上 下
11 / 61

第11童 狩り

しおりを挟む
ガサガサと音を立てながら、先頭を歩くカイルが鉈で藪を切り払い進む。
俺は彼の後ろに付いて歩いているのだが、顔や体に草や枝が当たって不快極まりない。
流石に鉈で軽く払った程度では、快適に進むとはいかない様だ。

これで虫がいたら地獄だったに違いない。
今が冬近くで本当に良かった。

「おっと……」

急にカイルが立ち止まったため、俺は危うくぶつかりそうになり声を上げた。
すると振り返ったカイルが口元に人差し指を立てて、静かにしろのジェスチャーを俺に向ける。

「少し先に熊がいます。見えますか」

小声で呟くカイルの指さす方を見ると、確かに熊の様な獣の姿が木々の合間から垣間見えた。
かなり大きい。
体長は3メートル近くあるのではないだろうか?

「でか……」

「ええ、大人ですね。本来なら武器を使って10人以上で狩りを仕掛ける相手ですが」

あんな巨大な熊に槍や斧で仕掛けるなど、俺から見たら自殺行為でしかないのだが。
彼らの村では毎年数頭、その方法で熊を狩っているらしい。
村人恐るべしだ。

「勇人さん、お願いします」

ここには俺とカイルしかいない。
当然あれを狩るのは俺の仕事だ。

「分かりました。パラライズ!」

俺の手からバチバチと雷光を纏う光の玉が放たれ、高速で飛んでいく。
それは熊へ触れた瞬間弾けて眩い閃光へと変わり、腹の底に響く様な重低音と振動を辺りへと撒き散らす。

直撃した熊は少しふらついたかと思うと、ゆっくりとその場で横倒しに崩れ落ちた。
だが死んではいない。
麻痺させただけだ。

今使ったのは麻痺の魔法。
出来うる限り新鮮な状態を保つため、殺さず生け捕りにしたのだ。

普通に狩りをすると傷口から菌が入り込み、血は直ぐに腐ってしまう。
血液中の塩分が主目的なのに腐らせてしまっては元も子も無い。
その場で調理加工する訳にもいかない以上、新鮮なまま持ち帰るには生け捕りが一番だった。
これなら腐る事は絶対ない。

「お見事!流石です!」

カイルの口調は、本当に凄いと言った感じなのだが……
30年間純潔だった証だと考えると、素直に喜べない自分がいた。
まあ熊を狩るという目的は果たしたし、さっさと帰るとしよう。

「獲物も手に入りましたし、帰るとしましょうか」

「そうですね。では勇人さん、お願いします」

「……へ?」

「ん?」

お互い不思議そうに顔を見合わす。
一瞬何のことか分からなかったが、カイルのお願いしますは熊の運搬についてだと気づいて狼狽える。

「あー、いや。その……」

熊を狩る事で頭いっぱいで、その後の事まで考えていなかった。

目の前に寝転がる熊を見る。
軽く数百キロはありそうだ。
こんな巨体を二人で持ち帰る等まず無理だろう。
勿体ないが、この場で熊を解体し持てる分だけ持って帰るしか……

「申し訳ないんですけど、運ぶ手段がなくてですね……」

「ん?飛行魔法を使われるとサラから聞いていますが?それで運ばれるとばかり思っていたのですが、駄目なのですか?」

おお!
飛行魔法か!

カイルに言われて思い出した。
確かにあれなら熊でも運べるかもしれない。
少々寒いが、熊に包まる様にすればそれだってきっとそれ程酷くは無いはずだ。

「確かに。少し寒いですが、飛行魔法なら運べるかもしれませんね」

俺は早速、エアフライで熊とカイルを連れて上空へと飛翔する。
熊の重さは特に気にならない。
これなら余裕だ。

「凄いですね。体がふわふわとしてて……」

カイルはおっかなびっくりと言った表情で周囲を見渡す。
サラに聞いたとは言っていたが、聞くのと体感するのでは別物だからこの反応も頷ける。

俺は彼が落ち着いた所で、熊が空気の壁となる様に前方に配置して村へと舵を取る。
寒いには寒いが、やはり大きな風よけがあると全然違う物だ。

次から飛行魔法を使う時は、この手で行くとしよう。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。 それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。 高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕! いつも応援やご感想ありがとうございます!! 誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。 更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。 書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。 ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。 イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。 引き続き本作をよろしくお願い致します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...