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第29童 保護
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「タラン村の人間は口を割ったのかしら?」
「いえ、それがまだ……」
軍服を身に纏った、金髪碧眼の肉感的なプロポーションをした女性が気弱そうな男性に高圧的に話しかける。
それに対し女の求める答えを出せていない為か、男の歯切れは悪い。
男も軍服を身に纏っている為、恐らく両名とも軍人だろう。
そうでないなら只の制服マニアだ。
2人の身に纏う軍服は青を基調とした物で、肩口に赤い獅子の意匠が施されている。
これはカレンド王国の軍人が纏う制服のデザインだった。
態度的に女が上官で、男はその部下と言った所だろう。
女の年齢は30前後。
若くは無いが、美人と言って差しさわりの無い顔立ちをしており、特に目を引くのはその気の強そうな眼差しだ。気の弱い者なら、その眼を見ただけで腰が引けてしまうだろう。
男は40後半と言った所だろう。
頬はこけ、その眼に力はなく卑屈な感じを受ける。
鼻の下に生やしたちょび髭も全く似合っておらず、正にうだつの上がらないおっさんと言った容貌をしていた。
「こうなって来ると、その……言い辛いのですが……」
「何かしら?」
女の剣呑な眼差しに、男は頭を掻きながら困った様な表情で言葉を続ける。
「妖精達が嘘をついている可能性が高いのではと……ですから、タラン村の人間は帰した方が……」
男の言葉の続きを聞いて、女の目つきが険を増す。
その瞳には汚いものを見るかの様な侮蔑がありありと浮かんでいた。
「本気で言ってるの?」
「い、いえ……私はその……」
女は手にした鞭を振り下ろす。
しどろもどろ言い訳をしようとする男に向かって。
「ひぃっ!?」
鞭は男の直ぐ足元を打ち。
悲鳴と共に男は飛んで後ずさる。
「妖精が私達に嘘を吐くメリットはないわ。それにこの局地的異常気象。その中心点であるタラン村。何もない訳が無いでしょ?」
異常気象はある一定範囲内だけ気温が劇的に上昇するというものだった。
そこから一歩でも外に出ると温度は急激に下がる。
まるで壁で仕切られているかの様に綺麗に。
そんな事は自然現象ではありえない。
そしてその範囲は円を描く様に広がっており、観測班の手によってその中心地点がタラン村付近だという報告を彼女達は受けていた。
「妖精の言う神かどうかは兎も角、少なくともあの村に強大な力を持つ何かが居たのは確かなはずよ。それを聞き出すまで、彼らを帰すなんて論外よ」
「それはそうなんですが……小さな子供や赤ん坊も居ます事ですし……」
男は出来るだけ事を穏便に済ませたいと考えていた。
先遣隊の自分達の仕事はあくまでも安全確保がメインだ。
本格的な調査に関しては、この後やって来るであろう本隊に任せればいいと考えている。
特に手柄を立てる気も無い彼からしてみれば、後で問題になる様な事は好ましくない。
その為、村人をさっさと帰してしまいたいというのが本音だった。
「なら猶更、彼女達には此処に留まって貰うべきね」
だが女は男とは違う。
うだつの上がらない男と違い、元々軍の高官で在った彼女はとある失敗で左遷されてしまっている身だ。
だから今回の調査は彼女にとってチャンスだった。
理想で言えば国が危険視している事態を自らの手で収拾する事だが、其れが叶わなくとも、最低でも重要な情報を手に入れる事が出来ればそれは復権の為の大きな足掛かりとなる。
その為、本隊が来る前に彼女はどうしても功績を立てておきたいのだ。
「村は魔物に襲われた影響でかなりボロボロだったわ。あんな場所で暮らすより、軍の野営地の方が余程安全でしょ?これは誘拐ではなく保護よ」
妖精は兎も角、村人を拘束する為には大義名分が必要だ。
最初は妖精の情報で取り調べも兼ねて野営地へと引っ張ってきたが、長期間拘束する以上、上が納得できる言い訳がどうしても必要になって来る。
彼女は村人の保護をそれに充てるつもりの様だった。
「しかし……簡易的とはいえ、柵などの修復は終わっているようですし……」
「ミノタウロスがまた襲ってきたらあんな柵、なんの役にも立たないでしょ?」
「もう一度……ですか?」
確かにミノタウロスの前では無いに等しい防護壁だ。
だがミノタウロスはこの辺りに生息している魔物ではない。
1度目の襲撃すら何故ここに?と言ったレベルである。
2度目の襲撃があるとは考え辛い。
だが一度あった以上、2度目を警戒するのはそれ程おかしい事ではなかった。
「貴方は村人を村に帰して、その結果皆殺しにされた時、その責任を取れるのかしら?」
「それは……」
「だからこれは保護なの。そして駐屯地に居る間、少しだけ彼らに調査を協力してもらう。只それだけの事よ。何か異論は?」
「ありません」
「では村人の取り調べ……ではなく、調査協力をして貰ってきなさい」
「了解しました」
後で面倒な事に成らなければいいが。
そう考え、男は気苦労から小さく溜息を吐き、その場を後にした。
「いえ、それがまだ……」
軍服を身に纏った、金髪碧眼の肉感的なプロポーションをした女性が気弱そうな男性に高圧的に話しかける。
それに対し女の求める答えを出せていない為か、男の歯切れは悪い。
男も軍服を身に纏っている為、恐らく両名とも軍人だろう。
そうでないなら只の制服マニアだ。
2人の身に纏う軍服は青を基調とした物で、肩口に赤い獅子の意匠が施されている。
これはカレンド王国の軍人が纏う制服のデザインだった。
態度的に女が上官で、男はその部下と言った所だろう。
女の年齢は30前後。
若くは無いが、美人と言って差しさわりの無い顔立ちをしており、特に目を引くのはその気の強そうな眼差しだ。気の弱い者なら、その眼を見ただけで腰が引けてしまうだろう。
男は40後半と言った所だろう。
頬はこけ、その眼に力はなく卑屈な感じを受ける。
鼻の下に生やしたちょび髭も全く似合っておらず、正にうだつの上がらないおっさんと言った容貌をしていた。
「こうなって来ると、その……言い辛いのですが……」
「何かしら?」
女の剣呑な眼差しに、男は頭を掻きながら困った様な表情で言葉を続ける。
「妖精達が嘘をついている可能性が高いのではと……ですから、タラン村の人間は帰した方が……」
男の言葉の続きを聞いて、女の目つきが険を増す。
その瞳には汚いものを見るかの様な侮蔑がありありと浮かんでいた。
「本気で言ってるの?」
「い、いえ……私はその……」
女は手にした鞭を振り下ろす。
しどろもどろ言い訳をしようとする男に向かって。
「ひぃっ!?」
鞭は男の直ぐ足元を打ち。
悲鳴と共に男は飛んで後ずさる。
「妖精が私達に嘘を吐くメリットはないわ。それにこの局地的異常気象。その中心点であるタラン村。何もない訳が無いでしょ?」
異常気象はある一定範囲内だけ気温が劇的に上昇するというものだった。
そこから一歩でも外に出ると温度は急激に下がる。
まるで壁で仕切られているかの様に綺麗に。
そんな事は自然現象ではありえない。
そしてその範囲は円を描く様に広がっており、観測班の手によってその中心地点がタラン村付近だという報告を彼女達は受けていた。
「妖精の言う神かどうかは兎も角、少なくともあの村に強大な力を持つ何かが居たのは確かなはずよ。それを聞き出すまで、彼らを帰すなんて論外よ」
「それはそうなんですが……小さな子供や赤ん坊も居ます事ですし……」
男は出来るだけ事を穏便に済ませたいと考えていた。
先遣隊の自分達の仕事はあくまでも安全確保がメインだ。
本格的な調査に関しては、この後やって来るであろう本隊に任せればいいと考えている。
特に手柄を立てる気も無い彼からしてみれば、後で問題になる様な事は好ましくない。
その為、村人をさっさと帰してしまいたいというのが本音だった。
「なら猶更、彼女達には此処に留まって貰うべきね」
だが女は男とは違う。
うだつの上がらない男と違い、元々軍の高官で在った彼女はとある失敗で左遷されてしまっている身だ。
だから今回の調査は彼女にとってチャンスだった。
理想で言えば国が危険視している事態を自らの手で収拾する事だが、其れが叶わなくとも、最低でも重要な情報を手に入れる事が出来ればそれは復権の為の大きな足掛かりとなる。
その為、本隊が来る前に彼女はどうしても功績を立てておきたいのだ。
「村は魔物に襲われた影響でかなりボロボロだったわ。あんな場所で暮らすより、軍の野営地の方が余程安全でしょ?これは誘拐ではなく保護よ」
妖精は兎も角、村人を拘束する為には大義名分が必要だ。
最初は妖精の情報で取り調べも兼ねて野営地へと引っ張ってきたが、長期間拘束する以上、上が納得できる言い訳がどうしても必要になって来る。
彼女は村人の保護をそれに充てるつもりの様だった。
「しかし……簡易的とはいえ、柵などの修復は終わっているようですし……」
「ミノタウロスがまた襲ってきたらあんな柵、なんの役にも立たないでしょ?」
「もう一度……ですか?」
確かにミノタウロスの前では無いに等しい防護壁だ。
だがミノタウロスはこの辺りに生息している魔物ではない。
1度目の襲撃すら何故ここに?と言ったレベルである。
2度目の襲撃があるとは考え辛い。
だが一度あった以上、2度目を警戒するのはそれ程おかしい事ではなかった。
「貴方は村人を村に帰して、その結果皆殺しにされた時、その責任を取れるのかしら?」
「それは……」
「だからこれは保護なの。そして駐屯地に居る間、少しだけ彼らに調査を協力してもらう。只それだけの事よ。何か異論は?」
「ありません」
「では村人の取り調べ……ではなく、調査協力をして貰ってきなさい」
「了解しました」
後で面倒な事に成らなければいいが。
そう考え、男は気苦労から小さく溜息を吐き、その場を後にした。
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