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第12話 大手
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ボス部屋の奥にある小部屋には、外に通じるゲートがある。
それを使って外に出た俺は、ダンジョンから少し離れた場所にあるプレイヤー協会支部へと向かう。
道中、気づいたらアングラウスがどこかに行ってしまっていたが、まあ気にしても仕方がない。
俺は用を済ますため、一人で支部へと向かった。
「ドロップ品の買取と、ランクアップの手続きをお願いします」
受付のショートヘアの女性にそう言って、ボスドロップの盾と攻略者証。
それに、自身の手の甲に浮かぶ紋章をみせた。
「その紋章……Eランクダンジョン『獣の巣』をクリアされたんですね。おめでとうございます。ひょっとしてこの盾は、ボスからのレアドロップと言う事でしょうか?」
「ええ、そうなります」
「おお、ついてますねぇ。おめでとうございます」
受付の女性が八重歯を覗かせ笑う。
中々チャーミングな笑顔の可愛らしい女性だ。
まあどうでも良い事ではあるが。
「ありがとうございます」
「では鑑定と登録を致しますので、少々お待ちください」
「はい」
エリートワーウルフのレアドロップはエンチャントシールドだ。
基本的に属性耐性を備えているのだが、どの属性に対する耐性かは鑑定するまで分からない。
まあどの属性でも値段的にはそんなに変わらないので、俺としては何でもいいってのが本音だが。
「ボスのレアドロップとは景気がいいじゃねぇか?」
大柄な人相の悪い男がカウンターに肘をかけ、横から俺を覗き込む様に見て来る。
誰だこいつ?
「毒島のパーティーも、遂にEランクダンジョン攻略か。しかし……なんで囮役のテメーが鑑定に持ってきてるんだ?」
相手は此方の事を知っている様だった。
が、俺の方はさっぱりである。
何せ一万年前の記憶だからな、当然だ。
「おいおい、ムシかよ。一応元パーティーメンバーだろうが」
元パーティーメンバー?
「それともまさか、この俺様の事を忘れたなんて言わねえだろうな?この【剛腕】滝口様の事をよ」
「ああ……」
スキル剛腕もち……か。
そういやいたな、毒島のパーティーに。
「あん?本当に忘れてたのか?さてはお前、毒島の野郎に殴られ過ぎて頭がおかしくなってるな」
なる訳がない。
俺は不死身のレジェンドスキルを持っているのだ。
なので脳へのダメージも一瞬で回復する。
「ただの度忘れだ」
「ふーん、まあいい。実は俺はよう……」
滝口が肘をカウンターにかけて、背中を預ける様にもたれ掛る。
受付の女性は迷惑そうな視線を向けるが、奴はお構いなしだ。
「もうじきレベル100だ」
滝口がドヤ顔をする。
レベル100が相当嬉しい様だ。
因みにレベルが100を超えると、プレイヤーとしてはCランクとして登録される事になる。
「半年前前では40だった俺が、今じゃCランクにリーチだぜ。万年レベル1の雑魚のテメーにゃ、想像もできないだろうな。正にユニークスキル様様だぜ」
滝口は以前毒島のパーティーに所属しており、パッとしない感じの底辺プレイヤーだった。
彼の環境が一変したのは、ユニークスキル剛腕を獲得したからだ。
通常、ユニークスキルは覚醒時に習得する物である。
だが稀に覚醒時以外にも習得する者がいて、滝口もそのタイプだった。
――ユニークスキル剛腕は、腕の力を強化するスキルだ。
通常の筋力アップなんかと比べて腕力しか上がらないが、筋力アップ系が5%や10%と控えめなのに対して、剛腕の倍率は3倍と他の通常スキルとは一線を画している。
そのため、かなり強力なスキルと言っていいだろう。
強いスキルを手に入れた滝口は中堅ギルドから引き抜きを受けて、毒島のパーティーを抜けている。
レベルの急上昇も、そこで色々と便宜を図って貰った結果だろう。
「あ、そ」
果てしなくどうでもいいので、適当に返すと――
「おおっと、そういやお前はレジェンドスキル持ちだったなぁ」
カウンターにもたれるのを止め、滝口が姿勢を起こして俺を上から見下ろす。
俺の不愛想な対応を、自分に対する嫉妬だと判断でもしたのだろうか?
