37 / 61
神国編
ユーリ・サンダルフォン③
しおりを挟む
「では君が後を引き継ぎ給え。戦果を期待している」
現場判断とは言え上司達を殺した行動は特に言及される事無く、あっさりと特進が告げられ私に大隊を率いる権限を与えられる。
サンダース少佐は、部下の命を無駄に大切にする慎重な男であった。
それが足を引っ張り、彼は上の望む様な成果を残せていなかった。
要は部下には人気があっても、上からは使えない人間と判断されていたのだ。
だからこうもスムーズに話が通った。
勿論私もそれを承知していたからこそ、そうなる様仕向け始末したわけだが――少佐が農民達をこっそり解放しようとしていたのは、「只の農民のふりをしているだけかもしれない」という理由で尋問を行なう許可を得るため、私が本部に伝言を送ったからだ。
イエスの返答が帰って来る事が分かっていたからこそ、少佐とそのシンパは夜陰に紛れて農民達をこっそり逃がそうとしていた。
それが私の仕掛けた罠だとも知らずに。
「はっ!了解しました!」
「期待している」
大隊長の座に就いた私は今の立場を最大限に利用し、戦果を挙げ続ける。
結果無茶な作戦行動で多くの部下が命を落としたが、それは些細な事だった。
重要なのは戦果だ。
その証拠に私は戦場での働きを買われ、短期で昇進を繰り返していく。
命をかけた戦場で実力が大きく開花していったのも大きい。
将軍の席を掴む頃には、私は文字通り一騎当千の魔導士へと成長し、焔の魔導士としてカレンド・ペイレス両国から恐れられる様になっていた。
此処までくればある程度戦況のコントロールも可能になって来る。
出来るだけ長く、そして多くの犠牲が出る様、泥沼の戦争を続かせる為に立ち回り両国を疲弊させていく。
全ては彼らを苦しめる為。
それこそが私の望みだった。
しかしふと思う。
何故私はこんな事をしているのかと?
確か理由があった筈なのだが、どうにも思い出せなかった。
恐らく、魔力を底上げする為に投与され続けた薬の影響だろう。
研究所から持ち出した分が切れた為、あれは最近投与してはいないが、確か記憶や精神に影響を及ぼす副作用があった筈。
「まあ、どうでもいいわね」
下らない事だと一笑に付す。
思い出せないのなら、所詮はその程度と言う事だろう。
重要なのは、今私が何を求めているかだ。
それを本能の赴くまま突き詰めていけばいい。
だが私は休戦直後、一つの大きなミスを犯す。
上同士が北部で極秘裏にやり取りを行っていた事を知っていた私は、近日中に火急の知らせとして休戦の伝令が来る事を知っていた。
それが丁度砦攻めのタイミングとかち合った私は、伝令からの報告を後回しにして砦へと攻め込み最後の一仕事を終えたのだが、これが不味かった。
報告を聞いていなかったと言う私の釈明は、事前に知っていた事を部下達が暴露した事で大きな問題になる。
普通なら処刑物だったが、あくまでも彼らの証言だけでそれ以外の証拠がなかったため事なきを得るが、それ以外の今までの強引な作戦に問題あると言いがかりをつけられ、降格させられてしまった。
佐官と将官では出来る事がまるで違って来る。
今の立場では来るべきペイレスとの再戦――両国は休戦を挟みながらも常に戦い続けている――までに出来る事が限られてしまうだろう。
戦争の下準備を整える為にも、私は上に上がろうと躍起になるがその機会は中々巡って来なかった。
そんなある日。
「ユーリ・サンダルフォン大佐。辞令をお持ちしました」
その辞令にはタラントの森周辺で発生している異変の調査と、安全の確保の為の部隊を指揮する様記載されていた。
調査など下らないと思えたが、宰相から降りて来た物では断る事も出来ない。
不承不承ながら私は任務を受けた。
そこで私はある男と出会う。
黒髪黒目の平凡な見た目の青年だった。
下らない任務だと思っていたが、密入国者という彼の言葉から私は彼を利用しペイレスとの火種にする事を思いつく。
我ながら名案だと思ったが、ここで予想外の事が起こってしまう。
突然エルフ達の襲撃を受け、しかも魔法を封じていた筈の相手から手痛い反撃を受けてしまったのだ。
挙句の果てに突如現れたドラゴンに押さえつけられ私は――
