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27――便利な力

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「うぅ……ん」

目を開けると、木目の天井が見えた。
布団から体を起こし、周囲を見渡すと木造の建物っぽい場所だと分かる。
見た事のある場所だ。

「ここって……ひょっとしてエルフの村か?」

村に立ち寄った際、泊めて貰ったカイルの部屋にそっくりだ。
ていうか、置いて来た荷物もあるのでまず間違いないだろう。

「あれ?でも幻獣に会いに行った筈なんだが……まさかの夢落ち?」

夢の中で行っただけで、まだ出発すらしてなかったのだろうか?
しかし夢にしてはリアルな夢だった。

「良かった……目覚められたんですね?」

ドアが開き、盆を持ったカイルが入って来る。
その上には水の入った桶と、布が乗ってあった。

「良かった?」

「暫く昏睡されていたので、心配していたんですよ」

「昏睡?」

どういう事だ?
長く眠ってたって事か?

「ええ、幻獣様の元で意識を失われたそうで。ドマに担がれて眷属様はこの村に戻って来られたんですよ。それから3日間、ずっと眠られていました」

マジか!?
ていうか幻獣の所に行ったのは夢じゃなかった様だ。
ドリルで抉られた右手を見てみると、そこには鳥を模った様な紋章が刻まれていた。

意識を集中すると、それがどういった物だかがハッキリと理解できる。

……こいつは凄いな。

鳥の幻獣から与えられた新たな力は、とんでもなく便利な物だった。
ドリルで手を抉られたのは失神レベルの痛みだったが、その引き換えとしては十分すぎる程の力を手に入れられたので、まあ良しとしよう。

「そうだったんですか……すいません、御迷惑をおかけしてしまって」

「いえいえ、お気になさらずに。貴方は村の恩人なのですから」

恩人か……
別にエルフ達に恩を売りたかったわけではないが、こうしてわざわざ恩返しをしてくれるのは有難い事だ。

その時、ぐぅぅと俺の腹が鳴る。

「食事をお持ちしますね」

それを聞いてカイルが飯の用意をしに行ってくれた。
ちょっと恥ずかしかったが、まあ三日以上寝ていたのだから仕方がないだろう。

「しっかし……結局情報は無しか」

ひょっとしたら同行していたサラが何か話を聞いている可能性もあるが、あまり期待は出来ないだろう。
まあ優秀な能力も手に入った事だし、これで良しとしておく。

右手に刻まれた刻印の力は二つ。

その一つは飛行能力。
正確には、鳥に変身する能力だ。
この能力を使えば、自由に空を飛び回る事が出来る。
後でさっそく試してみよう。

もう一つは転移能力だった。

一度でも立ち寄った事のある場所なら、自由に転移する事が出来る様だ。
但しクールタイムがあるみたいなので、連発はきかない。
戦闘で転移しまくって相手を翻弄したりなんかは、残念ながら出来ないだろう。

まあそれを考慮しても超破格の能力と言えるが。

「この一件が終わったら、超特急の個人運び屋に転職もありか……」

何せ死ぬ程遠く離れた場所にすら、能力で即日配達可能な訳だからな。
間違いなく大儲けできる筈。

「ってその場合、間に誰か噛んで貰う必要があるか……じゃあ無理だな」

個人で看板を広げても、信用0では誰も頼まないだろう。
何処の誰とも分からない相手に荷物を預ける馬鹿はいない。

仕事としてやっていこうとした場合、信用のある仲介人と組む必要がある訳だが、当然そんな相手に心当たりはなかった。

それによくよく考えると、スキルとして扱うにはこの力は余りにも唯一無二の力すぎる。
国に目を付けられてしまうのは目に見えていた。
それが嫌で宝玉の合成を隠していたのに、それでは本末転倒である。

「ま、冒険者を続けるしかないか……」

冒険者という仕事は基本自由であるため――今は幻獣からの頼まれ事があるからあれだが――嫌いではなかった。
だが本格的に稼げる様になるまでが長い。
パパっと大儲けして、その金で悠々自適に余生が送れるのなら転職は全然ありだと俺は思っている。

「おはようございます」

扉は開き、サラが挨拶しながらカイルさんと一緒に入って来る。
その手には盆が握られ、その上にあるお椀からは湯気が上がっていた。

「サラ、気絶してたみたいで迷惑かけてごめんな」

「いえ、そんな。気にしないでください」

お椀の中には粥の様なドロドロした物が入っている。
色が茶色いので米ではないが、食欲をそそられる甘い匂いだ。

「バナという果実と、芋で作った粥です。どうぞお召し上がりください」

「それじゃあ、いただきます」

粥を受け取って木匙スプーンを使ってかき込む。
果実と言っていたが、甘さは控えめだった。

腹が空いているので物凄く美味しく感じるが、ある程度空腹が満たされお代わりを貰った辺りで気づいてしまう。
不味くはないけど、実は別にそれ程美味しくも無い事に。
まあ粥に味を求めるのが間違っているのだろう。

「御馳走様でした」

2杯お代わりした所で腹がパンパンになり、手を合わせる。
食事も終わったので、さっそくサラに尋ねてみた。

「なあサラ。俺が気絶した後、あの幻獣は何か言ってなかったか?」

「あ、はい。ガノッサへ向かう様にと」

どうやら情報もちゃんとあった様だ。
それを聞いて俺はほっと胸を撫で下ろす。
流石にノーヒントだときついからな。

「ガノッサの何処へ向かえばいいんだ?」

ガノッサというのは、シタイネン王国の東にある国の名だ。
直ぐ隣の国ではあるが、俺は政治に一切かかわっていないので――しょせん第333王子なので――帝制を敷いている事ぐらいしか知らない。

「あ、いえ……ガノッサとしか言われてなくて……ごめんなさい」

サラが俺の問いに答えられず、困った様に俯いてしまう。

「ああ、いや。サラが悪い訳じゃないんだ。気にしないでくれ」

くっそ、あの鳥め。
国だけしめして俺にどうしろってんだ?
範囲が漠然とし過ぎて、どうすりゃいいのか分かんねーじゃねーか。

まあ他に手掛かりはないのだ。
とにかく行ってみるしかないだろう。
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