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28――帝国
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「閣下!報告は以上であります!」
顔いっぱいに髭を生やした軍服の大男が、ビシッという音が聞こえてきそう程勢いよく敬礼する。
その肉体は一言でいうなら、筋肉の塊だった。
その余りにも発達しすぎ肉体のせいで既存の制服が合わず、そのため彼の制服は全て特注品となっている程だ。
「閣下は止めて下さい。ドルクス少佐」
「はっ!畏まりました!閣下」
どうやら、私の言葉は右から左に抜けて行った様だ。
彼の名はドルクス・マクシム。
この帝国で、私の直属の配下として働いて貰っている。
やり取りからも分かる様に、彼は見た目通りの脳筋だ。
剣の腕一本で少佐にまで上がって来たその戦闘能力は買うが、出来ればもう少しお頭の訓練もして欲しい物である。
「しかし、弱ったな」
帝国では、闇の使徒なる輩による貴族の屋敷襲撃が相次いでいた。
どうやら彼らは強力な呪いを扱うらしく、その多くが甚大な被害を被っている。
貴族を狙っての襲撃だけに、国を挙げての大取物となってはいるのだが、その目的が黄金色の宝玉である以外は依然不明のままだ。
一体どんな手品を使っているのかは知らないが、相手の足取りは一向に掴めない。
その上、何とか捕らえた者達も迷わず自害してしまう始末。
お陰で調査は一向に進んでいなかった。
「貴族達がもう少し協力的なら助かるんだが」
彼らは賊を何とかしろという反面、黄金の宝玉の提出を拒み、その上屋敷の警護を国軍が担うのも拒否していた。
お陰で被害を未然に抑える事も出来ない。
「それは仕方ありませんね」
すぐ横に立つ私の秘書が口を開く。
長い赤毛の女性で、肉感的なスタイルの美女だ。
彼女曰く。
帝国学院時代は、毎日の様に貴族の子弟に告白されていたそうだ。
「彼らは現皇帝陛下に対し、懐疑的になっておりますから」
帝国は近年新皇帝の元、大改革とも言える政策を施行して来た。
そしてそこでもっとも割を食ったのは、他でもない貴族の連中だ。
既存の多くの権益を損ね。
政治的な発言力も弱められている。
そのため彼らは今回の事件を口実に、陛下が自分達を潰すのではないかと勘繰っているのだ。
「警備に送った兵士で貴族の屋敷を抑えるなんて、ある訳がないと言うのに」
宝玉を提出しないのも同じ様な理由だった。
効果こそないが、黄金の宝玉は好事家の間で高値で流通している。
提出すれば接収されるとでも思っているのだろう。
完全に只の被害妄想だが、まあ彼らがそう疑ってしまうのも無理はない。
それ程今の彼らは、陛下によって強く締め付けられているのだ。
「難しい話の様なので!私はこれにて失礼致します!」
ドルクス少佐は返事を待たず、敬礼して部屋から出て行ってしまった。
勝手に出て行くなよとは思うが、まあもう用がないのも事実だ。
引き留める理由も無いので、私は彼の背中を溜息で見送る。
「それで、どうなさいます?」
「そうだな、強硬策が取れればいいんだが……」
秘書のアメルの言葉に、私は少し考えこむ。
情報がない以上、無理やり黄金の宝玉を接収し、安全な国庫に納めるのが被害を抑える一番簡単な手段だ。
だが今は余り貴族共を刺激したくはなかった。
例の改革のせいで現在国内の緊張状態は高まっており、この前も南部で一部の貴族が反乱を起こしたばかりだからな。
その際にドルクス少佐が破竹の活躍を納めており、その事で陛下に取り上げられ、彼は異例の三階級昇進を果たして本部勤務となっていた。
「いっそ反発しそうな貴族連中を一掃出来れば、どれ程楽な事か」
まあ敵わぬ夢だ。
仮に内紛に発展しても、此方が負ける事はまずない。
だが問題なのはその後だ。
此方が弱みを見せれば、その隙を周辺諸国が突いて来る可能性は極めて高い。
特に西のシタイネン王国は、主産業であった宝玉の産出が最近芳しくないと聞く。
経済的にひっ迫してくれば、なりふり構わず此方の領土を掠め取ろうと動いて来てもおかしくはなかった。
それに例の件もある。
嘘か誠か、確実な裏はまだ取れていないためまだそうなると決まった訳ではないが……万一内紛中にアレが発生などすれば、それこそ国自体滅びかねない。
「不穏な発言は控えられた方が宜しいのでは?」
「ああ、すまない」
ここには私とアメルしかいないが、こういう所で気を抜くと、別の場所でうっかりと吐き出してしまう様になってしまう物だ。
気を緩めず、常に気を付けなければな。
「所で、例の二名の様子はどうなっている?」
「二人とも冒険者として活動している様で、現在特に怪しい動きは御座いません」
「そうか」
シタイネン王国からに王族が二人、この国へ入ったという報を少し前に受けていた。
まあどちらも“元”ではあるが、それを素直に信じるほど此方も馬鹿ではない。
何らかの意図があって入国して来た可能性を、当然私は疑っている。
「何か動きがあったら知らせてくれ」
「はい」
入国している王子の名はゴーリキ・シタイネンとニート・シタイネン――現カオス・マックスだ。
片方だけが改名している所を見ると、ゴーリキ・シタイネンに意識を逸らせる作戦なのだろうが、そんな物に引っ掛かるほど此方も間抜けではない。
当然両方しっかりマークさせて貰っている。
「やれやれ、面倒ごとばかりだ。そういうのは嫌いなんだがね」
他にも色々と面倒くさい仕事は山積みだ。
「はー、楽したい」
「陛下がこの国のトップであり続ける以上、それは難しいかと」
国の腐敗をなあなあで済まして来た先代までとは違い、現皇帝は膿を絞り出しこの国を生まれ変わらせるつもりでいた。
お陰でのほほんと暮らせる立場だった私も、今や大忙しだ。
「全く、我が妹ながら厄介な事だ」
私は皇帝の兄というだけで、帝国軍の総司令官に任命されている。
これでは何のために帝位を辞したのか分かった物ではない。
顔いっぱいに髭を生やした軍服の大男が、ビシッという音が聞こえてきそう程勢いよく敬礼する。
その肉体は一言でいうなら、筋肉の塊だった。
その余りにも発達しすぎ肉体のせいで既存の制服が合わず、そのため彼の制服は全て特注品となっている程だ。
「閣下は止めて下さい。ドルクス少佐」
「はっ!畏まりました!閣下」
どうやら、私の言葉は右から左に抜けて行った様だ。
彼の名はドルクス・マクシム。
この帝国で、私の直属の配下として働いて貰っている。
やり取りからも分かる様に、彼は見た目通りの脳筋だ。
剣の腕一本で少佐にまで上がって来たその戦闘能力は買うが、出来ればもう少しお頭の訓練もして欲しい物である。
「しかし、弱ったな」
帝国では、闇の使徒なる輩による貴族の屋敷襲撃が相次いでいた。
どうやら彼らは強力な呪いを扱うらしく、その多くが甚大な被害を被っている。
貴族を狙っての襲撃だけに、国を挙げての大取物となってはいるのだが、その目的が黄金色の宝玉である以外は依然不明のままだ。
一体どんな手品を使っているのかは知らないが、相手の足取りは一向に掴めない。
その上、何とか捕らえた者達も迷わず自害してしまう始末。
お陰で調査は一向に進んでいなかった。
「貴族達がもう少し協力的なら助かるんだが」
彼らは賊を何とかしろという反面、黄金の宝玉の提出を拒み、その上屋敷の警護を国軍が担うのも拒否していた。
お陰で被害を未然に抑える事も出来ない。
「それは仕方ありませんね」
すぐ横に立つ私の秘書が口を開く。
長い赤毛の女性で、肉感的なスタイルの美女だ。
彼女曰く。
帝国学院時代は、毎日の様に貴族の子弟に告白されていたそうだ。
「彼らは現皇帝陛下に対し、懐疑的になっておりますから」
