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王都へ

第16話 再会

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離れの案内が終わり、外に出た所で――

「アドルーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

――俺を見つけたソアラが嬉しそうにこっちに突っ込んで来た

まったく速度を落とさない様子から『あ、こいつ体当たりぶちかます気だな』と気づいた俺は足を踏ん張り、その強烈なタックルを正面から受け止める。

「ぬがっ!?」

つもりだったのだが、余りにも勢いが強すぎて吹っ飛んでしまう。
ソアラに抱き着かれた形の俺は、そのまま離れの壁に激突して止まる。
背中が超痛い。

「いててて……まったく、勘弁してくれよ」

「アドル……弱くなった?」

「ソアラが強くなり過ぎなんだよ」

「そっか……じゃあまた地獄の猛特訓だね」

ソアラが俺の胸元にしがみ付いたまま、笑顔でサラリと恐ろしい事を言う。
正に天使の様な悪魔の笑顔。
マジで勘弁してください。

「なーんてね。アドルも魔物を倒してレベルを上げれば直ぐに追いつけるよ」

「魔物狩りもあんまりしたくはないけど……地獄の猛特訓よりはマシか」

「あ、でも。特訓ももちろんやるよ!だって二人で魔王を倒すんだから!!」

ソアラさん。
半年前に旅立つ時、やるなら一人でやれって話をしたはずなんだが?

「俺はあくまでも、困った時のお助けキャラだぞ」

「ちぇっ、覚えてたか」

「当たり前だろ」

それだって、できればあまり期待しないで欲しい位である。
もちろんソアラが困ったなら、無条件で手を差し出すつもりではあるが。

「でも特訓は一緒にやろう!」

「やれやれ……ほどほどに頼むよ」

訓練はまあしょうがない。
遠くにいるならともかく、近くにいる限り拒否しても強制して来るのは目に見えているからな。

「ゴホンッ」

ゴリアテさんが自己主張するかの様に、強めの咳ばらいをする。
半年ぶりに会った我が子が友達にばっかり気を取られていたら、まあそりゃ焼きもちも焼くか。

「あ、おとーさんおかーさん久しぶり」

「ふふふ、元気にしてたみたいね」

「うん!」

「元気なのはいい事だが、いきなり人に抱き着くのはどうかとお父さんは思うぞ。それも男の子相手に。お前ももういい歳なんだからな……」

ああ、まあ確かにもう12歳だからな。
男女の線引きを考え出す年ごろではある、か。

アデリンさんとうちの母親は、俺とソアラをくっつける気満々だ。
だが父親であるゴリアテさんはそうでもない。
だから、同世代の男子である俺に抱き着くのをよくは思わないのだろう。

だったら俺を一緒に連れて来なければいいのにって思わなくもないが、そこは奥さんに押し切られて仕方無しって感じだろうと思われる。

「?」

ゴリアテさんの言葉に、ソアラがきょとんとした顔になる。
が、直ぐ笑顔になって――

「アドルだから大丈夫だよ!」

とか言い出す。
どうやらソアラはゴリアテさんの言葉を、体当たりしたら危ないだろうと受け取った様である。
言いたい事が全く伝わっていない。

だがこれだけは言わせて貰う。
たとえ体当たりって意味だったとしても――

「全然大丈夫じゃねぇよ」

現に吹っ飛んで壁に激突してる訳だからな。
俺じゃなかったら大怪我物だぞ。

「大丈夫じゃん!あ、それよりあたしアドルにお願いがあるんだ!!」

人の苦情をサラリと流して、自分の話に持っていく。
相変わらずマイペース極まりない奴だ。

「お願いって?言っとくけど、魔王討伐に一緒にいこうとかなら駄目だぞ」

「違う違う」

「じゃあなんだ?」

ソアラのお願いとか、魔王倒すか特訓しようかぐらいしか思い当たらないんだが?
一体彼女は俺に何を頼むつもりなのだろうか。

「実はバルターおじさんがオリハルコンの剣を使っててね」

「おじさんって……」

こいつ、王国最強の騎士をおじさん呼ばわりしてんのかよ。
いくら何でも気安す過ぎだろうに。
まあこの際、おじさん呼びはおいておこう。

「オリハルコンか……流石王国最強の騎士だけあって、凄い武器使ってるな」

オリハルコンは地上最硬度を誇ると言われる金属だ。
殆ど流通していないため、伝説の金属なんて言われている程貴重だったりする。

「でね。アタシも欲しいって言ったら、王様が原石はあるけど加工できる人間がいないから無理だって言うの」

「それって、体よく断られただけじゃないか?」

何か実績を上げての褒章ってんならともかく、いくら強い勇者とはいえ、12歳の子供にポンとくれてやれる様な物じゃないだろうからな。

「そんな事ないよ!王様は嘘ついたりしないから!」

他人の言葉を鵜呑みにするとは、純粋なもんである。
ソアラもまだまだ子供だな。

「はいはい、わかったわかった。で、そのオリハルコンの話と俺への頼みはどう繋がってるんだ?」

「えへへ、お願いはね……そのオリハルコンで私用の武器を作って欲しいの」

「は?何言ってるんだ?俺は鍛冶師じゃないぞ?」

「でもアドルは製造系のスキルも――むぐぐ」

何を言おうとしたの勘づいた俺は、咄嗟にソアラの口を手で塞ぐ。

この場には彼女の両親やメイドさん。
それにゼッツさんもいるのだ。
堂々と人の隠してるクラスの秘密に迫る発言をされては叶わない。

「その話は秘密って約束だろ」

ソアラにだけ聞こえる様に、小声で伝える。

「えへへ、ごめん」

ごめんじゃねーよ。
バレたら俺まで強制的に城勤めにされかねない。
危うくスローライフ計画が終焉するところだ。

「まあその話は後だ。いいな」

ソアラの言いたい事はまあ理解できた。
要は、製造クラス――ブラックスミスのスキルを取って、それで何とかしろって事なのだろう。

……俺が本当にそれでオリハルコンの原石を剣に出来てしまったら、きっと王様涙目だろうな。

「うん」

「あらあら、何々?二人だけの秘密の話かしら。ほんと、貴方達は仲が良いわねぇ」

「……」

俺達の様子を見て、アデリンさんが嬉しそうに微笑む。
それとは対照的に、ゴリアテさんは腕を組んでブスッとしていた。

本当に分りやすい構図である。

「うん!だってアドルはあたしの相棒だもん!!」

母親の問いに、迷いなくソアラは最高の笑顔でそう答えた。
その笑顔を見て思う。

……ここでは構わないけど、他所で相棒呼びはマジで勘弁してくれよ。

と。
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