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第102話 ダメ元
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新しい町での新生活。
もちろんここでも、人とは関わらず生きていくつもりだった。
知人を作っても、ネクロマンサーとわかれば掌を返されるのが分かりきっているから。
「あら、ひょっとして……クロウさんじゃない?」
そんな私に声をかける人物がいた。
驚きつつも、声をかけてきた人物を見ると――
「……」
そこには不気味な生き物がいた。
ひらひらな服を着た、オーガの様な体格をした男だ。
恐ろしい事に、その顔には化粧と思しきものまで施されている。
見た目のインパクトもそうだけど……あんた誰?
「失礼ですが……どちら様かお伺いしても?」
もし一度でも顔を合わせた事があるなら、こんな強烈な人物を忘れるはずがない。
つまり、初対面という事だ。
にもかかわらず、相手は私の名を知っていた。
いったいこの人物は何者だろうか?
「あら、まあ分からないわよねぇ。だいぶ変わっちゃったし。あたしよ、マッチョメンに所属していたエクス・カリバルよ」
「……は?」
マッチョメンといえば、黄金級パーティーである。
そしてエクス・カリバルはそのメンバーだ。
たいした親交があった訳ではないが、何度か顔を合わせた事がある相手なので当然顔は知っている訳だが、目の前の珍獣は似ても似つかわな……
「ふぁっ!?」
いや、いやいやいやいやいやいや……
この顔って……
化粧のせいで印象がだいぶん変わってるけど……
確かにこれはエクス・カリバルの顔だ。
「か、カリバルさん……随分と変わられましたね」
そういえば、噂で聞いた気がする。
マッチョメンのメンバーの一人が、頭がおかしくなって脱退したって。
その時はくだらない噂だと聞き流したけど、あれは本当だったんだ。
そしてその噂の元こそ、このエクス・カリバルに違いない。
「ふふふ、そうでしょう」
カリバルが楽しそうに笑う。
私が見せた反応は、決して好意的とは言えない失礼な物だ。
凄い顔になっていた自信がある。
それを楽しく笑える辺り、見た目は変わっても、相変わらずカリバルの器は大きいままの様だ。
「噂だと、マチョメンを辞められたとか……」
「ええ、そうなのよぉ。女としての第一歩を踏み出した訳なんだけど……」
その第一歩で崖を踏み外して、真っ逆さまに転がり落ちてますよ。
そんな言葉がついつい頭に浮かんでしまう。
「ほら、あそこって男だけのチームじゃない。だから、女になった私は相応しくないでしょ?それで辞めた感じなのよ」
「そ、そうなんですか……」
普通に考えたら揉めてそうな話なのだが、カリバルの軽い反応を見てると、本当に円満に抜けた様に見えてしまう。
まあ、強がってるだけって可能性もあるし……そもそも、その真偽は私にはどうでもいい事である。
余りのインパクトについつい聞いてしまったが、所詮は他人事。
詮索無用だ。
「で、心機一転この町にやって来て……今はスパム男爵様の騎士を務めてるのよ」
「……は?」
男爵家の騎士。
この化け物状態のカリバルを、男爵家が雇用した?
そんな馬鹿な……
貴族は見栄とプライドの塊である。
その貴族が、珍獣を騎士として雇うなどありえない。
見世物なら兎も角、こんな騎士が居たら外聞が悪くなるに決まっているのだから。
「えっと……おめでとうございます」
「あ、嘘だと思ってるでしょ?まあ、私だっていまだに信じられないくらいなんだからしょうがないわよね。けどほんとなのよ。スパム男爵様は偏見で人を差別したりしない、器の大きな立派な方なのよ」
「偏見で人を差別しない……」
私の人生は偏見まみれだった。
ネクロマンサーというスキルのせいで。
どれほど私の事を、偏見なしに見てくれる人を求めた事か……
「カリバルさん!」
私は声を上げる。
……今のカリバルを騎士に抱える様な人だ。
……ひょっとしたら、私のネクロマンサーも受け入れてくれるかもしれない。
「私も是非スパム男爵様にお仕えしたい!」
ダメ元だ。
このチャンスを逃す訳にはいかない!
