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神国編

第42童 ゴーレム

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「いやー、この中は凄いですね」

カイルが畑に実った各種野菜類を見て、ほくほく笑顔を向ける。

畑に種を植えたのは先月の事だった。
世界樹の外はまだ冬真っ盛り――但し世界樹の範囲100キロは、まだ魔法の効果で夏真っ盛りだが――の中、世界樹内ならいつでも野菜を育てらるとペペから聞いたので、種を試しに植えて見た所野菜はたちまち急成長し、ほんのわずかな期間で実りの時を迎えている。

「これならここで問題なく、いや、以前よりもずっと快適に暮らせそうです」

「けどよぉ。此処じゃ肉が手に入らないぜ」

カイルの言葉に、横からライリーが不満を差し込む。
彼は相変わらず見事なピンクの頭と不細工な顔をしている。

「まあな。タンパク質の心配はないとはいえ、やっぱ肉を食えないのはあれだよなぁ」

実は俺もそれには少し不満に感じていた。

世界樹からは霊液という蜜が取れ、それが万能を超えた完全食品であるため、たんぱく質や塩分といったミネラルも全てそこから摂取する事が出来た。
そのため肉などなくても生きて行けるのだが、全くなしだと物寂しいと言うのが本音である。
世界樹に移ってまだ1月ちょいだと言うのに、ガツンと腹に堪る肉の味が恋しくなってきた。

「まあ現状では仕方がないですね。マーサさんからの朗報を待ちましょう」

彼女は今、20名程のエルフを連れてカレンド王国との調印式に出向いていた。
最初は俺も付いていくつもりだったのだが、態々神様が出向くまでもありませんと断られてしまっている。
そもそも俺が外に出る事を何かと渋って来るので、彼女は俺が世界樹から出る事を余りよく思っていないらしい。

今回の調印式では、安保同盟以外にも色々と取り決めを話し合う事になっている。
交易などもその中に含まれ、カイルの期待しましょうは食料輸入に関する期待の言葉だ。
上手くすれば肉や魚を定期的に確保できるかもしれない。

とは言え、彼女が帰って来るのは1週間後の予定だった。
その際両手いっぱいの肉を抱えて帰って来てくれるわけでもないので、肉が手に入るのは早くても1月以上先の話になるだろう。

「やる事無いし、狩にでも行くか」

マーサさんが居たら絶対に止められそうだが、幸い彼女は今ここにはいない。
エルフ達にバレない様こそっと抜け出し、ちょろっと狩りをしてきても大丈夫だろう。

「お!いいねぇ!デカい熊辺り、一発頼むぜ!」

ライリーは狩について来る気が全くない様だ。
まあついて来ても役には立たないから別にいいんだが、手伝おうという姿勢を形だけでも見せれん物かね。
この男は。

「お供しましょうか?」

「いや。これから収穫もあるだろうし、狩りは俺一人で大丈夫ですよ」

畑の収穫で忙しいカイルの手を煩わせるつもりはない。
気持ちだけ貰っておく事にする。

「でも一人で大丈夫ですか」

カイルが心配そうに聞いてくる。
普通に考えて、一人で狩りに行くのは危険な行為だ。
音を立てない肉食獣にいきなり背後から襲わでもすれば、魔法が使えるだけの一般人の俺では一溜りも無いだろう。

「例のゴーレムを使うんで大丈夫ですよ」

だが今の俺にはゴーレムがある。
世界樹の一部で生み出した特殊なゴーレムが。

ゴーレムは体を構成する材質次第で大きくその性質を変える。
土で作った物は体が糞重い。
そのためパワーこそあるが愚鈍で、重量の制限から形成できる形も限られていた。
それに魔力で強く固めているとはいえ所詮は土、雨など被ると見る間に劣化してしまう。

それに対して世界樹の一部を使ったゴーレムの性能は、土で作った物とは比べ物にならない程優秀だった。
硬くしなやかで、その上驚くほど軽い。
また魔力も大量に含まれているので、その魔力を利用して機動の補助まで可能だった。

「あれですか」

「ええ」

俺はその素材を使って、飛竜ワイバーン状のゴーレムを生み出している。
エアフライ程高速ではないとはいえ、空を自由に飛び回る事が出来るゴーレムは移動に適しており、マーサさん達はこれに乗って調印式の会場へと向かっている。

唯一欠点があるとすれば、長時間の飛行で魔力切れを起こしてしまうと言う事ぐらいだろうか。
それも搭乗者が魔力を供給すればいいだけなので、エルフ達や俺が乗る分には全く問題ない。

「空の上から獲物を探すんで安全ですし。今夜にでもデカイの一発捕まえてきますよ」

ワイバーン型ゴーレムには魔法を吸収する核が付いており、それには熱感知機能も付いている――マーサさんからの提案で改良してつけた。自分で作っておいてなんだが原理はよく分かってはいない。
これを使えば夜の森だろうと、上空から容易く獲物をみつける事が出来るだろう。

「ははは、よろしくお願いします」

「おにいちゃーん!」

カイルと話していると、可愛らしい声が背後から聞こえて来た。
振り返って見ると、サラが手を振って此方に駆けて来るのが見えた。

「出来たみたいだな」

「そうみたいですね」

彼女は普段とは違う植物っぽい服を身に着けている。
どうやらこしらえて貰っていた新しい服が完成した様だ。
良く似合っている。

俺は片手を上げ、サラに返事を返した。
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