帝国は近年新皇帝の元、大改革とも言える政策を施行して来た。
そしてそこでもっとも割を食ったのは、他でもない貴族の連中だ。
既存の多くの権益を損ね。
政治的な発言力も弱められている。
そのため彼らは今回の事件を口実に、陛下が自分達を潰すのではないかと勘繰っているのだ。
「警備に送った兵士で貴族の屋敷を抑えるなんて、ある訳がないと言うのに」
宝玉を提出しないのも同じ様な理由だった。
効果こそないが、黄金の宝玉は好事家の間で高値で流通している。
提出すれば接収されるとでも思っているのだろう。
完全に只の被害妄想だが、まあ彼らがそう疑ってしまうのも無理はない。
それ程今の彼らは、陛下によって強く締め付けられているのだ。
「難しい話の様なので!私はこれにて失礼致します!」
ドルクス少佐は返事を待たず、敬礼して部屋から出て行ってしまった。
勝手に出て行くなよとは思うが、まあもう用がないのも事実だ。
引き留める理由も無いので、私は彼の背中を溜息で見送る。
「それで、どうなさいます?」
「そうだな、強硬策が取れればいいんだが……」
秘書のアメルの言葉に、私は少し考えこむ。
情報がない以上、無理やり黄金の宝玉を接収し、安全な国庫に納めるのが被害を抑える一番簡単な手段だ。
だが今は余り貴族共を刺激したくはなかった。
例の改革のせいで現在国内の緊張状態は高まっており、この前も南部で一部の貴族が反乱を起こしたばかりだからな。
その際にドルクス少佐が破竹の活躍を納めており、その事で陛下に取り上げられ、彼は異例の三階級昇進を果たして本部勤務となっていた。
「いっそ反発しそうな貴族連中を一掃出来れば、どれ程楽な事か」
まあ敵わぬ夢だ。
仮に内紛に発展しても、此方が負ける事はまずない。
だが問題なのはその後だ。
此方が弱みを見せれば、その隙を周辺諸国が突いて来る可能性は極めて高い。
特に西のシタイネン王国は、主産業であった宝玉の産出が最近芳しくないと聞く。
経済的にひっ迫してくれば、なりふり構わず此方の領土を掠め取ろうと動いて来てもおかしくはなかった。
それに例の件もある。
嘘か誠か、確実な裏はまだ取れていないためまだそうなると決まった訳ではないが……万一内紛中にアレが発生などすれば、それこそ国自体滅びかねない。
「不穏な発言は控えられた方が宜しいのでは?」
「ああ、すまない」
ここには私とアメルしかいないが、こういう所で気を抜くと、別の場所でうっかりと吐き出してしまう様になってしまう物だ。
気を緩めず、常に気を付けなければな。
「所で、例の二名の様子はどうなっている?」
「二人とも冒険者として活動している様で、現在特に怪しい動きは御座いません」
「そうか」
シタイネン王国からに王族が二人、この国へ入ったという報を少し前に受けていた。
まあどちらも“元”ではあるが、それを素直に信じるほど此方も馬鹿ではない。
何らかの意図があって入国して来た可能性を、当然私は疑っている。
「何か動きがあったら知らせてくれ」
「はい」
入国している王子の名はゴーリキ・シタイネンとニート・シタイネン――現カオス・マックスだ。
片方だけが改名している所を見ると、ゴーリキ・シタイネンに意識を逸らせる作戦なのだろうが、そんな物に引っ掛かるほど此方も間抜けではない。
当然両方しっかりマークさせて貰っている。
「やれやれ、面倒ごとばかりだ。そういうのは嫌いなんだがね」
他にも色々と面倒くさい仕事は山積みだ。
「はー、楽したい」
「陛下がこの国のトップであり続ける以上、それは難しいかと」
国の腐敗をなあなあで済まして来た先代までとは違い、現皇帝は膿を絞り出しこの国を生まれ変わらせるつもりでいた。
お陰でのほほんと暮らせる立場だった私も、今や大忙しだ。
「全く、我が妹ながら厄介な事だ」
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