上 下
36 / 93

第36話 仲介

しおりを挟む
「Cランクの登録をお願いします」

俺はCランクダンジョン『草むら』攻略の証である紋章を受付の女性に見せ、攻略者証を提出する。

「ランクアップ登録ですね。畏まりました。えーっと、お名前は……あっ」

攻略者証に書かれた俺の名を見て、営業スマイル全開だった受付の女性が表情を変える。

「しょ、少々お待ちください」

そして内線を使ってどこかに連絡を取った。

「何か問題でも?」

「ああ、いえ。支部長が顔様に是非お話があるそうでして」

「……」

内容はまあ考えるまでもないだろう。
例のニュースになった、レジェンドスキルの突破方法についてだ。
攻略者を管理する組織なのだから、関連の情報に興味を持つのは当然の事である。

そして権力や権限を持つ者が、それを利用してなんとか情報を得ようとするのも至って普通の事だ。

「直ぐに支部長が参りますので」

「分かりました」

そんな事で『少々お待ちください』なんてやってないでサッサ仕事しろと言ってやりたい所だが、俺が来たら支部長に連絡するのも彼女にとっては仕事なのだろうと思い、止めて置く。
上に従うしかない末端である人間に、文句を言うのは理不尽以外何物でもないからな。

「どうも初めまして、顔様。わたくし、この支部の責任者をさせて貰っている桂木と申します」

カウンターの奥の扉から出て来たのは見事なバーコード状の禿げ頭をした、人の良さそうな笑顔のおっさんだった。
まあ頼んでも無いのに勝手にやってきて、自分の目的のために挨拶してくる奴が良い人な訳もないとは思うが。

「俺に何か御用ですか?」

「実は折り入ってお話させて頂きたい事がございまして、もしよろしければ少々お時間頂けないでしょうか?」

明らかに突き放す感じで尋ねたのだが、支部長は気にした様子もなく朗らかな笑顔で用件を伝えて来る。
まあ支部のトップにまで上った人間だし、ちょっと突き放した程度じゃ効かんか。

無視して去ろうにも、まだランクアップの登録は終わっていない状態だからなぁ……

「お話と言うのは、例の情報をお伺いする事ではございませんのでご安心ください。どうかお話だけでも聞いて頂けませんでしょうか?」

俺が渋い顔をしていると、支部長がそういって頭を下げた。
レジェンドスキル突破に関して聞きたいんじゃないのなら、一体俺と何が話したいというのだろうか?

「わかりました。でも、手短にお願いします」

それがちょっと気になったので、取り敢えず話だけ聞く事にする。
まあ違うと言っておいて実はやっぱり情報の事って可能性もあるが。

「ありがとうございます。では此方にどうぞ」

支部長に応接室に案内される。
そこのソファに腰をかけ、勧められたお茶を飲んだ。

「それで?お話と言うのは?」

「はい、実は顔様にお会いしたいという方が当支部に来られまして」

携帯の番号を変えて俺と連絡を取れなかった奴らが、最寄りの支部に仲介役を頼んだ訳か。
結局、情報関連の話じゃねぇか。

「本来なら、当支部ではそういった案内や顔つなぎは致しません。ですが、事情が事情のお方でしたので」

「事情?」

事情がある?
いったいどんな事情だ。

「顔様は十文字昴《じゅうもんじすばる》様の事は御存じでしょうか?」

「知っています」

世界ランキング2位の人物だ。
当然知っている。

そうか、彼女か……

「先日当支部にいらっしゃいまして、どうしてもと頭を下げられたのです。彼女はその……スキルの反動で寿命の問題がありますので」

他のレジェンドスキル持ちの奴らは、仮にデメリットを無くせなくとも死ぬ訳ではない。
それに対して十文字昴は命に直結している。
だから支部長も気を利かしたという訳か。

「私にも、彼女と同じぐらいの娘がおりまして。なので放っておけなかったと申しましょうか。どうか彼女に、一度会ってあげては頂けませんでしょうか」

桂木が頭を下げた。

「……」

十文字の命を救う方法を、以前アングラウスと話した事がある。
レジェンドスキルのデメリットの突破は出来ないが、あれが上手く行けば彼女を延命させる事も可能だろう。

だがここで分かりましたと答えたら、噂は本当ですと答える様な物だ。
協会の支部長にそう宣言するのは流石に戸惑われるが……
俺がガンガンランク上げてる時点でまあ今更か。

「分かりました。但し、今日この場であった話は他言無用でお願いします」

一応口止めはしておく。
それこそまったく意味はないだろうが。

「もちろんです!ありがとうございます!」

俺は十文字の連絡先を聞き、Cランクに登録されたプレイヤー証を受け取って支部を後にする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...