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神国編

第53童 捕縛

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「ちっ」

イラつきから思わず舌打ちする

理由は2つ。
一つはちょこまかと纏わり付いてうっとおしいエルフの腕を切り飛ばしてやったのに、それが一瞬で回復してしまった事だ。
直前に何か飲んでいた事から、それの効果なのだろう。
雑魚の癖に面倒な事をしてくれる。

そしてもう一つは、鎧の騎士――確かガイゼスだっけ?――が杖をへし折られたせいで、結界が解かれてしまった事だ。
デカい口を叩いていた割に、役立たずもいい所だわ。
このままでは以前の様にドラゴンがやって来てしまう。

蘇生に寄って鬼子になった影響で魔力が以前よりも上がってるとはいえ、あの化け物を相手にして勝てる自信は流石になかった。

「だけどまあ」

手にした焔の鞭を振るい、かかって来た特殊なゴーレムを薙ぎ払う。
動きも耐久力も最初の木偶人形よりも数段増してはいるが、この程度なら問題ない。
ゴーレムの手にした盾を腕ごと焼き切り、その首を刎ね飛ばす。

結界は消えてしまったが、だがまだ少しは時間がある。

五大竜への阻害は、黒い結界から発生する瘴気によるものだ。
結界を破壊されても、直ぐに障害が治る訳ではない。
少し慌ただしくはなるが、それまでに決着を付ければいいだけの事

「遊びは終わりよ!」

炎で鞭をもう一本生み出した。
以前はコントロールの問題で出来なかった2鞭で一気に小うるさいをエルフを無力化し、人質たてにしてあの男の喉元に迫る。

「アイスランス!」

「ホーリージャベリン!」

2人の魔法が私の顔目掛けて飛んでくる。
私の魔法、紅蓮唯一の欠点は露出している顔面部分だ。
敵もその事に気づいたのか、先程からそこを的確に狙って来る。

小賢しい。

ここを炎で覆ってしまうと視界が潰れ、呼吸も出来なくなる。
特に呼吸は現状でも同時に風魔法を使って確保しているのだ、視界は何とかなっても、呼吸だけはどうにもならない。

「ふんっ!」

一つは、攻撃がてらの鞭で払う。
もう一発は首を捻って躱した。
弱点ではあるが、狙われている場所が分かっているのなら躱すのは容易い。

「ほらほらほらほら!」

両手の鞭を縦横無尽に走らせ、周囲のゴーレム達を薙ぎ払う。
こいつらが壁となっているせいでエルフの二人が狙えないのだ。
ならさっさと潰ししてしまえばいい。

そしてむき出しになった所を――

「捕まえた!」

振るった鞭が、エルフの片方の足を捉らえた。
ヒットの瞬間魔力を弱めて威力を落とし、跳ね飛ばすのではなくその足に巻き付け絡めとる。

「ぐうぅ……ホーリーアロー!」

強く引っ張り自分の足元へと引き寄せた。
エルフは苦し紛れに魔法を放つが私はそれを腕で払い、顔面に蹴りを入れてやる。

「がっ……」

「足を焼かれながらも反撃して来るなんて、やるじゃない」

多対一とは言え、自分を手こずらせただけはある。
もう一人のエルフが救出しようと突っ込んで来るが、障害物ゴーレム無しならいい的だ。

「気絶してなかったの?全く元気ねぇ……」

首を刎ねる筈だった一撃は軌道がそれ、相手の肩を吹き飛ばす事しか出来なかった。
攻撃がそれたのは足元のエルフが自らの足にかかった鞭を手で掴み、引っ張ったせいで私の体制が少し崩れたせいだ。

「飲ませないわよ」

彼女は素早く腰元から何かを取り出して口にしようとするが、その手を蹴飛ばし、再び顔面に蹴りを入れる。
衝撃で綺麗な鼻が折れてしまったが、どうせここで死ぬのだからどうでもいいだろう。

そして倒れているエルフの肩を掴んで起こし、片手で軽く羽交い絞めにした。
その際、私は自身の纏う最低限だけに留めて解除する。
そのままだと焼け死んで人質に使えなくなってしまうからだ。

「道を開けなさい!さもないとこの女を灰にするわよ!」

私は声を張る。
この乱戦の中、人質を取ったからと言って周りの動きが変わるなんて事は無い。

普通は・・・

だが私は確信している。
あの時――仲間を助けるために調査隊に自ら乗り込んできたあのお人よしなら、この手に確実に乗って来ると。
そしてその狙いは的中する。

私に向かって来ていたゴーレム達の動きが止まり、2つに分かれて道を開く。
その先にはあの男――勇人が居た。
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