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第24話 チェック
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「救って貰った恩には必ず報いるわ」
「私達の力が必要なら、これで呼んでね」
ローズ姉妹はそう言って、別れ際に俺に小さな木の笛を渡して来た。
これを吹くとどれだけ距離が離れていようとも、彼女達に俺の位置が届くマジックアイテムらしい。
転移魔法の展開には――姉妹で力を合わせれば扱えるそうだ――半日かかるそうなので、即時という訳にはいかないそうだが、吹けば何を置いても俺の元に駆け付けてくれるそうだ。
玉を貰ってるから、気にしなくていいとは言ったんだがな……
それでも必ず恩返しがしたいと、ローズ姉妹に押し付けられてしまった。
ま、有難く貰っておくとしよう。
彼女達の力を借りる様な事態なんて、そうそうないだろうとは思うが。
「10秒で1か月って所か……」
俺はセーヌ達の滞在期間中、カナン邸内にある客館に寝泊まりする事が許されていた。
国に女性達の保護申請をして――呪いはちゃんと解いてある――依頼終了の報告をギルドに澄ました後、俺は用意されたその部屋へと戻って来ている。
そこで早速試してみたのだ。
例の玉――デモンズハートの力を。
10秒で1か月というのは、体から生命力が抜ける感覚から持っていかれる寿命を推測した物だ。
多少の誤差はあるだろうが、そこまで大きな差異はないと思う。
「くくく……俺のスキルを封じて契約を解除するとはな、小賢しい奴だ。だが嫌いじゃないぞ」
相手の意図を無視してオンオフ出来てしまう事に、玉に宿る小さな悪魔――ベシアスは特に不満を持っていない様だった。
これが人間同士の契約なら憤慨ものな訳だが、どうやら悪魔の精神構造は人間とは違う様だ。
「ところで、俺の筋肉は全然膨らまなかったんだが?」
玉に魔力を流し込み、ベシアスと契約をして力を得る。
それで得られる力は、予想通り強力な物だった。
だがローブの男――ガイゼンが力をつかった際はムキムキマッチョな体に変化していたにも関わらず、何故か俺にはそう言った身体的変化が起きなかった。
ついでに言うなら、全身から黒いオーラが吹き出したりもしていない。
「あの男は肉体が虚弱だったからな。筋肉を無理やり発達させなければ我が力を真面に扱えなかったので、一時的に膨らんだだけだ。オーラが駄々洩れだったのも、それを受け止めきるだけの容量が無かったからに過ぎん」
「成程」
俺はジョビジョバ家で英才教育を受けているからな。
ベシアスの力を丸々受け止める下地があった訳だ。
「くくく。貴様のその能力と強さ。そこに我が力が加われば、正に最強の名をほしいままに出来るだろう」
「いや、絶対無理だぞ?」
寿命の事があるから早々使わないと言うのもあるが、仮にそれを無視して力を使っても最強には届かないだろう。
「なんだと?」
「少なくとも……この国最強の剣士であるアグライ兄さんには、この程度じゃ話にならないだろうからな」
強力な力である事は認めるが、アグライ兄さんは疎か、長男であるグンランの方に勝てるかも正直怪しいレベルだ。
「そいつはそんなに強いのか?」
「ああ、別格だ」
異次元レベルのフィジカルを持つ次男のアグライ兄さんは、剣も体術も化け物レベルだった。
それに加え、ユニークスキル【英雄】も出鱈目な効果を持っている。
【英雄】――それは劣勢に陥ると発動するスキルだ。
発動すると全能力が倍加し、更に3分間ありとあらゆるダメージや状態異常――スキルなどの干渉も含む――を完全に無効化する効果があった。
これが発動している状態の兄を一対一で倒せる人間は、この国に――いや、この世界にはいないと断言していい。
「お前がそこまで言うのだ。相当なのだろう。それ程の力の持ち主ならば、是非とも命を頂きたい所だ」
ベシアスが目を細めて嫌らしく笑う。
見た目は小型で丸っこい姿なので油断しそうになるが、その邪悪な笑顔をみると「ああ、こいつは悪魔なんだ」と強く認識させられる。
「アグライ兄さん程強ければ、お前の力に頼る必要なんてない。諦めろ」
そもそも邪悪な力の籠ったマジックアイテムを、兄が使うとは思えない。
俺はもう貴族じゃないから遠慮なく使うけど。
「誰か来た」
部屋に近づいてくる気配を感じ、俺は素早く革袋に玉を押し込んで隠す。
邪悪な力が宿っている物なので、人に見られても良い事はないからな。
「シビックいるか!」
ドアがドンドンと乱暴にノックされ、外から不機嫌そうな声をかけられる。
それは護衛団の副長である、イーグル・ガルダンの声だった。
一体俺になんの用だ?
一瞬、無視してやろうかと考える。
客館に寝泊まりさせて貰っているとは言え、今の俺は勤務外だからな。
礼儀知らずの相手を無理にしてやる必要はない。
……ま、そう言う訳にもいかないか。
イーグルが態々来たという事は、間違いなくペイレス家関係の要件だろうしな。
「いるのは分かってるぞ!早く出ろ!」
更にガンガンと、力強く扉が叩かれる。
「やれやれ」
今にも扉が壊されそうな勢いだ。
俺は首を軽く竦めてから扉を開いた。
「私達の力が必要なら、これで呼んでね」
ローズ姉妹はそう言って、別れ際に俺に小さな木の笛を渡して来た。
これを吹くとどれだけ距離が離れていようとも、彼女達に俺の位置が届くマジックアイテムらしい。
転移魔法の展開には――姉妹で力を合わせれば扱えるそうだ――半日かかるそうなので、即時という訳にはいかないそうだが、吹けば何を置いても俺の元に駆け付けてくれるそうだ。
玉を貰ってるから、気にしなくていいとは言ったんだがな……
それでも必ず恩返しがしたいと、ローズ姉妹に押し付けられてしまった。
ま、有難く貰っておくとしよう。
彼女達の力を借りる様な事態なんて、そうそうないだろうとは思うが。
「10秒で1か月って所か……」
俺はセーヌ達の滞在期間中、カナン邸内にある客館に寝泊まりする事が許されていた。
国に女性達の保護申請をして――呪いはちゃんと解いてある――依頼終了の報告をギルドに澄ました後、俺は用意されたその部屋へと戻って来ている。
そこで早速試してみたのだ。
例の玉――デモンズハートの力を。
10秒で1か月というのは、体から生命力が抜ける感覚から持っていかれる寿命を推測した物だ。
多少の誤差はあるだろうが、そこまで大きな差異はないと思う。
「くくく……俺のスキルを封じて契約を解除するとはな、小賢しい奴だ。だが嫌いじゃないぞ」
相手の意図を無視してオンオフ出来てしまう事に、玉に宿る小さな悪魔――ベシアスは特に不満を持っていない様だった。
これが人間同士の契約なら憤慨ものな訳だが、どうやら悪魔の精神構造は人間とは違う様だ。
「ところで、俺の筋肉は全然膨らまなかったんだが?」
玉に魔力を流し込み、ベシアスと契約をして力を得る。
それで得られる力は、予想通り強力な物だった。
だがローブの男――ガイゼンが力をつかった際はムキムキマッチョな体に変化していたにも関わらず、何故か俺にはそう言った身体的変化が起きなかった。
ついでに言うなら、全身から黒いオーラが吹き出したりもしていない。
「あの男は肉体が虚弱だったからな。筋肉を無理やり発達させなければ我が力を真面に扱えなかったので、一時的に膨らんだだけだ。オーラが駄々洩れだったのも、それを受け止めきるだけの容量が無かったからに過ぎん」
「成程」
俺はジョビジョバ家で英才教育を受けているからな。
ベシアスの力を丸々受け止める下地があった訳だ。
「くくく。貴様のその能力と強さ。そこに我が力が加われば、正に最強の名をほしいままに出来るだろう」
「いや、絶対無理だぞ?」
寿命の事があるから早々使わないと言うのもあるが、仮にそれを無視して力を使っても最強には届かないだろう。
「なんだと?」
「少なくとも……この国最強の剣士であるアグライ兄さんには、この程度じゃ話にならないだろうからな」
強力な力である事は認めるが、アグライ兄さんは疎か、長男であるグンランの方に勝てるかも正直怪しいレベルだ。
「そいつはそんなに強いのか?」
「ああ、別格だ」
異次元レベルのフィジカルを持つ次男のアグライ兄さんは、剣も体術も化け物レベルだった。
それに加え、ユニークスキル【英雄】も出鱈目な効果を持っている。
【英雄】――それは劣勢に陥ると発動するスキルだ。
発動すると全能力が倍加し、更に3分間ありとあらゆるダメージや状態異常――スキルなどの干渉も含む――を完全に無効化する効果があった。
これが発動している状態の兄を一対一で倒せる人間は、この国に――いや、この世界にはいないと断言していい。
「お前がそこまで言うのだ。相当なのだろう。それ程の力の持ち主ならば、是非とも命を頂きたい所だ」
ベシアスが目を細めて嫌らしく笑う。
見た目は小型で丸っこい姿なので油断しそうになるが、その邪悪な笑顔をみると「ああ、こいつは悪魔なんだ」と強く認識させられる。
「アグライ兄さん程強ければ、お前の力に頼る必要なんてない。諦めろ」
そもそも邪悪な力の籠ったマジックアイテムを、兄が使うとは思えない。
俺はもう貴族じゃないから遠慮なく使うけど。
「誰か来た」
部屋に近づいてくる気配を感じ、俺は素早く革袋に玉を押し込んで隠す。
邪悪な力が宿っている物なので、人に見られても良い事はないからな。
「シビックいるか!」
ドアがドンドンと乱暴にノックされ、外から不機嫌そうな声をかけられる。
それは護衛団の副長である、イーグル・ガルダンの声だった。
一体俺になんの用だ?
一瞬、無視してやろうかと考える。
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礼儀知らずの相手を無理にしてやる必要はない。
……ま、そう言う訳にもいかないか。
イーグルが態々来たという事は、間違いなくペイレス家関係の要件だろうしな。
「いるのは分かってるぞ!早く出ろ!」
更にガンガンと、力強く扉が叩かれる。
「やれやれ」
今にも扉が壊されそうな勢いだ。
俺は首を軽く竦めてから扉を開いた。
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