めでたい脳みその持ち主である。
「で、そのレジェンドスキル持ちの顔悠様のレベルは今いくつなんだ?」
「レベル1だ。用件はそれだけか?」
「はっはっは、レベル1だってよ!聞いたかねーちゃん?」
滝口が受付の女性に話しかける。
「こいつレベル1でEランク申請してるんだぜ。毒島に寄生させて貰ってランクアップなんかして、恥ずかしくねぇのか?」
どうやら俺を辱めたい様だ。
俺の態度が気に入らなかったのか知らんが、暇な奴である。
「何を勘違いしてるんだ?俺はもう毒島に雇われてないぞ。この証もドロップも、自分で取って来たもんだ」
「はぁ?自分で取って来ただと?レベル1のお前がか?笑わせんなよ」
「まあ信じようと信じまいと構わないさ。で、用件はレベル自慢だけか?お前と俺はそんなに親しかった覚えはないんだが……こんな絡んで来て、真昼間から酒でも飲んで酔っ払ってるのか?」
「てめぇ……雑魚の癖に調子に乗んな!」
俺の言葉に表情を変えた滝口が、俺の首を掴んで持ち上げる。
ぼきりと大きな音が響く。
首が折られてしまった。
流石剛腕だ。
というかこいつ正気か?
人目のある、しかもプレイヤー協会内部で人の首折るとか。
俺じゃなかったら確実に死んでたし、俺は死ななかっただけでこいつが此方の首の骨を折ったという事実は消えない。
つまり、殺人未遂か傷害罪の確定だ。
「ひぃぃ……人殺し」
目の前で人の首を折ったショッキングな様子を目の当たりにして、受付の女性が悲鳴を上げる。
「安心しな、姉ちゃん。こいつは不死身のレジェンドスキル持ちだ。この程度じゃ死にはしねぇよ」
「はな……せ……たきぐち……」
剛腕で首を掴まれたままなので、回復しても気道が塞がれたままで上手くしゃべれなかった。
両腕で掴むが、ビクともしない
取り敢えず今の俺のパワーじゃ、Cランク直前の剛腕持ちの腕力には敵わない様だな。
「大体テメー如きが俺に溜口を聞いてるんじゃねーよ!」
滝口が興奮して力を込めたせいか、俺の首がまたへし折れる。
まあ腕力では敵わないので、それ以外で対処するとしよう。
エクストリームバーストを使って命を爆発させ、俺はパワーを上げる。
そのまま股間を蹴り上げてやろうかとも思ったが、最悪死んだら過剰防衛、もしくは傷害致死で捕まる可能性があるので止めて置く。
普通なら正当防衛が成立するところだが、俺の場合は不死身だからな。
其の辺りが微妙なので、無駄なリスクを避ける意味で此処は太ももにしておこう。
「があぁぁ……いでぇぇ……」
太ももを全力で蹴ると、骨の折れる感触が伝わって来た。
首を掴んでいた手が緩んだので、俺はそのままもう反対側の太ももも蹴ってやろうとして――
「悪いが、その辺りで勘弁してもらえるかな?」
身長二メートル近くはあるであろう、白のスーツを身に着けた巨体の見知らぬ男に肩を掴まれ止められる。
「あんた誰だ?」
俺の質問に、男が少し驚いた様な顔をする。
「私の事を知らないのか?結構有名になったつもりだったんだが……まあいい。私は鳳英知。カイザーギルドの副マスターを務めている」
「……」
日本三大ギルドの一つ、カイザーギルド。
そういや、鳳英知って名前の副マスターが居たっけか?
こいつがそうだとして、何でそんな大物がこんな場所にいるんだ?
「彼は先日うちのギルドでスカウトした新人でね。つまりうちのメンバーと言う事だ」
「成程。だからこいつの暴行を見逃せと?」
滝口が突発的にあんな凶行に出れたのも、でかいバックがあったための様だ。
三大ギルドともなれば、その影響力も大きい。
ちょっとした傷害程度ならもみ消す事も可能だろう。
しかし解せない。
滝口は確かに、剛腕と言う優秀なユニークスキルを持っている。
だがその程度で、カイザーギルドが奴をスカウトするとは到底思えなかった。
何かまた、追加でユニークスキルでも覚醒したとか?
可能性は十分あるな。
「気を効かせてくれるなら、君に出来る限りの誠意を用意させて貰うよ」
誠意、イコール金だな。
滝口の太ももをもう一本折って大手に睨まれるのと、金を貰って引くのならどっちが得か考えるまでもない。
素直に引いておく。
「分かりました」
「話が早くて助かるよ。さあ、いつまでも座ってないで……立て、滝口」
カイザーギルドはスパルタの様だ。
太ももの骨が一本折れた滝口に、自分の足で立ち上がれと言う。
「くそったれがぁ……かんばせ、テメェ覚えてやがれ……」
片足で何とか立ち上がった滝口が、俺を恨めし気に睨みつけて来る。
自業自得だろうに、逆恨みも甚だしい。
「見苦しいぞ。お前は負けたんだ」
「うっく……すいません……」
鳳に注意され、滝口が怯える。
その姿を見て思い出す。
そういやこんな奴だったと。
滝口はユニークスキル獲得前は、とにかく毒島にぺこぺこしていた。
それが剛腕を得た瞬間、その態度が急変してしまう。
つまり奴は自分より強い奴には媚びへつらい、弱い奴には横柄な態度をとる奴だって事だ。
「君はうちに……いや、止めておこう。では、これで我々は失礼させて貰うよ」
金は?
と言いたい所だが、まあ何らかの手段で送ってくるつもりだろう。
仮に送られて来なかったとしても、大手と揉めるつもりはないから寄越せと言いに行きはしないが。
滝口が片足を引きずりつつ、その癖何度も振り返って俺を睨んで来る。
執念深い奴だ。
さっきの一件で俺の方が強いと分かった筈なのに……
いや、不意打ちでやられたとか考えてそうだな。
あの様子だと。
つまり奴の中では、まだ自分より下と分類されているのだろう。
もしくは、バックも含めての強弱の判断って可能性もあるが。
「まあいいか」
絡んで来たらまた制圧するだけである。
俺はEランク認定と、盾の売却益を受け取って支部を後にした。
因みに受付嬢は揉め事について一言も言及してこなかった。
カイザーギルドが絡んでいるので、関わらない方がいいと判断したのだろう。
俺でもそうする。
少なくとも、現状の力で敵に回すのは賢い選択とは言えないからな。
それを使って外に出た俺は、ダンジョンから少し離れた場所にあるプレイヤー協会支部へと向かう。
道中、気づいたらアングラウスがどこかに行ってしまっていたが、まあ気にしても仕方がない。
俺は用を済ますため、一人で支部へと向かった。
「ドロップ品の買取と、ランクアップの手続きをお願いします」
受付のショートヘアの女性にそう言って、ボスドロップの盾と攻略者証。
それに、自身の手の甲に浮かぶ紋章をみせた。
「その紋章……Eランクダンジョン『獣の巣』をクリアされたんですね。おめでとうございます。ひょっとしてこの盾は、ボスからのレアドロップと言う事でしょうか?」
「ええ、そうなります」
「おお、ついてますねぇ。おめでとうございます」
受付の女性が八重歯を覗かせ笑う。
中々チャーミングな笑顔の可愛らしい女性だ。
まあどうでも良い事ではあるが。
「ありがとうございます」
「では鑑定と登録を致しますので、少々お待ちください」
「はい」
エリートワーウルフのレアドロップはエンチャントシールドだ。
基本的に属性耐性を備えているのだが、どの属性に対する耐性かは鑑定するまで分からない。
まあどの属性でも値段的にはそんなに変わらないので、俺としては何でもいいってのが本音だが。
「ボスのレアドロップとは景気がいいじゃねぇか?」
大柄な人相の悪い男がカウンターに肘をかけ、横から俺を覗き込む様に見て来る。
誰だこいつ?
「毒島のパーティーも、遂にEランクダンジョン攻略か。しかし……なんで囮役のテメーが鑑定に持ってきてるんだ?」
相手は此方の事を知っている様だった。
が、俺の方はさっぱりである。
何せ一万年前の記憶だからな、当然だ。
「おいおい、ムシかよ。一応元パーティーメンバーだろうが」
元パーティーメンバー?