「ぜひ御目通しをお願いします!」
私はカリバルに頭を下げた。
もちろんここでも、人とは関わらず生きていくつもりだった。
知人を作っても、ネクロマンサーとわかれば掌を返されるのが分かりきっているから。
「あら、ひょっとして……クロウさんじゃない?」
そんな私に声をかける人物がいた。
驚きつつも、声をかけてきた人物を見ると――
「……」
そこには不気味な生き物がいた。
ひらひらな服を着た、オーガの様な体格をした男だ。
恐ろしい事に、その顔には化粧と思しきものまで施されている。
見た目のインパクトもそうだけど……あんた誰?
「失礼ですが……どちら様かお伺いしても?」
もし一度でも顔を合わせた事があるなら、こんな強烈な人物を忘れるはずがない。
つまり、初対面という事だ。
にもかかわらず、相手は私の名を知っていた。
いったいこの人物は何者だろうか?
「あら、まあ分からないわよねぇ。だいぶ変わっちゃったし。あたしよ、マッチョメンに所属していたエクス・カリバルよ」
「……は?」
マッチョメンといえば、黄金級パーティーである。
そしてエクス・カリバルはそのメンバーだ。
たいした親交があった訳ではないが、何度か顔を合わせた事がある相手なので当然顔は知っている訳だが、目の前の珍獣は似ても似つかわな……
「ふぁっ!?」
いや、いやいやいやいやいやいや……
この顔って……
化粧のせいで印象がだいぶん変わってるけど……
確かにこれはエクス・カリバルの顔だ。
「か、カリバルさん……随分と変わられましたね」
そういえば、噂で聞いた気がする。
マッチョメンのメンバーの一人が、頭がおかしくなって脱退したって。
その時はくだらない噂だと聞き流したけど、あれは本当だったんだ。
そしてその噂の元こそ、このエクス・カリバルに違いない。
「ふふふ、そうでしょう」
カリバルが楽しそうに笑う。
私が見せた反応は、決して好意的とは言えない失礼な物だ。
凄い顔になっていた自信がある。
それを楽しく笑える辺り、見た目は変わっても、相変わらずカリバルの器は大きいままの様だ。
「噂だと、マチョメンを辞められたとか……」
「ええ、そうなのよぉ。女としての第一歩を踏み出した訳なんだけど……」
その第一歩で崖を踏み外して、真っ逆さまに転がり落ちてますよ。
そんな言葉がついつい頭に浮かんでしまう。
「ほら、あそこって男だけのチームじゃない。だから、女になった私は相応しくないでしょ?それで辞めた感じなのよ」
「そ、そうなんですか……」
普通に考えたら揉めてそうな話なのだが、カリバルの軽い反応を見てると、本当に円満に抜けた様に見えてしまう。
まあ、強がってるだけって可能性もあるし……そもそも、その真偽は私にはどうでもいい事である。
余りのインパクトについつい聞いてしまったが、所詮は他人事。
詮索無用だ。
「で、心機一転この町にやって来て……今はスパム男爵様の騎士を務めてるのよ」
「……は?」
男爵家の騎士。
この化け物状態のカリバルを、男爵家が雇用した?
そんな馬鹿な……
貴族は見栄とプライドの塊である。
その貴族が、珍獣を騎士として雇うなどありえない。
見世物なら兎も角、こんな騎士が居たら外聞が悪くなるに決まっているのだから。
「えっと……おめでとうございます」
「あ、嘘だと思ってるでしょ?まあ、私だっていまだに信じられないくらいなんだからしょうがないわよね。けどほんとなのよ。スパム男爵様は偏見で人を差別したりしない、器の大きな立派な方なのよ」
「偏見で人を差別しない……」
私の人生は偏見まみれだった。
ネクロマンサーというスキルのせいで。
どれほど私の事を、偏見なしに見てくれる人を求めた事か……
「カリバルさん!」
私は声を上げる。
……今のカリバルを騎士に抱える様な人だ。
……ひょっとしたら、私のネクロマンサーも受け入れてくれるかもしれない。
「私も是非スパム男爵様にお仕えしたい!」
ダメ元だ。
このチャンスを逃す訳にはいかない!
「ぜひ御目通しをお願いします!」
私はカリバルに頭を下げた。
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