9 / 48
8――初クエスト
しおりを挟む
「あー、もう!邪魔だ!」
手にした鉈を振り回し、道を遮る枝葉を切り落とす。
此処は王都から出て数時間程の距離にある、スライムの森と呼ばれる場所だった。
鬱蒼とした森の中には藪なども多く、俺の歩みを度々遮って来る。
本当に鬱陶しい。
「はぁー、だる」
今はまだ春先なのでだるいだけで済むが、これが夏場だったらここに暑さ迄加わって地獄だったろう。
先の事を考えると、少々高くつくがタリスマン――魔法の力を宿した護符――の購入か、頑張って寒暖用の防御魔法を覚えておいた方が良いのかもしれない。
「しっかしスライムいねーなー」
態々こんな所へやって来たのは、勿論スライムを狩る為だ。
正確にはその肝の収集だな。
スライムは一見動くゼリー状の粘体にしか見えないが、よく見るとその中心には小さな核の様な物が存在している。
それがスライムの肝と呼ばれる部分だ。
スライムの肝は魔法研究などに使われる素材で、その名の示す通り生ものである。
その為長期保存が効かず、スライムの肝集めは常に募集の途切れない定番クエストとなっていた。
俺はその収集クエストを受け此処へやって来ている訳だが、森はその名に反し、一向にスライムの姿が当たらない。
閑古鳥もいい所である。
「楽で美味しいクエストだと思ったんだけどなぁ」
本来スライムの肝収取は、鉄や銀と言った低階級の冒険者が受ける仕事だ。
当然報酬はかなり安い。
だが少し前、このスライムの森に高位のモンスターが現れて暴れたらしく、現在森への立ち入りには制限がかけられていた。
一応魔物自体は討伐済みらしいのだが、念の為という事で金以下はクエストを今は受けられない様になっている。
その為スライムの肝を収集するクエストの単価が上がっており、これは美味しいと思い飛びついた訳だ。
「こんな落とし穴があるとは……1時間成果無しとか。勘弁してくれ」
他は誰もこのクエストを受けていないと、受付嬢は言っていた。
話を聞いた時は元が低ランククエストだからだろう程度にしか考えていなかったが、その理由を身をもって体感させられる。
これだけ見つからないとなると、多少単価が高くてもそりゃ人気がない訳だと納得せざる得ない。
普段は此処からさらに単価が下がるのかと思うと、これを飯の種にしている低ランク冒険者達には同情を禁じ得なかった。
因みに、俺の冒険者としてのランクは白金に上がっている。
金よりワンランク上で、一応冒険者としてはぎりぎり一流扱いになるクラスだ。
野球で言うならAランクの最下位と言った所だろうか。
試験ではギルドマスターに手も足も出なかった俺ではあるが、どうやらそこそこ評価は高かったらしい。
これも全て合成で生み出した宝玉のブースト効果のお陰だろう。
「こりゃ泊りか」
小さく溜息を吐いた。
クエストの最低要数は10個からだ――超えた分も買い取ってくれるが。
正直、10個程度なら半日もあれば終わると考えていたのだが、この調子では間違いなくここで一泊する事になりそうである。
一応手こずった時用に毛布などの用意はして来ているが……
出来れば森の中で寝泊まりしたくなかったというのが本音だ。
「しっかし、何もいねーな」
さっきからスライムは元より、動物の姿などもまったく見かけていない。
まるで生物などいない、死の森の様に感じて不気味に思えてしまう。
「ま、そんな訳ないか」
初仕事で緊張しているせいだろう。
我ながら馬鹿みたいな考えだと笑ってしまう。
暫く進むと、広い湖畔に出くわす。
目の前に広がる美しい湖面に吸い寄せられるかの様に、俺はフラフラと近づいて岸辺に立った。
特に何かがある訳ではないが、穏やかな水面をみていると体からすっと疲れが抜けていく様な穏やかな気持ちになる。
「ん?」
暫く無心でじっと眺めていると、水面に小さな黒い染みの様な影が映り込んだ。