「それともまさか、この俺様の事を忘れたなんて言わねえだろうな?この【剛腕】滝口様の事をよ」
「ああ……」
スキル剛腕もち……か。
そういやいたな、毒島のパーティーに。
「あん?本当に忘れてたのか?さてはお前、毒島の野郎に殴られ過ぎて頭がおかしくなってるな」
なる訳がない。
俺は不死身のレジェンドスキルを持っているのだ。
なので脳へのダメージも一瞬で回復する。
「ただの度忘れだ」
「ふーん、まあいい。実は俺はよう……」
滝口が肘をカウンターにかけて、背中を預ける様にもたれ掛る。
受付の女性は迷惑そうな視線を向けるが、奴はお構いなしだ。
「もうじきレベル100だ」
滝口がドヤ顔をする。
レベル100が相当嬉しい様だ。
因みにレベルが100を超えると、プレイヤーとしてはCランクとして登録される事になる。
「半年前前では40だった俺が、今じゃCランクにリーチだぜ。万年レベル1の雑魚のテメーにゃ、想像もできないだろうな。正にユニークスキル様様だぜ」
滝口は以前毒島のパーティーに所属しており、パッとしない感じの底辺プレイヤーだった。
彼の環境が一変したのは、ユニークスキル剛腕を獲得したからだ。
通常、ユニークスキルは覚醒時に習得する物である。
だが稀に覚醒時以外にも習得する者がいて、滝口もそのタイプだった。
――ユニークスキル剛腕は、腕の力を強化するスキルだ。
通常の筋力アップなんかと比べて腕力しか上がらないが、筋力アップ系が5%や10%と控えめなのに対して、剛腕の倍率は3倍と他の通常スキルとは一線を画している。
そのため、かなり強力なスキルと言っていいだろう。
強いスキルを手に入れた滝口は中堅ギルドから引き抜きを受けて、毒島のパーティーを抜けている。
レベルの急上昇も、そこで色々と便宜を図って貰った結果だろう。
「あ、そ」
果てしなくどうでもいいので、適当に返すと――
「おおっと、そういやお前はレジェンドスキル持ちだったなぁ」
カウンターにもたれるのを止め、滝口が姿勢を起こして俺を上から見下ろす。
俺の不愛想な対応を、自分に対する嫉妬だと判断でもしたのだろうか?
めでたい脳みその持ち主である。
「で、そのレジェンドスキル持ちの顔悠様のレベルは今いくつなんだ?」
「レベル1だ。用件はそれだけか?」
「はっはっは、レベル1だってよ!聞いたかねーちゃん?」
滝口が受付の女性に話しかける。
「こいつレベル1でEランク申請してるんだぜ。毒島に寄生させて貰ってランクアップなんかして、恥ずかしくねぇのか?」
どうやら俺を辱めたい様だ。
俺の態度が気に入らなかったのか知らんが、暇な奴である。
「何を勘違いしてるんだ?俺はもう毒島に雇われてないぞ。この証もドロップも、自分で取って来たもんだ」
「はぁ?自分で取って来ただと?レベル1のお前がか?笑わせんなよ」
「まあ信じようと信じまいと構わないさ。で、用件はレベル自慢だけか?お前と俺はそんなに親しかった覚えはないんだが……こんな絡んで来て、真昼間から酒でも飲んで酔っ払ってるのか?」
「てめぇ……雑魚の癖に調子に乗んな!」
俺の言葉に表情を変えた滝口が、俺の首を掴んで持ち上げる。
ぼきりと大きな音が響く。
首が折られてしまった。
流石剛腕だ。
というかこいつ正気か?
