マスタースロット1の無能第333王子、王家から放逐される~だが王子は転生チート持ち。スキル合成による超絶強化&幻想種の加護で最強無敵に~

榊与一

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38――密偵

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「少々お待ちください」

受付のおばさんに待合室へと連れられ、俺はソファに腰掛ける。
ここはアイレンさんが働く帝国の施設。
護衛依頼の際に、以前連れて来られた場所だ。

幻獣はじき厄災が生まれると言っていた。
だが何処で発生するのか?
その辺りは聞けていない。

それで考えてみたのだが……

鳥の幻獣が帝国に向かえと言った事。
それに蛇の幻獣が場所を言わずに剣を渡した事から、恐らく厄災は帝国に姿を現すのだろうと俺は結論付けた。

そしてアイレンさんが厄災を封じる業魔の剣を求めていた事から、帝国もその事を掴んでいたのではないかと推測している。

まあソチラは限りなく勘に近いんだが……話を聞いてみる価値は十分あるだろう。
だからここへとやって来たのだ。

もちろん話し合いに際しては、うっかり八兵衛的なエマは連れて来ていない。
ただ彼女だけ置いていくと俺の意図が透けてしまうので、ここへは俺一人でやって来ている。

「お待たせしました」

ドアが開き、アイレンさんが姿を現した。
その顔はにこにこと明るい。
恐らく俺が自分からここへとやってきた事で、何か吉報がある物と考えているのだろう。

実際この場に業魔の剣を持ってきているので、確かに吉報と言えなくも無い。
これをアイレンさんに渡すかどうかは、まあ彼女との話次第だが。

「急に尋ねてきて申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらずに。それより、御用とは?例の光の玉を譲っていただけるのでしょうか?」

どうやら彼女は剣ではなく、玉を持って来たと思っている様だ。
以前会ってからまだ5日しか経っていない。
迷宮にいって剣を見つけて来たとは、まあ夢にも思わないだろう。

「最初に一つお聞きしたいのですが……帝国に近いうちに厄災が現れるというのは――」

言い終える必要は無かった。
それまで笑顔だったアイレンさんの顔が、引きつる様な形で凍り付く。
それは彼女がその事を認知している、何よりの証拠と言えた。

「どこで……その話を?」

俺が口にした内容は機密扱いなのだろう――市民には知らされていないので――彼女の眼差しが険しくなり、声のトーンも低く変わる。
明かに此方を警戒している感じだ。

「幻獣……いえ。幻想種と呼ばれる魔物に聞いたと言えば、信じて頂けますか?」

「幻想種……あの不思議な力を持つと言われる魔物ですか?確かあの遺跡では、遭遇の噂はありましたが……」

彼女は無言で、真っすぐに俺の目を見つめて来る。
まあ疑っているのだろう。
それは当然の話だ
だがやましい事は何も――いや全くないとは言わないが、殆ど――ない。

俺も彼女を真っすぐに見つめ返した。

「……」

「……」

暫くお互い無言で見つめ合う時間が続く。
30秒程だろうか。
先に口を開いたのは彼女の方だった。

「一つ、お聞きしてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「あなたは……シタイネン王国の密偵ではないのですか?」

「………………………………………………………………は?」

何言ってんだ、この人は?
俺は王家を追い出されている。
だから今はただの平民でしかない。

そんな俺が国の密偵など……

「貴方がシタイネン王家の人間だと言う事は分かっています。惚けないで頂きたい」

「えっ!?」

王家の人間。
そう言われて更に驚く。

何故彼女がその事を?
ひょっとして、俺の事を調べたのだろうか?
偶然出会っただけの傭兵の事をわざわざ?

というかシタイネンの関係者ならともかく、帝国の人間が調べたからって分かる物なのだろうか?

「貴方が入国の際に提示した身分証は、シタイネン王家が発行する特殊な物。それが王家の人間の身分を偽装するために使われている事を、我々は突き留めていますので」

そんなの初耳だ。
まあ末端だった俺が知らなかっただけかもしれないが。

「どうか、素直に答えてください」

彼女は淡々と言葉を続ける。
まるで尋問だ。

いや、此方をスパイと考えている訳だから、実際にそうと考えるべきか。
例えば今、アイレンさんの言葉を無視して此処から飛び出せば、間違いなく大勢の帝国兵に追いかけ回される羽目になるだろう。

とりあえず、先に誤解を解く必要がある様だ。

「確かに俺は元王家の人間ですが、役立たずという事で放逐されています。身分証は生きて行くために必要な物なので、王家が用意してくれた物でしかありません。流石に王家も、必要ない存在だからと言って丸裸で追い出す様な事はしませんから」

「役立たず?あなた程の腕の持ち主がですか?」

俺の言葉に、彼女が眉根を顰める。
確かに今の俺は――特にブースト中は出鱈目に――強い。

この力が当時あれば、王家を卒業させられる様な事は無かっただろう。
ゴーリキ兄さんの様に、何らかの仕事が与えられていたはずだ。

そう考えるとアイレンさんが俺を言葉を疑うのも、もっともな話ではあった。
だが今話した事は、紛れもない事実だ。

どうしたら信じて貰えるもんかねぇ……

この状況で、嘘まじりの小手先の言い含めが通用するとも思えない。
俺もそこまで弁の立つ方じゃないし。
とにかく、話せない――転生や宝玉の合成の――事は伏せつつも、素直に事情を説明するしかないだろう。

「実は――」

まあ信じて貰えない可能性の方が高そうだが……

その時はまあ、最悪転移能力でずらかればいいさ。
シタイネンに逃げ込めば、帝国も迂闊には手出し出来ないだろうからな。

「幻想種三体から力を授かり、代わりに闇の使徒と厄災を倒す事を依頼された……ですか」

俺の説明を聞いても、アイレンさんの表情は渋いままだ。
まあ確かに突拍子もない話に聞こえるだろう。
けど嘘は言っていない。

「…………わかりました。信じましょう」

「やはり無理があるか?」そう思ったのだが――彼女は少し思案した後、あっさりと俺の言葉を信じると口にする。
その予想外の返答に、今度は俺が逆に眉根を顰めた。

「自分で言いうのもなんですけど、今の話を信じられるんですか?」

「そうですね。幻想種の話だけなら、何を言ってるんだこいつはってレベルです」

だったらなんで信じると言ったんだろうか?
判断理由が分からん。

「ただ……もしあなたが本当にシタイネンの密偵なら、厄災の事をわざわざ私に話したりはしないと思ったんです。そんな事をすれば、自らの首を絞める事になりますから。それにあなたには命を救って貰っています。その分も加点して、取り敢えずは話を信じる事にしました」

そういうとアイレンさんは小さく笑う。
どうやら俺の話ではなく、行動から密偵という疑惑を外してくれた様だ。
まあ確かに、俺が本当の密偵なら「貴方の国で厄災は発生するんですか?」なんて馬鹿な話を、帝国の人間に聞いたりはしないだろう。

そう考えると、幻獣関連の話は完全に話損な感じがする。
ま、別にいいけど。
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