マスタースロット1の無能第333王子、王家から放逐される~だが王子は転生チート持ち。スキル合成による超絶強化&幻想種の加護で最強無敵に~

榊与一

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12――ブースト

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「やっぱ加算かぁ」

乗算か加算か。
それを確認するため宝玉を付け外しして色々テストをしてみたが、どうやら加算で間違いない様だ。
残念。

俺は幻想種から貰ったスロットのテストを行っていた。

ドラゴンスロットに収めた際の効果は半分になる為、レベル10での上昇量は40%だ。
両方のスロットにレベル10の混合の宝玉を吸収した場合、乗算なら1,8倍の1,4倍で2,52倍になる。
だが加算だと2,2倍にしかならない。

そう大きな差ではないんだが、命のやり取りでは極僅かな差で生死を分かつ可能性が出て来る。
そう考えると馬鹿に出来ない差だ。

「ま、特殊なスロットとはいえ同種じゃそうなるか」

別種と組み合わせた場合、効果の被っている部分は乗算になる。
だが同種同士は共鳴外であっても、その効果は加算になってしまう。
特殊なスロットなのでひょっとしたらと思って試したのだが、残念ながらそんな事は無かった様で、加算だった。

「次はブーストを使ってみるか」

ブーストは短時間の間、ドラゴンスロットに収められている宝玉の効果を大幅に上げてくれるという物だ。

それがどの程度の効果か?
効果時間、クールタイムや体への負荷を知る為には、実際に使って確かめてみるのが一番だ。

「ジャンプで外壁の頂上……は、流石に無理か」

軽く柔軟運動をしながら、王都の外壁を見上げる。
王都だけあって外壁は分厚く、その高さは10メートル以上にも達していた。
幾らブーストを使っても、飛び超えたりするのは無理だろう。

「しっかし、改めて見ても馬鹿でかい外壁だな」

王都の外壁は異常な程に堅牢だった。
これは戦争というよりも、どちらかというと強力な魔物が現れた時用の対策らしい。
強靭な肉体を誇る魔物相手では、これぐらいなければ意味をなさないそうだ。

もっとも、これだけの物でも、厄災ディザスター級の魔物が現れれば容易くぶち抜かれてしまうそうだが。

厄災級ディザスター

この世界では厄災と呼ばれる規格外レベルの魔物が、100年に一度のペースで発生していた。
一度ひとたび姿を現せば、町や村をいくつも蹂躙し数多の人命を奪う。
正に厄災と言っていい化け物だ。

その討伐には万単位の兵が必要とされ。
100年前この王都近辺に厄災級ディザスターが姿を現した際は、街が半壊してその人口の4割が失われたと言われている。

「そろそろ100年経つんだよなぁ」

出会ったら絶対死ぬ事になりそうなので、出来れば関わり合いたくない所だ。
とは言え、この大陸は広い。
同じ場所に出現する可能性はそう高くない筈だから、出会う心配をする必要は無いだろう。

「さて、発動させるか」

左手の紋章。
ドラゴンスロットに意識を集中させ、心の中でトリガーを引く。

「ブースト!」

体に力が溢れ出す!

という感じは特段なく。
特にオーラの様な物も吹き出たりはしない。
至極地味な感じだ。

正直、ちょっと拍子抜けだった。

「まあいいや、取り敢えず跳躍力を――」

俺は深く屈伸し、力いっぱい飛び上がってみた。

「おおぉぉっ!?」

地面を蹴った瞬間体が急激に上昇し、まるで飛び上がる様な感覚に思わず変な声が漏れた。
ぐんぐん上昇していく俺の体は外壁を軽く飛び越え、その遥か上空で停止する。

「まじかよ……」

王都がハッキリと見渡せる。
下を見ると、外壁がかなり下方にあった。
恐らくだが、軽く20メートルは飛んでいるんじゃないかと思われる。

「おおぉぉぉ」

今度は落下だ。
腹の中の物が浮き上がる様な浮遊感。
そして落下の際の強い衝撃。

「ぐわっ!」

膝を使って勢いを殺そうとするがそれでは足りず、俺は盛大に前転して受け身を取る羽目になってしまった。

「いててて」

普通に考えれば骨折レベルなのだが、ブーストのお陰か怪我は少し擦りむいた程度で済んでいた。

……しかしとんでもない効果だ。

ひょっとしたら効果が5倍ぐらいに跳ね上がっていたかもしれない。
いや、それ以上の可能性もある。

「取り敢えず、マスタリースロットのは外しておくか」

余り急激に身体能力が上がり過ぎると、感覚が付いて行かない。
ブレーキ代わりにマスタリースロットの分は外しておく。

「よし、この状態で!」

再び跳躍する。
だが明かに一度目と比べて上昇の勢いが弱い。
外壁の頂上部分で上昇は止まり、そのまま落下してしまった。

「あれ?なんでだ?」

マスタリースロットの効果は80%だ。
複数のステータスが上がるとはいえ、加算でしかない。
そう考えると、跳躍力に倍以上の差が出るとは考えられなかった。

「ひょっとして、乗算になってるのか?」

マスタリースロットに宝玉を嵌め込み、もう一度ジャンプしてみた。
体は再び外壁の遥か上空へと上昇する。

「ブースト中は別の宝玉扱いって事か」

今度は綺麗に着地してみせた。
少々足は痛いが、何となく要領が掴めてきた気がする。

2回目にしてこの慣れ、ひょっとしたら俺は天才なのかもしれない……
まあんな訳ないか。

「しかしこいつは嬉しい誤算だな」

ジャンプ以外にも体を動かして慣らしていると、3分程度で効果が切れてしまった。
漫画とかだと効果が切れると同時に消耗したりするのだが、そう言った反動も特にはない様だ。

それにスロットに取り込んでいる宝玉の効果も、ブースト後も普通に発動している。
どうやらデメリットは、クールタイムだけの様だ。

そこから運動しながらブーストの再起動をかけ続けると、1時間程で再発動した。
その日は何度かこのループを試してみるが、疲労の如何に関わらず大きな狂いは発生しなかった。
どうやらクールタイムは1時間、効果は3分で固定の様だ。

「これは滅茶苦茶使えるな」

効果時間は短いが、その効果は正に絶大。
これは良い切り札になりそうだ。

俺はほくそ笑みながら帰途に就くのだった。
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