現場判断とは言え上司達を殺した行動は特に言及される事無く、あっさりと特進が告げられ私に大隊を率いる権限を与えられる。
サンダース少佐は、部下の命を無駄に大切にする慎重な男であった。
それが足を引っ張り、彼は上の望む様な成果を残せていなかった。
要は部下には人気があっても、上からは使えない人間と判断されていたのだ。
だからこうもスムーズに話が通った。
勿論私もそれを承知していたからこそ、そうなる様仕向け始末したわけだが――少佐が農民達をこっそり解放しようとしていたのは、「只の農民のふりをしているだけかもしれない」という理由で尋問を行なう許可を得るため、私が本部に伝言を送ったからだ。
イエスの返答が帰って来る事が分かっていたからこそ、少佐とそのシンパは夜陰に紛れて農民達をこっそり逃がそうとしていた。
それが私の仕掛けた罠だとも知らずに。
「はっ!了解しました!」
「期待している」
大隊長の座に就いた私は今の立場を最大限に利用し、戦果を挙げ続ける。
結果無茶な作戦行動で多くの部下が命を落としたが、それは些細な事だった。
重要なのは戦果だ。
その証拠に私は戦場での働きを買われ、短期で昇進を繰り返していく。
命をかけた戦場で実力が大きく開花していったのも大きい。
将軍の席を掴む頃には、私は文字通り一騎当千の魔導士へと成長し、焔の魔導士としてカレンド・ペイレス両国から恐れられる様になっていた。
此処までくればある程度戦況のコントロールも可能になって来る。
出来るだけ長く、そして多くの犠牲が出る様、泥沼の戦争を続かせる為に立ち回り両国を疲弊させていく。
全ては彼らを苦しめる為。
それこそが私の望みだった。
しかしふと思う。
何故私はこんな事をしているのかと?
確か理由があった筈なのだが、どうにも思い出せなかった。
恐らく、魔力を底上げする為に投与され続けた薬の影響だろう。
研究所から持ち出した分が切れた為、あれは最近投与してはいないが、確か記憶や精神に影響を及ぼす副作用があった筈。
「まあ、どうでもいいわね」
下らない事だと一笑に付す。
思い出せないのなら、所詮はその程度と言う事だろう。
重要なのは、今私が何を求めているかだ。
それを本能の赴くまま突き詰めていけばいい。
だが私は休戦直後、一つの大きなミスを犯す。
上同士が北部で極秘裏にやり取りを行っていた事を知っていた私は、近日中に火急の知らせとして休戦の伝令が来る事を知っていた。
それが丁度砦攻めのタイミングとかち合った私は、伝令からの報告を後回しにして砦へと攻め込み最後の一仕事を終えたのだが、これが不味かった。
報告を聞いていなかったと言う私の釈明は、事前に知っていた事を部下達が暴露した事で大きな問題になる。
普通なら処刑物だったが、あくまでも彼らの証言だけでそれ以外の証拠がなかったため事なきを得るが、それ以外の今までの強引な作戦に問題あると言いがかりをつけられ、降格させられてしまった。
佐官と将官では出来る事がまるで違って来る。
今の立場では来るべきペイレスとの再戦――両国は休戦を挟みながらも常に戦い続けている――までに出来る事が限られてしまうだろう。
戦争の下準備を整える為にも、私は上に上がろうと躍起になるがその機会は中々巡って来なかった。
そんなある日。
「ユーリ・サンダルフォン大佐。辞令をお持ちしました」
その辞令にはタラントの森周辺で発生している異変の調査と、安全の確保の為の部隊を指揮する様記載されていた。
調査など下らないと思えたが、宰相から降りて来た物では断る事も出来ない。
不承不承ながら私は任務を受けた。
そこで私はある男と出会う。
黒髪黒目の平凡な見た目の青年だった。
下らない任務だと思っていたが、密入国者という彼の言葉から私は彼を利用しペイレスとの火種にする事を思いつく。
我ながら名案だと思ったが、ここで予想外の事が起こってしまう。
突然エルフ達の襲撃を受け、しかも魔法を封じていた筈の相手から手痛い反撃を受けてしまったのだ。
挙句の果てに突如現れたドラゴンに押さえつけられ私は――
0
お気に入りに追加
1,034
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる