44 / 48
43――手合わせ
しおりを挟む
「どうした、その程度か?」
帝国の役場には広い中庭がある。
そこで俺は皇帝の護衛であった四人の内一人と手合わせしていた。
皇帝――レイア・ガノッサに腕前を見せて欲しいと頼まれたからだ。
対戦相手は、護衛の中で最も高齢の人物だった。
白髪が目立つので、50代後半と言った所だろう。
だがその体つきは加齢による衰えを一切感じさせない鍛え上げられた物であり、その技量は圧倒的だった。
皇帝の護衛を務めるだけあって、とんでもない実力者だ。
他の5人も彼に近いレベルだと考えると、たった6人という少数にも頷ける。
「陛下は貴様を英雄と見込んでいる様だが、あの方は夢想家の毛が強い。貴様が紛い物であるなら、ここで貴様に引導を下す。そして剣は私が使わせて貰うぞ」
剣を合わせながら、相手が周囲に聞こえない程度の小声で脅しをかけて来る。
まあ確かに、今の俺が業魔の剣を使っても当てにならないと思うのは仕方がない事だった。
なにせ相手は相当手加減している様な有様だ。
これで俺に期待してたら、完全に頭のおかしい人物でしかない。
「く……」
力強く踏み込み、素早く剣をるう。
だがその全てを軽くいなされ続ける。
本当に手も足も出ない。
今俺が装着している宝玉は、サブにダークマターを付けた混合Lv10だ――これは常時取り込んでいる。ダークマター付きを紛失したらシャレにならないから。
ドラゴンスロットの方には、エルフの村で新調した宝玉、金剛Lv10と力Lv5の合成宝玉を身に着けていた。
倍率的には筋力が3,25倍。
それ以外は2,2倍に強化されている感じだ。
かなりの高倍率と言っていいだろう。
にもかかわらず、身体能力の面で俺は相手に圧倒されてしまっていた。
技量においては言うに及ばずだ。
相手も相当数な宝玉を身に着けているか。
そもとも根幹の能力差か。
どちらにせよ、今のままでは子ども扱いされて終わるだけだ。
仕方ない――ブーストを使おう。
全力を出し切る必要があるかどうかは分からないが、何も出来ずにやられるのはやはり悔しい。
それに皇帝には、報酬として闇の使徒の情報をおねだりしている。
少しはいい所を見せても罰は当たりらないだろう。
「ほう、何かあるようだな。隠し玉が」
雰囲気の変化を機敏に察知したのか、相手は後ろに跳ねて俺から間合いを離した。
その眼差しは鋭く、真っすぐに此方を見据えている。
どうやら向こうも本気を出す気の様だ。
「ええ、さっきまでとは違いますよ」
ブースト時、ドラゴンスロットの効果は4倍――暇な時に色々と調べてほぼ確定――になる。
しかも本来加算扱いの同種であっても、ブースト中は全てが乗算へと変わる仕様だ。
そのため、使用中はマスタリースロットの上限である4倍を大きく上回る力を俺は発揮する事が出来た。
それは正に絶大な効力と言っていいだろう。
ブースト発動時の倍率は、全ての能力が4,68倍。
パワーに至っては18,72倍まであがる。
他の能力はともかく、ことパワーに関しては今の俺の右に並ぶ物は居ないだろう。
ハッキリ言って、人外レベルだ。
「いきますよ!」
地面を強く蹴る。
極限まで高められた脚力は大地を爆発させ、俺の体を一瞬で相手の目の前まで運ぶ。
この勢いのまま剣を振ってもいいのだが、それだと多分相手を殺してしまう。
俺は一旦足でブレーキをかけ、相手の目の前で止まる。
「ふっ」
一瞬動きの止まった所に、横薙ぎの一撃が飛んできた。
俺は膝を深く曲げてしゃがみ込む様にそれを躱し、その姿勢のまま剣を振るう。
相手の手にした剣に向かって。
「なっ!?」
不自然な恰好から繰り出される無理やりの一撃。
普通なら全くパワーの乗るはずのないその攻撃は、俺の出鱈目な筋力によって渾身の破壊力へと変わる。
低い位置から振るった俺の剣が、相手の剣をかち上げる形で接触。
だがその剣は弾かれる事無く粉々に砕け散った。
「はっ!」
俺は姿勢を一瞬で戻し、手にした剣の切っ先を相手の喉元に付きつける。
これで勝負ありだ。
