上 下
46 / 93

第46話 永遠の……

しおりを挟む
「はぁ!?まだ接触すら出来てないですって!?」

宮殿の様な建物。
その一室に、甲高い少女の声が響いた。

ここはイギリス最大手ギルドである、気高き翼ノーブルウィングのホーム。
声の主は可愛らしい顔立ちの幼い金髪の少女だ。

少女の名はエリス・サザーランド
レジェンドスキルを所持するSSランクプレイヤーにして、気高き翼《ノーブルウィング》ギルドのナンバー2を務める人物だ。

「申し訳ありません。電話番号が変更されており。本人に接触しようにも結界の様な物で阻まれてしまって、Aランクのエージェントでも近付けない状態でして」

エリスの問いに、黒服を着た男が申し訳なさそうに頭を下げた。

「結界ですって?情報じゃ、顔悠はまだCランクのはずよ。Aランクの人間を寄せ付けない結界なんて張れる訳が……成程、他のギルドの妨害って訳ね」

「親族に関しても同じ状態ですので、恐らくそうかと」

顔悠は、カイザーギルドの勧誘に100億を提示している。
少々強気な価格設定ではあるが、彼の持つ情報の価値を考えればそれ程無茶な価格ではないとエリスは考えており、実際、彼女は情報料として要望通りの金額を払うつもりだった。

だが世の中には、価値のある物でも安く買い叩こうとする輩はいる物だ。
顔は100億を提示しているが、何処からもオファーがかからなければいずれその値段は下げざる得なくなる。
何故なら買い手がいないのだから。

そして他からの勧誘をシャットダウンする事でその状況を意図的に作り出す者がいると、エリスは判断した。

まあ実際は、アングラウスが顔悠に群がる雑魚共の相手をするのが面倒という理由で、勧誘者を特殊な結界で弾いているというのが真実な訳だが。
当然そんな事情をエリス達は知る由もないので、第三者の手と勘違いするのも無理ない話ではある。

「ふん、こうなったら私が直接向かうしかないわね!」

如何に強力な結界であろうと、SSランクの自分なら問題なく解除できる自信がエリスにはあった。
なので自分が直接向かうと決めたのだが――

「随分騒がしいけど、どこかに出かけるのかい?」

ふいに扉が開き、そこから貴公子然とした美しい顔立ちをした金髪の青年が姿を現す。

「日本よ」

「日本って言うと……まさか例の件でかい?」

「ええ、勿論」

「その様子じゃ、どうやら交渉は上手く行ってないみたいだね。まあ気持ちは分からなくもないけど、ギルドのスケジュール的にそれは無理があるんじゃないかい?明後日からSSランクダンジョンの攻略がある訳だし」

イギリスから日本へと向かうには、飛行機で十数時間かかる。
そこから顔悠のいる場所まで移動して交渉し、同じ時間かけて帰って来るのに二日と言う時間は明らかに足りていない。

実はエリス・サザーランドがその気になれば、ほんの一時間もあれば、日本へと辿り着く事自体は可能であった。
ただしそれは入国関係や、他国の制空権を完全に無視した行動になる。
当然そんな真似をすれば国際問題待ったなしだ。

「SSダンジョンまでなら、貴方とピナーがいれば十分でしょ」

「まあそうだけど……ギルドのナンバー2が私情で抜けるのはどうかと思うんだ。僕は。それに別に急がなくても、顔悠がどこかに消えてしまう訳じゃないだろ?」

「消えない保証はないわ」

情報の希少性を考えれば、顔悠を物理的にどうにかしようとする集団が出て来る可能性は皆無ではない。
またそうならなかったとしても、他に独占販売的な情報売却を行い、情報提供が打ち切られる可能性も十分考えられる。

そうなれば、レジェンドスキルのデメリットの突破方法を入手するのは困難になってしまうだろう。

「まあその時は、素直に諦めるしかないね。僕達にとって、絶対にないと困る情報という訳じゃないからね」

「なくても別に困らない?ふん、デメリットがあってない様な物のアンタには分からないでしょうね。アーサー」

アーサーと呼ばれた青年はレジェンドスキル持ちだ。
一般的にはとてつもなくキツイデメリットなのだが、彼にとってそれは苦になるような物ではなかった。

「まあ僕の場合はね。でもエリスちゃんも、前衛さえいればデメリットはそこまで大きなマイナスじゃない筈だよ」

エリス・サザーランドのレジェンドスキル、それは【魔砲少女《マジカルファイアーガール》】。
その効果は魔力が20倍になると言う出鱈目な物だ。
強力なレジェンドスキルの中でも、トップクラスの最強火力を誇るスキルと言っていいだろう。

当然レジェンドスキルなのでデメリットがある訳だが、【魔砲少女】のそれは速度が十分の一になるという物だった。

速さはプレイヤーにとって重要な要素であり、それが十分の一になるのはかなりのデメリットと言えるだろう。
ソロでなら、早々にプレイヤーとして大成を諦める程にキツイ物だ。

だがエリスの場合は、世界有数の大手ギルドに所属している。

しっかりとした前衛が彼女を守り、後衛として極大火力を叩き込むと言うスタイルが現在確立されている以上、デメリットはどうしても消さなければならないと言う程の物ではなかった。

そう、信頼できる仲間さえいればエリス・サザーランドは一線級のプレイヤーとして戦っていけるのだ。

それでも彼女は望まずにはいられなかった。
レジェンドスキルのデメリットの突破を。

何故なら――

「勘違いしないで。私が情報を求めてるのは戦闘のためじゃないわ。そう……恋のためよ!あたしは大人の恋がしたいの!あと、エリスちゃんって呼ぶな!あたしは貴方より年上だっていつも言ってるでしょうが!」

――【魔砲少女】にはデメリットがもう一つあるからだ。

それは肉体が少女の状態で固定されてしまうという物だった。

エリス・サザーランド三十歳。
二十年前に覚醒して以来、変わらぬその姿こそ彼女にとって最大の苦悩となっていた。

「ああすまない。ついね。でも、大人の恋をするだけなら別にそのままでも構わないんじゃ?」

「構わない訳ないでしょ。もしあたしが恋人と夜景の見えるレストランに行ったら、周りからはどう見えると思う?間違いなく場違いな親子連れよ。親子連れ。この姿じゃ、大人の恋なんて絶対に無理」

「それは少しイメージに拘り過ぎじゃないかい。ねぇ?」

恋人同士さえよければ、周りの目は気にしなくてもいいというのは綺麗ごとに近い。
現実問題、周囲の眼と言うのは気になる物だ。
何故なら、人間は集団で行動する生物だから。

勿論それを全く気にしない者達も確かにいはするが、そう言った人種は、世間では往々にしてバカップルと呼ばれる事が多い。

「ええと……いや、私の口からは何とも……」

アーサーから突然同意を求められた黒服の男は、思わず目を逸らし言葉を濁した。
彼もまた、常識的にそれは難しいのではないかと思ってしまっていたからだ。

「とにかく!これは私にとって人生がかかってるの!悪いけど絶対に日本へ行かせて貰うわ!!」

「やれやれ、しょうがないな。わかった。ピナー様には僕から話を通しておくよ」

「ありがと、助かるわ。じゃ、私は行くわね」

善は急げとばかりに、エリスは部屋を出ていく。

果たして彼女は、日本で自らの望みをかなえる事が出来るのだろうか?
それは神のみぞ知る事である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

処理中です...