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第6童 言語習得
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少女がすーすーと寝息を立てている。
俺はその横で、焼いた猿の様な動物の足にかじりついた。
あの後、土のシェルターを作ってそこに気絶していた少女を放り込み。森を探索して食料を集めてきたのだ。成果は変な猿の様な生き物と、紫色の毒々しい果物4個だった。
猿は控えめに言ってもクソ不味い。
肉は筋肉質で硬く、噛み切るのに一苦労なうえ臭みがエグくて吐きそうだ。
俺は肉を水で無理やり胃袋に流し込み、今度は紫色の果実に手を伸ばす。
色合い的に物凄く毒が含まれていそうな見た目だが、俺は構わず齧り付いた。
幸い俺の魔法の中には解毒用の魔法がある。
仮に毒があっても、魔法で回復出来るからこその蛮行だ。
即死する様なのはあれだが、まあ果物に即死する様な類の毒はないだろう。
多分。
「美味い!」
毒々しい見た目とは裏腹に、果物はすっきりとした甘味にシャキシャキした食感が素晴らしい。
「ぱにゃぽ?」
少女が目を覚まし、謎の言葉を口にする。
どうやら俺が思わず上げた声で起こしてしまった様だ。
「食べる?」
俺は果物を一つ掴み、そっと少女へと差し出す。
「ぺあ?」
相変わらず何を言ってるのか分からない。
取り敢えず俺は笑顔で彼女の手に果物を握らせた。
途端に少女は果物に齧り付き、物凄い勢いで食べ尽くす。
余程腹が減っていたのだろう。
残りの果物も手渡すと、あっという間に全て平らげてしまった。
「もういいかい?」
まあもう猿の肉しか残っていないので、仮に足りなかったとしてもこれを勧める気は流石にないが。
少女が真っ直ぐに俺の顔を見つめる。
するとその表情が大きく歪み、ポロポロと大粒の涙が零れだした。
「う…うわああああぁぁぁ」
彼女は俺の胸に飛び込み、大声を上げて泣き叫ぶ。
腹が膨れて落ち着いたら、恐怖がぶり返して来たのだろう。
少女はわんわん声を上げて泣き続けた。
「しかし、言葉がわからんのは不味いなぁ」
泣き疲れて再び眠りについた少女の横で、俺は一人呟く。
当然の事だが、異世界では日本語は通用しない。
0から言葉を覚えなければいけない訳だが……
はっきり言って俺は外国語が苦手だ。
学生時代は英語の授業は当たり前の様に赤点ぎりぎりで、追試を受ける事も多かった。
それぐらい苦手だ。
「はぁ……なんとか魔法で……って無理かぁ」
どう考えても魔法で何とかなる様な問題ではない。
だがひょっとしたら、学習能力を高める様な魔法があるのでは?
そう思い、一縷の望みをかけて頭の中の図書館で色々検索してみた。
「おお!あった!」
言語を無視して会話を行う魔法を見つけ、半分諦めていた俺は小躍りする。
その際、同じ言語でも会話できなくするという全く逆の魔法も見つけたが、まあこれは別に使わないからいいだろう。
早速自分に魔法をかけて見る。
「ラングウォールブレイク!」
体が一瞬青く光る。
だが特に変化は感じない。
「まあ成果は眠り姫の目覚め待ちだな」
……自分で口にしといて何だが、今のは最高に気持ち悪い。
誰にも聞かれてなくて良かった。
「ねむりひめ?」
ドキッとして横を見ると、真っ赤に目を晴らした少女がいつの間にか起き上がり、此方を見つめていた。
「……」
聞かれてた。
起きてくるの早いよ!
くっそ小っ恥ずかしいじゃねぇか!
顔が赤くなるのを感じる。
だが此処で慌てると変人度が上がってしまう。
兎に角平常心だ。
軽く深呼吸して心を落ち着け、俺は何事も無かったかの様に少女に語りかけた。
「お……起きてたんだ」
「はい」
「あー、えっと。体は大丈夫かい?」
気絶している間に回復魔法と解毒魔法をかけておいたが、一応何処か異常がないか確かめておく。
「大丈夫です。魔道士様」
どうやら異常はない様だ。
しかし魔道士様か。この世界では魔法使いは魔道士と呼ばれてるんだな、覚えておこう。
というか言葉はちゃんと通じてるな。
どういう原理か知らないが、魔法ってほんと便利だ。
「魔道士様、助けて頂いて有難うございました」
少女が正座して深々と頭を下げる。
この世界でも正座して頭を下げるのは、感謝なり謝罪なりの証の様だ。
共通項が多いと、その分覚えることが少なくて助かる。
「別に構わないさ。それより……あ、いや何でもない」
なぜミノタウロスに追われていたのか?そう口にしようとして咄嗟に言葉を飲み込む。さっきまで恐怖でわんわん泣いていた子にその質問は酷と言うものだ。
もう暫く落ち着く時間を上げた方が良いだろう。
「私の…住んでた村が……襲われたんです」
俺が無理やり途切れさせた言葉の続きを察してか、少女が俯きながらぽつりぽつりと事情を話し出す。
「村の皆……いっぱい殺されて。お父さんと…うっ……えっぐ……お母さんが逃げなさいって……」
次第に少女の目から涙が零れおち、肩を震わせる。
かける言葉もない。
森で魔物に偶々遭遇した位を想像していたのだが、まさかそこまで酷い状況だったとは。
「だ……だから私……」
「もういい、もういいよ。あいつはもう倒したから。もう大丈夫だから……」