「参った。完敗だ」
これがプライドの高い頑固爺だと「今のはまぐれだ!認めん!もう一度勝負しろ!」とか言い出しそうではあるが、流石皇帝に直接使える護衛だけ会って潔い。
「先程は失礼な事を口にした。どうか許して頂きたい」
「気にしてませんよ」
本気で殺しにかかられてたら憤慨物だったが、明らかに言葉による脅しだけだったからな。
それだって、俺の本気を引き出す為の物だ。
それが分からない程俺も馬鹿ではないさ。
「見事よ、カオス。帝国屈指の実力者であるガープスを圧倒するなんて、流石は私の将来の伴侶だけはあるわ」
皇帝は満面の笑顔で此方へとやって来る。
俺の強さに満足してくれた様だ。
「お誉めに頂き、有難うございます」
将来の伴侶の部分は敢えてスルーしておく。
正式なお断りは、厄災討伐後で構わないだろう。
まあそこで揉める様なら、闇の使徒の情報を頂いた後に転移でトンズラするまでの事。
最悪厄災さえ倒せていれば、相手も国を挙げての指名手配なんて無茶はして来ない筈だ。
帝国の役場には広い中庭がある。
そこで俺は皇帝の護衛であった四人の内一人と手合わせしていた。
皇帝――レイア・ガノッサに腕前を見せて欲しいと頼まれたからだ。
対戦相手は、護衛の中で最も高齢の人物だった。
白髪が目立つので、50代後半と言った所だろう。
だがその体つきは加齢による衰えを一切感じさせない鍛え上げられた物であり、その技量は圧倒的だった。
皇帝の護衛を務めるだけあって、とんでもない実力者だ。
他の5人も彼に近いレベルだと考えると、たった6人という少数にも頷ける。
「陛下は貴様を英雄と見込んでいる様だが、あの方は夢想家の毛が強い。貴様が紛い物であるなら、ここで貴様に引導を下す。そして剣は私が使わせて貰うぞ」
剣を合わせながら、相手が周囲に聞こえない程度の小声で脅しをかけて来る。
まあ確かに、今の俺が業魔の剣を使っても当てにならないと思うのは仕方がない事だった。
なにせ相手は相当手加減している様な有様だ。
これで俺に期待してたら、完全に頭のおかしい人物でしかない。
「く……」
力強く踏み込み、素早く剣をるう。
だがその全てを軽くいなされ続ける。
本当に手も足も出ない。
今俺が装着している宝玉は、サブにダークマターを付けた混合Lv10だ――これは常時取り込んでいる。ダークマター付きを紛失したらシャレにならないから。
ドラゴンスロットの方には、エルフの村で新調した宝玉、金剛Lv10と力Lv5の合成宝玉を身に着けていた。
倍率的には筋力が3,25倍。
それ以外は2,2倍に強化されている感じだ。
かなりの高倍率と言っていいだろう。
にもかかわらず、身体能力の面で俺は相手に圧倒されてしまっていた。
技量においては言うに及ばずだ。
相手も相当数な宝玉を身に着けているか。
そもとも根幹の能力差か。
どちらにせよ、今のままでは子ども扱いされて終わるだけだ。
仕方ない――ブーストを使おう。
全力を出し切る必要があるかどうかは分からないが、何も出来ずにやられるのはやはり悔しい。
それに皇帝には、報酬として闇の使徒の情報をおねだりしている。
少しはいい所を見せても罰は当たりらないだろう。
「ほう、何かあるようだな。隠し玉が」
雰囲気の変化を機敏に察知したのか、相手は後ろに跳ねて俺から間合いを離した。
その眼差しは鋭く、真っすぐに此方を見据えている。
どうやら向こうも本気を出す気の様だ。
「ええ、さっきまでとは違いますよ」
ブースト時、ドラゴンスロットの効果は4倍――暇な時に色々と調べてほぼ確定――になる。
しかも本来加算扱いの同種であっても、ブースト中は全てが乗算へと変わる仕様だ。
そのため、使用中はマスタリースロットの上限である4倍を大きく上回る力を俺は発揮する事が出来た。
それは正に絶大な効力と言っていいだろう。
ブースト発動時の倍率は、全ての能力が4,68倍。
パワーに至っては18,72倍まであがる。
他の能力はともかく、ことパワーに関しては今の俺の右に並ぶ物は居ないだろう。