それは見る間に大きく広がって行き、更に湖面が大きく波立ち始めた。
「ぶわっぷ!?」
盛り上がった水面が大きく弾け、勢いよく水飛沫が舞う。
俺は大量の水を浴びてしまい、咄嗟に目を閉じた。
「何だってんだ!?」
顔を腕で拭いて目を開けると――
そこには美しく輝くエメラルド色をした、巨大なドラゴンが佇んでいた。
「我に捧げよ」
唖然と固まる俺の内側に、その一言が響く。
だが俺は驚きの余り反応できず、只々目の前のドラゴンを呆然と凝視するのだった。
手にした鉈を振り回し、道を遮る枝葉を切り落とす。
此処は王都から出て数時間程の距離にある、スライムの森と呼ばれる場所だった。
鬱蒼とした森の中には藪なども多く、俺の歩みを度々遮って来る。
本当に鬱陶しい。
「はぁー、だる」
今はまだ春先なのでだるいだけで済むが、これが夏場だったらここに暑さ迄加わって地獄だったろう。
先の事を考えると、少々高くつくがタリスマン――魔法の力を宿した護符――の購入か、頑張って寒暖用の防御魔法を覚えておいた方が良いのかもしれない。
「しっかしスライムいねーなー」
態々こんな所へやって来たのは、勿論スライムを狩る為だ。
正確にはその肝の収集だな。
スライムは一見動くゼリー状の粘体にしか見えないが、よく見るとその中心には小さな核の様な物が存在している。
それがスライムの肝と呼ばれる部分だ。
スライムの肝は魔法研究などに使われる素材で、その名の示す通り生ものである。
その為長期保存が効かず、スライムの肝集めは常に募集の途切れない定番クエストとなっていた。
俺はその収集クエストを受け此処へやって来ている訳だが、森はその名に反し、一向にスライムの姿が当たらない。
閑古鳥もいい所である。
「楽で美味しいクエストだと思ったんだけどなぁ」
本来スライムの肝収取は、鉄や銀と言った低階級の冒険者が受ける仕事だ。
当然報酬はかなり安い。
だが少し前、このスライムの森に高位のモンスターが現れて暴れたらしく、現在森への立ち入りには制限がかけられていた。
一応魔物自体は討伐済みらしいのだが、念の為という事で金以下はクエストを今は受けられない様になっている。
その為スライムの肝を収集するクエストの単価が上がっており、これは美味しいと思い飛びついた訳だ。
「こんな落とし穴があるとは……1時間成果無しとか。勘弁してくれ」
他は誰もこのクエストを受けていないと、受付嬢は言っていた。
話を聞いた時は元が低ランククエストだからだろう程度にしか考えていなかったが、その理由を身をもって体感させられる。
これだけ見つからないとなると、多少単価が高くてもそりゃ人気がない訳だと納得せざる得ない。
普段は此処からさらに単価が下がるのかと思うと、これを飯の種にしている低ランク冒険者達には同情を禁じ得なかった。
因みに、俺の冒険者としてのランクは白金に上がっている。
金よりワンランク上で、一応冒険者としてはぎりぎり一流扱いになるクラスだ。
野球で言うならAランクの最下位と言った所だろうか。
試験ではギルドマスターに手も足も出なかった俺ではあるが、どうやらそこそこ評価は高かったらしい。
これも全て合成で生み出した宝玉のブースト効果のお陰だろう。
「こりゃ泊りか」
小さく溜息を吐いた。
クエストの最低要数は10個からだ――超えた分も買い取ってくれるが。
正直、10個程度なら半日もあれば終わると考えていたのだが、この調子では間違いなくここで一泊する事になりそうである。
一応手こずった時用に毛布などの用意はして来ているが……
出来れば森の中で寝泊まりしたくなかったというのが本音だ。
「しっかし、何もいねーな」
さっきからスライムは元より、動物の姿などもまったく見かけていない。
まるで生物などいない、死の森の様に感じて不気味に思えてしまう。
「ま、そんな訳ないか」
初仕事で緊張しているせいだろう。
我ながら馬鹿みたいな考えだと笑ってしまう。
暫く進むと、広い湖畔に出くわす。
目の前に広がる美しい湖面に吸い寄せられるかの様に、俺はフラフラと近づいて岸辺に立った。
特に何かがある訳ではないが、穏やかな水面をみていると体からすっと疲れが抜けていく様な穏やかな気持ちになる。
「ん?」
暫く無心でじっと眺めていると、水面に小さな黒い染みの様な影が映り込んだ。
それは見る間に大きく広がって行き、更に湖面が大きく波立ち始めた。
「ぶわっぷ!?」
盛り上がった水面が大きく弾け、勢いよく水飛沫が舞う。
俺は大量の水を浴びてしまい、咄嗟に目を閉じた。
「何だってんだ!?」
顔を腕で拭いて目を開けると――
そこには美しく輝くエメラルド色をした、巨大なドラゴンが佇んでいた。
「我に捧げよ」
唖然と固まる俺の内側に、その一言が響く。
だが俺は驚きの余り反応できず、只々目の前のドラゴンを呆然と凝視するのだった。
0
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界召喚で適正村人の俺はゴミとしてドラゴンの餌に~だが職業はゴミだが固有スキルは最強だった。スキル永久コンボでずっと俺のターンだ~
榊与一
ファンタジー
滝谷竜也(たきたにりゅうや)16歳。
ボッチ高校生である彼はいつも通り一人で昼休みを過ごしていた。
その時突然地震に襲われ意識をい失うってしまう。
そして気付けばそこは異世界で、しかも彼以外のクラスの人間も転移していた。
「あなた方にはこの世界を救うために来て頂きました。」
女王アイリーンは言う。
だが――
「滝谷様は村人ですのでお帰り下さい」
それを聞いて失笑するクラスメート達。
滝谷竜也は渋々承諾して転移ゲートに向かう。
だがそれは元の世界へのゲートではなく、恐るべき竜の巣へと続くものだった。
「あんたは竜の餌にでもなりなさい!」
女王は竜也を役立たずと罵り、国が契約を交わすドラゴンの巣へと続くゲートへと放り込んだ。
だが女王は知らない。
職業が弱かった反動で、彼がとてつもなく強力なスキルを手に入れている事を。
そのスキル【永久コンボ】は、ドラゴンすらも容易く屠る最強のスキルであり、その力でドラゴンを倒した竜谷竜也は生き延び復讐を誓う。
序でに、精神支配されているであろうクラスメート達の救出も。
この物語はゴミの様な村人と言う職業の男が、最強スキル永久コンボを持って異世界で無双する物語となります。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

無能なオタクの異世界対策生活〜才能はなかったが傾向と対策を徹底し余裕で生き抜く〜
辻谷戒斗
ファンタジー
高校三年生で受験生の才無佐徹也は難関国立大学の合格を目指し猛勉強中だったが、クラスメートと共に突然異世界に召喚されてしまう。
その世界には人の才能を見抜く水晶玉があり、他のクラスメートたちにはそれぞれ多種多様な才能が表れたが、徹也は何も表れず才能がない『無能』であると判定された。
だが、徹也はこの事実に驚きはしたものの、激しく動揺したり絶望したりすることはなかった。
なぜなら徹也はオタクであり、異世界クラス召喚の傾向はすでに掴んでいたからだ。
そして徹也はその傾向を元にして、これから起こり得るであろうことへの対策を考える。
これは、『無能』の徹也が傾向と対策で異世界を生き抜いていく物語である――。
*小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+でも連載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる