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26――ドリル

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「うわっ!?」

幻獣の居場所に繋がると言う洞窟に入ろうとすると、先に洞窟に踏み込んだドマさんが急に目の前に現れてぶつかりそうになる。

入った瞬間出て来た?

「これは一体?」

当のドマさん自身、何が起こったのか分からない様な表情をしている。

「ちょっと待ってください」

「――っ!?」

エマさんが洞窟の入り口に左手だけをを入れる。
するとその指先が洞窟側から出て来た。

出口と入り口の直結。
空間のねじれの様な物だろうか。
所謂ループ状態だ。

「結界ですね」

幻獣は、通常とは違う空間に生息している。
なら、住処への入り口に結界が張ってあってもおかしくはない。

むしろ解放されている方があり得ない事だ。
人間だって家には鍵をかける訳だからな。

「まいったなぁ……」

ここまで来てとんぼ返りする羽目になるとは……俺はちらりと期待を込めてサラを見る。
サラの魔力なら、という期待だ。

「あ、すいません。幻獣様の張った結界を解く様な魔法は……」

俺の視線に気づき、サラが謝ってくる。
どうやら駄目な様だ。

まあ大幅に魔力が増しているとはいえ、そもそもその為の魔法を習得していなければ意味がないからな。
こればっかりは仕方がない。

「ああ、いやまあしょうがない。気にしないでくれ」

「ごめんなさい 」

サラがしゅんと落ち込む。
ちょっと期待しただけなのに、これでは俺が悪者みたいだ。
子供の扱いは、やはり難しいな。

「思うのですが、サラと眷属様なら入れるのではないでしょうか?」

「え?」

「確かに。眷属様が幻獣様に会えない道理はありませんから。我々には資格がなかったと考えるのが自然かと」

いや、そこは幻獣の気分次第な気もするんだが。
そもそも俺はドラゴンの眷属――なのか?――であって、この洞窟を入り口としている鳥型の幻獣とはあった事も無い。

「まあ、一応試してみます」

ドマさん達が入ろうとした際、特に害は発生していなかった。
なら試してみても罰は当たらないだろう。
まあ入れなかった場合、エマさん達の俺に対する評価が下がりそうな気もするが、元々が過大評価なので気にしない事にする。

「それじゃ、入ってみよう」

サラに声をかけ、俺は洞窟に一歩踏み込んだ。

「……入れたな」

「はい」

横を見ると、サラも中に入って来ている。
どうやら、エマさんの予想通りだった様だ。

「進もう」

洞窟内は光源などなかったが、仄かに明るい。
まるで洞窟そのものが発光している様だ。

「出口か?」

一本道の洞窟を真っすぐに進むと、やがて光の差し込む場所――出口が見えて来る。
そこから外に出ると――

「どこだ、ここ?」

密林の様な場所だった。
木々が鬱蒼と茂り、視界を遮って来る。

此処は異空間なのだろうが、どっちに進めばいいんだ?

そんな事を考えていると木々が大きくゆさゆさと揺れ、モーゼの十戒宜しく、密林が割れて俺達の前に人の通れる道が姿を現した。

無駄にド派手な演出だ。
洞窟を通ってる間にやっておけばいい物を、わざわざ目の前でやったのは、ひょっとして自分の力を見せつけたかったのだろうか?

まあ考えても仕方がない。

「行こう」

真っすぐに木々の切れ間を抜けると、辿り着いたのは大きな岩に囲まれた広い空間だった。
辺りを見渡すが、特に何かがいる気配なはい。

「ここで行き止まりか?幻獣はどこに……」

その時、突如頭上からバサバサと羽搏き音が響き、巨大な影が俺達を覆う。
驚いて見上げると、人間所か、熊すらも一飲みにしてしまいそうな巨大な鳥が上空で大きな翼を羽搏かせ滞空していた。

「鳥か……」

どうやらここの幻獣は鳥の様だ。
そいつは少しづつ高度を下ろし、やがて岩の一つに降り立った。

「きゃあ!?」

その際突風で小さなサラの体が吹き飛ばされそうになったので、俺は咄嗟にその手を掴んで引き寄せた。

「よく来ました」

こっちの様子などお構いなしに、幻獣が声をかけて来る。
その声は澄んだとても美しい物だった。

例えるなら、カナリヤのさえずりと言った所だろうか。
まあ鳥を鳥で例えるのもアレだが。

「目的は分かっています。闇の眷属と戦うための力を得るために来たのですね」

「いや、できたら力よりも情報の方が欲しいんですけど」

今の状態だと、どちらかと言えば情報の方が重要だ。
奴らが迷わず自害しまくるため、その情報がまるで手に入ってないのが現状だった。
このままだと、闇の使途を見つけだすのに何年かかるか分かった物ではない。

まあもちろん、力もくれるとういうのなら喜んで貰うつもりではあるが。

「捧げなさい」

此方の言葉を無視し、鳥は大きく口を開け捧げろと要求して来た。
人の話を聞かないの所は、ドラゴンとそっくりだ。

幻獣ってのは全部こうなのだろうか?

まあでっかい鳥や爬虫類に、人間式のコミュニケーションを求めるのがそもそもの間違いなのだろう。

「わかりました」

この状況下で求められている物が分からない程、流石に俺も鈍くはない。
右手を幻獣の口に向かって掲げ、そして放つ――ダークマターを。

黒い刃がドラゴンの時同様、その口の中に吸い込まれて消えていく。
幻獣が目を細めるのが見えた。

ひょっとして喜んでる?

「これぐらいでいいですか」

だいたいこんなもんだろうと切り上げ、尋ねる。
なんだかんだ言ってこのスキルは疲れるから、余り無駄撃ちはしたくなかった。

幻獣がその巨大な口を閉じ、首を縦に振る。
どうやら満足してくれた様だ。

しかし何で幻獣って奴は、こんなにダークマターを求めるのだろうか?
ひょっとして美味しいのか?

「手を……」

「えっと、出来れば先に情報を」

幻獣であるドラゴンとの流れを考えると、手を出すと痛みで気絶させられる可能性が高い。
痛いのが嫌だというのもあるが、できればその前に情報を貰っておきたい所だ。

「手を……」

鳥の幻獣は、此方の話を聞く気が0の様だった。
マイペース過ぎ。
まあ情報を持っていないって事なんだろうと諦め、俺は右手を前に差し出した。

岩の鳥が前傾姿勢になり、クチバシが手に寄せられる。
するとその先端が、細いドリルの様に変形して旋回しだした。
というかまんまドリルだ。

おいおい、まさかそれで――

「ぎにゃああああああああ!!」

クチバシの先端にあるドリルが一気に手に押し付けられ、痛みで世界に星が舞う。

密林に絶叫が響き渡り、当然俺はその痛みに耐えきれず――

気絶した。
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