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第16童 神様は止めろ

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「おお、まさしく貴方様こそ古より伝わる神様に違いありません!」

妖精の一人が感極まったかのように涙を流し、俺を神様と呼ぶ。
なんでやねん。

「「「神様!神様!」」」

その一言に触発されたのか、俺を取り囲む妖精達が口々に神様と叫び。
手を上げて万歳しだす。
もし俺がインチキ宗教家だったら、こいつらは嘸かしさぞかし良いカモだった事だろう。

「いや、俺は神様じゃないんだけど?」

声を出して否定するが、興奮しているのか誰も俺の言葉に耳を傾けようとしない。
仕方ないので俺は一緒になって万歳してるリピを引っ掴まえ、止める様伝えた。

「え?神様は神様じゃないですか?」

「うん、全然違う」

リピが不思議そうに聞いてくる。
むしろ不思議なのはこっちだ。
何をどうしたら俺が神になるというのか?

「兎に角、妖精達に囲まれていきなり神様なんて言われたら怖いわ。何とかしてくれ」

俺の魔法で在り得ない位成長した霊樹を茫然と眺めていると、どこからともなく数十匹の妖精が現れて俺を取り囲み、唐突に今のこの流れが始まる。
洗脳か何かみたいで普通に怖い。

「皆神様に会えて喜んでるんですよ!怖くなんてありませんって!」

「だから神様じゃねーっての。なんで俺が神になるんだよ?」

「やだなぁ、もう神様ったら。私達の霊樹をこんなに立派にできるの何て、神の御業以外考えられないじゃないですかぁ」

「う……」

そう言われると反論しづらい。
俺は魔法を使っただけだが、元を辿ればこれは神様から貰った力だ。
神の力かどうかと言えば、間違いなく神の力に分類されるだろう。
その事から妖精達が誤解するのは仕方のない事なのかもしれない。
とは言え、誤解はちゃんと解いておかなければ。

「俺は神じゃねーよ。只の魔導師だ」

「もう、冗談ばっかり。人間の魔導師にあんな奇跡が起こせるわけ無いじゃないですかぁ」

俺の言葉を信じる気は更々無い様だ。
人を神様呼ばわりしておいて、神様と思っている相手の言葉を信じないとかどうなってるんだこいつの脳みそは?

正直こいつらに神様と呼ばれるだけなら特に問題はなかった。
少し恥ずかしくはあるが、大きな貸しがある以上、俺に害をなす可能性は低い筈だ。
何より神様相手に――本気でそう思っているなら――無茶な行動はしてこないだろう。

問題はこいつらの口から俺の事が外部に漏れた場合だ。
絶対トラブルの種になる。
それだけは避けたい。

とは言え霊樹を糞でかくした以上、奇跡を起こす力がないと言うには無理がある。
俺は苦肉の策として、あの力は神様から貰ったものでもうこれっきり使えないと彼女達へと説明する事にした。

「リピ、落ち着いて俺の話を聞いてくれ。実は以前魔法の研究で、偶然神様に出会った事があるんだ。さっき使ったのはその時授かった力で、別に俺自身が奇跡を起こした訳じゃねーんだよ。それにさっきの力は一発こっきりでもう使えないし」

「え!?そうなんですか!?」

「そうだよ、だから他の妖精達に説明してくれ。俺は神じゃないって。大体どう見ても神様って風貌してないだろう?」

「うーん、言われてみれば確かに」

そう返事すると、リピは一匹の妖精に近づいて耳打ちする。
最初に俺を神と宣言した妖精だ。
恐らく彼女がこの妖精達のリーダーなのだろう。

因みに喋り方はおっさん臭いが、見た目は可愛らしい女の子の妖精そのものである。ひょっとしたら彼等には、性別や年齢による見た目の変化というものが無いのかもしれない。

「だそうです」

「ほうほう、成程。つまり貴方様は――――やはり神様で間違いなかった訳ですな!」

「なんでだよ!?」

思わず大声で突っ込んでしまう。
俺の声に驚いて周りの妖精達の神様コールが止まり、俺へと視線が集中する。

「こほん。貴方様は神様と会い、力を授けられたのでしょう?」

リーダーらしき妖精が咳払いして口を開く。
どうやら俺の疑問に答えてくれる様だ。

「あ、ああ。あれ一回きりでもう使えないけどな」

「神より力を授かったという事は、それは貴方が天使である事の証。つまり――」

「つまり?」

「やはり神様という事です!」

なんでやねん。
今俺の事を天使って言ったばかりじゃねぇか。
なんで=神様なんだよ。
妖精は頭が悪いのか?

「我らにとって神に選ばれし者、神に仕えし者、それらは等しく神様なのです」

「いや、違うだろ。絶対」

「良かったですね、神様!」

何一つ良くねぇよ。
こっちは神様呼ばわりされると困るから訂正しようとしてるのに……

そして再び始まる神様コール。
この後2時間かけて懇切丁寧に説明するが、結局俺が神ではない事を彼らは認めて貰えなかった。
仕方ないので、周りには一切口外しないという約束で妥協する。


そしてこの妥協が、後々大きな面倒事を俺の元へと運んで来る事となってしまう。
何故なら、妖精は口が軽いから。
奴らを少しでも信じた俺が馬鹿だった。
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