俺は少女を優しく抱きしめ、そっと頭を撫でてやる。
彼女が泣き止むまでずっと。
俺はその横で、焼いた猿の様な動物の足にかじりついた。
あの後、土のシェルターを作ってそこに気絶していた少女を放り込み。森を探索して食料を集めてきたのだ。成果は変な猿の様な生き物と、紫色の毒々しい果物4個だった。
猿は控えめに言ってもクソ不味い。
肉は筋肉質で硬く、噛み切るのに一苦労なうえ臭みがエグくて吐きそうだ。
俺は肉を水で無理やり胃袋に流し込み、今度は紫色の果実に手を伸ばす。
色合い的に物凄く毒が含まれていそうな見た目だが、俺は構わず齧り付いた。
幸い俺の魔法の中には解毒用の魔法がある。
仮に毒があっても、魔法で回復出来るからこその蛮行だ。
即死する様なのはあれだが、まあ果物に即死する様な類の毒はないだろう。
多分。
「美味い!」
毒々しい見た目とは裏腹に、果物はすっきりとした甘味にシャキシャキした食感が素晴らしい。
「ぱにゃぽ?」
少女が目を覚まし、謎の言葉を口にする。
どうやら俺が思わず上げた声で起こしてしまった様だ。
「食べる?」
俺は果物を一つ掴み、そっと少女へと差し出す。
「ぺあ?」
相変わらず何を言ってるのか分からない。
取り敢えず俺は笑顔で彼女の手に果物を握らせた。
途端に少女は果物に齧り付き、物凄い勢いで食べ尽くす。
余程腹が減っていたのだろう。
残りの果物も手渡すと、あっという間に全て平らげてしまった。
「もういいかい?」
まあもう猿の肉しか残っていないので、仮に足りなかったとしてもこれを勧める気は流石にないが。
少女が真っ直ぐに俺の顔を見つめる。
するとその表情が大きく歪み、ポロポロと大粒の涙が零れだした。
「う…うわああああぁぁぁ」
彼女は俺の胸に飛び込み、大声を上げて泣き叫ぶ。
腹が膨れて落ち着いたら、恐怖がぶり返して来たのだろう。
少女はわんわん声を上げて泣き続けた。
「しかし、言葉がわからんのは不味いなぁ」
泣き疲れて再び眠りについた少女の横で、俺は一人呟く。
当然の事だが、異世界では日本語は通用しない。
0から言葉を覚えなければいけない訳だが……
はっきり言って俺は外国語が苦手だ。
学生時代は英語の授業は当たり前の様に赤点ぎりぎりで、追試を受ける事も多かった。
それぐらい苦手だ。
「はぁ……なんとか魔法で……って無理かぁ」
どう考えても魔法で何とかなる様な問題ではない。
だがひょっとしたら、学習能力を高める様な魔法があるのでは?
そう思い、一縷の望みをかけて頭の中の図書館で色々検索してみた。
「おお!あった!」
言語を無視して会話を行う魔法を見つけ、半分諦めていた俺は小躍りする。
その際、同じ言語でも会話できなくするという全く逆の魔法も見つけたが、まあこれは別に使わないからいいだろう。
早速自分に魔法をかけて見る。
「ラングウォールブレイク!」
体が一瞬青く光る。
だが特に変化は感じない。
「まあ成果は眠り姫の目覚め待ちだな」
……自分で口にしといて何だが、今のは最高に気持ち悪い。
誰にも聞かれてなくて良かった。
「ねむりひめ?」
ドキッとして横を見ると、真っ赤に目を晴らした少女がいつの間にか起き上がり、此方を見つめていた。
「……」
聞かれてた。
起きてくるの早いよ!
くっそ小っ恥ずかしいじゃねぇか!
顔が赤くなるのを感じる。
だが此処で慌てると変人度が上がってしまう。
兎に角平常心だ。
軽く深呼吸して心を落ち着け、俺は何事も無かったかの様に少女に語りかけた。
「お……起きてたんだ」
「はい」
「あー、えっと。体は大丈夫かい?」
気絶している間に回復魔法と解毒魔法をかけておいたが、一応何処か異常がないか確かめておく。
「大丈夫です。魔道士様」
どうやら異常はない様だ。
しかし魔道士様か。この世界では魔法使いは魔道士と呼ばれてるんだな、覚えておこう。
というか言葉はちゃんと通じてるな。
どういう原理か知らないが、魔法ってほんと便利だ。
「魔道士様、助けて頂いて有難うございました」
少女が正座して深々と頭を下げる。
この世界でも正座して頭を下げるのは、感謝なり謝罪なりの証の様だ。
共通項が多いと、その分覚えることが少なくて助かる。
「別に構わないさ。それより……あ、いや何でもない」
なぜミノタウロスに追われていたのか?そう口にしようとして咄嗟に言葉を飲み込む。さっきまで恐怖でわんわん泣いていた子にその質問は酷と言うものだ。
もう暫く落ち着く時間を上げた方が良いだろう。
「私の…住んでた村が……襲われたんです」
俺が無理やり途切れさせた言葉の続きを察してか、少女が俯きながらぽつりぽつりと事情を話し出す。
「村の皆……いっぱい殺されて。お父さんと…うっ……えっぐ……お母さんが逃げなさいって……」
次第に少女の目から涙が零れおち、肩を震わせる。
かける言葉もない。
森で魔物に偶々遭遇した位を想像していたのだが、まさかそこまで酷い状況だったとは。
「だ……だから私……」
「もういい、もういいよ。あいつはもう倒したから。もう大丈夫だから……」
俺は少女を優しく抱きしめ、そっと頭を撫でてやる。
彼女が泣き止むまでずっと。
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