人目のある、しかもプレイヤー協会内部で人の首折るとか。
俺じゃなかったら確実に死んでたし、俺は死ななかっただけでこいつが此方の首の骨を折ったという事実は消えない。
つまり、殺人未遂か傷害罪の確定だ。
「ひぃぃ……人殺し」
目の前で人の首を折ったショッキングな様子を目の当たりにして、受付の女性が悲鳴を上げる。
「安心しな、姉ちゃん。こいつは不死身のレジェンドスキル持ちだ。この程度じゃ死にはしねぇよ」
「はな……せ……たきぐち……」
剛腕で首を掴まれたままなので、回復しても気道が塞がれたままで上手くしゃべれなかった。
両腕で掴むが、ビクともしない
取り敢えず今の俺のパワーじゃ、Cランク直前の剛腕持ちの腕力には敵わない様だな。
「大体テメー如きが俺に溜口を聞いてるんじゃねーよ!」
滝口が興奮して力を込めたせいか、俺の首がまたへし折れる。
まあ腕力では敵わないので、それ以外で対処するとしよう。
エクストリームバーストを使って命を爆発させ、俺はパワーを上げる。
そのまま股間を蹴り上げてやろうかとも思ったが、最悪死んだら過剰防衛、もしくは傷害致死で捕まる可能性があるので止めて置く。
普通なら正当防衛が成立するところだが、俺の場合は不死身だからな。
其の辺りが微妙なので、無駄なリスクを避ける意味で此処は太ももにしておこう。
「があぁぁ……いでぇぇ……」
太ももを全力で蹴ると、骨の折れる感触が伝わって来た。
首を掴んでいた手が緩んだので、俺はそのままもう反対側の太ももも蹴ってやろうとして――
「悪いが、その辺りで勘弁してもらえるかな?」
身長二メートル近くはあるであろう、白のスーツを身に着けた巨体の見知らぬ男に肩を掴まれ止められる。
「あんた誰だ?」
俺の質問に、男が少し驚いた様な顔をする。
「私の事を知らないのか?結構有名になったつもりだったんだが……まあいい。私は鳳英知。カイザーギルドの副マスターを務めている」
「……」
日本三大ギルドの一つ、カイザーギルド。
そういや、鳳英知って名前の副マスターが居たっけか?
こいつがそうだとして、何でそんな大物がこんな場所にいるんだ?
「彼は先日うちのギルドでスカウトした新人でね。つまりうちのメンバーと言う事だ」
「成程。だからこいつの暴行を見逃せと?」
滝口が突発的にあんな凶行に出れたのも、でかいバックがあったための様だ。
三大ギルドともなれば、その影響力も大きい。
ちょっとした傷害程度ならもみ消す事も可能だろう。
しかし解せない。
滝口は確かに、剛腕と言う優秀なユニークスキルを持っている。
だがその程度で、カイザーギルドが奴をスカウトするとは到底思えなかった。
何かまた、追加でユニークスキルでも覚醒したとか?
可能性は十分あるな。
「気を効かせてくれるなら、君に出来る限りの誠意を用意させて貰うよ」
誠意、イコール金だな。
滝口の太ももをもう一本折って大手に睨まれるのと、金を貰って引くのならどっちが得か考えるまでもない。
素直に引いておく。
「分かりました」
「話が早くて助かるよ。さあ、いつまでも座ってないで……立て、滝口」
カイザーギルドはスパルタの様だ。
太ももの骨が一本折れた滝口に、自分の足で立ち上がれと言う。
「くそったれがぁ……かんばせ、テメェ覚えてやがれ……」
片足で何とか立ち上がった滝口が、俺を恨めし気に睨みつけて来る。
自業自得だろうに、逆恨みも甚だしい。
「見苦しいぞ。お前は負けたんだ」
「うっく……すいません……」
鳳に注意され、滝口が怯える。
その姿を見て思い出す。
そういやこんな奴だったと。
滝口はユニークスキル獲得前は、とにかく毒島にぺこぺこしていた。
それが剛腕を得た瞬間、その態度が急変してしまう。
つまり奴は自分より強い奴には媚びへつらい、弱い奴には横柄な態度をとる奴だって事だ。
「君はうちに……いや、止めておこう。では、これで我々は失礼させて貰うよ」
金は?
と言いたい所だが、まあ何らかの手段で送ってくるつもりだろう。
仮に送られて来なかったとしても、大手と揉めるつもりはないから寄越せと言いに行きはしないが。
滝口が片足を引きずりつつ、その癖何度も振り返って俺を睨んで来る。
執念深い奴だ。
さっきの一件で俺の方が強いと分かった筈なのに……
いや、不意打ちでやられたとか考えてそうだな。
あの様子だと。
つまり奴の中では、まだ自分より下と分類されているのだろう。
もしくは、バックも含めての強弱の判断って可能性もあるが。
「まあいいか」
絡んで来たらまた制圧するだけである。
俺はEランク認定と、盾の売却益を受け取って支部を後にした。
因みに受付嬢は揉め事について一言も言及してこなかった。
カイザーギルドが絡んでいるので、関わらない方がいいと判断したのだろう。
俺でもそうする。
少なくとも、現状の力で敵に回すのは賢い選択とは言えないからな。
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