ハッキリ言って、人外レベルだ。
「いきますよ!」
地面を強く蹴る。
極限まで高められた脚力は大地を爆発させ、俺の体を一瞬で相手の目の前まで運ぶ。
この勢いのまま剣を振ってもいいのだが、それだと多分相手を殺してしまう。
俺は一旦足でブレーキをかけ、相手の目の前で止まる。
「ふっ」
一瞬動きの止まった所に、横薙ぎの一撃が飛んできた。
俺は膝を深く曲げてしゃがみ込む様にそれを躱し、その姿勢のまま剣を振るう。
相手の手にした剣に向かって。
「なっ!?」
不自然な恰好から繰り出される無理やりの一撃。
普通なら全くパワーの乗るはずのないその攻撃は、俺の出鱈目な筋力によって渾身の破壊力へと変わる。
低い位置から振るった俺の剣が、相手の剣をかち上げる形で接触。
だがその剣は弾かれる事無く粉々に砕け散った。
「はっ!」
俺は姿勢を一瞬で戻し、手にした剣の切っ先を相手の喉元に付きつける。
これで勝負ありだ。
「参った。完敗だ」
これがプライドの高い頑固爺だと「今のはまぐれだ!認めん!もう一度勝負しろ!」とか言い出しそうではあるが、流石皇帝に直接使える護衛だけ会って潔い。
「先程は失礼な事を口にした。どうか許して頂きたい」
「気にしてませんよ」
本気で殺しにかかられてたら憤慨物だったが、明らかに言葉による脅しだけだったからな。
それだって、俺の本気を引き出す為の物だ。
それが分からない程俺も馬鹿ではないさ。
「見事よ、カオス。帝国屈指の実力者であるガープスを圧倒するなんて、流石は私の将来の伴侶だけはあるわ」
皇帝は満面の笑顔で此方へとやって来る。
俺の強さに満足してくれた様だ。
「お誉めに頂き、有難うございます」
将来の伴侶の部分は敢えてスルーしておく。
正式なお断りは、厄災討伐後で構わないだろう。
まあそこで揉める様なら、闇の使徒の情報を頂いた後に転移でトンズラするまでの事。
最悪厄災さえ倒せていれば、相手も国を挙げての指名手配なんて無茶はして来ない筈だ。
0
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

無能なオタクの異世界対策生活〜才能はなかったが傾向と対策を徹底し余裕で生き抜く〜
辻谷戒斗
ファンタジー
高校三年生で受験生の才無佐徹也は難関国立大学の合格を目指し猛勉強中だったが、クラスメートと共に突然異世界に召喚されてしまう。
その世界には人の才能を見抜く水晶玉があり、他のクラスメートたちにはそれぞれ多種多様な才能が表れたが、徹也は何も表れず才能がない『無能』であると判定された。
だが、徹也はこの事実に驚きはしたものの、激しく動揺したり絶望したりすることはなかった。
なぜなら徹也はオタクであり、異世界クラス召喚の傾向はすでに掴んでいたからだ。
そして徹也はその傾向を元にして、これから起こり得るであろうことへの対策を考える。
これは、『無能』の徹也が傾向と対策で異世界を生き抜いていく物語である――。
*小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+でも連載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~
細波
ファンタジー
(3月27日変更)
仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる…
と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ!
「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」
周りの人も神も黒い!
「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」
そんな元オッサンは今日も行く!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる