上 下
25 / 27

第25話 呼び出し

しおりを挟む
「いるなら何故さっさと出て来ない!」

ドンドンうるさいので扉を開けると、イーグルが不機嫌そうに怒鳴り声をあげる。
騎士とは思えない酷い態度である。

どうも、何か凄く嫌な事があったって感じだな。
その苛立ちを俺にぶつけているのだろう。

まあ取り敢りあえず――

「間に合ってます」

失礼な態度に少しイラっと来たので、扉を勢いよく閉めてやった。
勿論施錠も速攻でかける。

「あ!扉を閉めるな!」

慌ててガドアノブをチャガチャ回し、イーグルがキャンキャンと叫ぶ。
安普請やすぶしんの建物ならいざ知らず、造りのしっかりしている貴族の客館のドアノブを奴の腕力でこじ開けられる心配はないだろう。

まあ世話になってる貴族の建物を騎士が壊すとか論外なので、仮に出来ても流石にやらないとは思うが。

「俺は大まじめだよ。礼儀のなっていない様な奴と、交わす言葉はない」

俺は別にイーグルの部下じゃないからな。
不機嫌な奴のストレスの矛先になってやる謂れなどなかった。
態度を改めるまで、ちょっと放置しておく事にする。

まあケインさん達なら、少しぐらい遅くなっても怒ったりはしないだろう。

「くっ!ふざけるな!カナン男爵様がお前をお呼びなんだよ!」

「カナンの領主が?」

てっきりペイレス家の人達からの用事だと思ったのだが、どうやら違った様だ。

しかし解せん。
カナン男爵はこの館に到着した際、遠目にちらっと見たぐらいで、特に俺と面識のない人物だ。

セーヌ達ならともかく、カナンの領主である人間が態々俺を呼び出す理由などないはずだが……
まさか、元ジョビジョバ家の人間だと知って接触しようとしてるとか?

いや、それはないな。
家で死んだ扱いになってる俺と接触したって、基本良い事はない。
何より、いくら親戚筋とはいえ、セーヌ達が俺の身元をべらべら勝手に他人に話すとは思えなかった。

「そうだ!だから早く出て来い!」

「やれやれ」

嫌がらせの時間稼ぎは止める。
まあ客館の一室を好意で使わせて貰ってる相手でもあるし、よく知らない貴族を待たせるのもあれだからな。

扉を開けて外に出ると、イーグルの奴が睨みつけて来た。

「まったく。手間をかけさせるな」

「どうでもいいけど、お前は護衛団の副長だろうに?なんでそのお前が、こんな使いっぱしりみたいな真似をしてるんだ?」

そもそもペイレス家の騎士がって部分もあるが、そこはセーヌ達もその場にいるんだろうと予測できる。
そういう分り切っている事を、一々質問する気はなかった。

「サイモン団長の命令だ……出なければ、俺が態々お前を呼び出しに出向いたりする物か」

サイモンさんか。
護衛団の長の命令なら、まあ断れないわな。
多分無理やり押し付けられたから、こいつの機嫌が悪いのだろう。

態々イーグルを寄越したのは、嫌いな人間と接する事で人間的成長でも促そうって魂胆だろうか?

だとしたら、全く効果は無さそうな訳だが。
出来の悪い部下を育てなきゃならないから、あの人も大変だな。

「で?どこに行けばいいんだ?」

「ついて来い」

客館を出て、訓練場の様な場所を抜ける。

屋敷は敷地面積を含め、辺境の男爵家にしてはかなりの規模と言える物だ。
勿論上位貴族であるジョビジョバ家やペイレス家に比べれば小さくはあるが、男爵家という家格を考えると、護衛としてやって来た従者三十名を丸々住まわせる兵舎を持ち合わせているだけでも大した物だと言わざるを得ない。

「お入りください」

裏口から屋敷に入った俺は、大階段を昇った先に案内される。
中は広々とした会議室の様な場所で、ケインさんにセーヌ、それにサイモンさんを含めた6名が席についていた。

恐らく、一番奥に座っているムキムキの中年男性がこの屋敷の主、カナン男爵だろう。
他の二人は、見た目からお抱えの騎士と魔法使いだと思われる。

「シビックを連れてまいりました」

「ああ、イーグル君。ありがとう」

「お初にお目にかかります。カナン男爵」

失礼のない様、丁寧にお辞儀しておいた。
これでも元貴族だからな、礼儀作法は弁えている。

「よく来てくれた。私はカナン領を収める、グレート・カナンだ。ここに君を呼んだのは他でもない。実は君に頼みごとがあってな」

「頼み事……ですか?」

「うむ。カナン領の治安に関する重要な事だ。是非君に引き受けて貰いたい」

「取り敢えず、お話をお伺いしても宜しいでしょうか」

カナン領主に仕える騎士なら、内容など関係なく即了解していただろう。
彼らは主の為に命を賭けるのが仕事である以上、断るという選択肢自体が無いからだ。

だがこっちは只の冒険者である。
話も聞かず、良く分からない仕事にオッケーなど出す訳にはいかない。
当然返事は話を聞いてからだ。

「ふむ、それもそうだな。では、空いている席にかけてくれ。説明しよう」

セーヌがここにどうぞと、自分の直ぐ隣を勧めて来た。
俺が元貴族だと分かっているからこその行動だろう。

まあ貴族席って奴だ。

チラリとイーグルの方を見ると、そんな事を知らない彼は、此方を睨んでこめかみをひくひくさせていた。
凄く分かりやすい反応だ。
にも拘らず、セーヌはそんな彼のあからさまな様子に全く気付いていない様だった。

ひょっとして彼女、天然なのだろうか?

イーグルも厄介な相手に惚れた物だと、少し同情する。
身分の差所か、自分の気持ちにすら中々気づいて貰えていない訳だからな。

ま、他人の色恋なんざどうでもいいか。

俺はセーヌに勧められた席に着く。
イーグルはサイモンさんの横だ。
全員が席に着いた所で、グレートさんが重々しく口を開いた

「実はカナン領の南部に、最近ヴァンパイアが住み着いてしまったのだ」

ヴァンパイア?

どうやら、ガーグ・スイスイマー以外にもいた様だ。
まあ奴は真祖なので、独り立ちした配下が周囲に散っていてもおかしくはない。

俺はそんな風に考えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スキル【心気楼】を持つ一刀の双剣士は喪われた刃を求めて斬り進む!その時、喪われた幸福をも掴むのをまだ知らない

カズサノスケ
ファンタジー
『追放者の楽園』 追放された者が逆転するかの様に名を成し始めた頃、そう呼ばれる地があるとの噂が囁かれ始めた。流れ着いた追放者たちは誰からも必要とされる幸せな人生を送っているらしい、と。 そして、また1人。とあるパーティを追放され、噂にすがって村の門を叩く者がいた。その者、双剣士でありながら対を成す剣の1つを喪ってしまっていた……。いつ?なぜ?喪ったのか、その記憶すら喪われていた。しかし、その者は記憶の中にある物を実体化出来る特別な能力【心気楼】を有していた。その力で記憶の中から抜刀する、かりそめの双剣士『ティルス』は1人の少女との出会いをきっかけに喪われた双剣の一振りを取り戻す旅に出る。その刃を掴む時、その者は喪われた幸福をも掴み取る。 ※この作品は他サイトにも掲載しております。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...