグルが変わりに剣を教えている。

「分かりました」

俺はセーヌと一緒に、グレイに会いに行く事にする。
イーグルが睨んできたが、そこは気にしない。
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