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第9話 使い魔

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妹の無事を確認した母さんが病院から帰って来たので、アングラウスの事を切り出す。

「母さん、猫を飼いたいんだけど」

奴には基本、人前では猫で過ごして貰う。
竜はもちろんの事、女性の姿で家においておく事は出来ないからな。

俺が紹介すると、アングラウスが俺の足元から顔を覗かせた。

「あら、可愛いネコちゃんね。もちろんいいわよ」

「ありがとう、母さん」

「ふふ、でもまさか貴方が猫を拾って来るなんてね」

「まあ不死身のお陰かな。このスキルがあれば、アレルギーとかもでないからね」

俺は猫アレルギー持ちだった。
猫自体は好きだったので、そのせいで飼う事が出来ず子供の頃は残念な思いをした物だ。
だが不死身はその辺りの状態異常を完全にカットしてくれるので、今なら全く問題なく飼う事が出来る。

ま、実際はアングラウスは猫でも何でもないから全く関係ないんだけどな。

「その代わり、しっかり世話をするのよ」

「うん、分かってる」

「それで?名前はもう決まってるの?」

「ああ、名前はアング……」

アングラウスと言おうとして、ちょっと考える。
猫の名前として紹介するには長ったらしく、なんかあれだと思ったからだ。

「アング?」

「ああいや、アンにしようかなって」

チラリとアングラウスの方をみると、興味なさげに欠伸していた。
自分の呼称に関しては気にしていない様だ。

「アンちゃんね。てことは、雌なのかしら?」

「うん、そうみたい」

確認してはないないが、人に化けている時の姿は女だったので。
まあ雌って事でいいだろう。

「よろしくね、アンちゃん」

「うむ、よろしく頼む」

母の言葉に、何を思ったかアングラウスが日本語で返事を返してしまう。

「は?」

「……え?」

俺はギョッとなり、驚いた母は固まってしまった。

おいおい、何考えてんだこいつ?
驚かさないために猫に化けて貰ったのに、喋ったら全く意味がねーじゃねーか。

「驚く必要はない。我は顔悠かんばせゆうの使い魔だ。本来はアングラウスと言うのだが、愛称――アンと気軽に読んでもらって結構だ」

「つ、使い魔?」

母が俺の方を見る。

「あ、ああそうなんだ。プレイヤーとしてのスキルで生み出した猫なんだ。アンは。最近スキルを覚えてさ。強くなれるって言っただろ?」

確かに、スキルの中には魔物や動物を使い魔にするスキルがある。
俺は慌ててアングラウスに話を合わせた。

「そ。そうなのね。お母さん少し驚いちゃったわ」

「我は使い魔なので、通常の猫の様な世話は不要だ」

「そうそう。だから世話の事なんかは気にしなくても大丈夫だよ」

「分かったわ。アンちゃん……この子は不死身で死なないけど、でも痛みや苦しみを感じない訳じゃないの。だからこの子が無茶をしそうになったら、その時は止めて貰えないかしら。ひょっとしたら無茶なお願いかもしれないけど、どうかお願いします」

母がアングラウスに向かって頭を下げる。

「母さん……」

不死身とはいっても、傷みや苦しみが消える訳ではない。
だから囮役なんて無茶な仕事をしてた俺の事を、母はいつも心配していた。

俺自身、それはよく分かっていた事だ。
だが以前はそれ以外の選択肢がなかった。
けど今は違う。

「心配しなくても大丈夫だって。前も言ったけど、俺はかなり強くなってるからさ。だから以前みたいな仕事はもうしないよ」

「でも、貴方の事だから無茶しそうでお母さん心配なのよ」

「安心するがいい。我はこの世の誰よりも強い。ちゃんと悠の面倒は見てやる」

普通、こういう時に言う最強はジョーダンだったりする物である。
だがアングラウスの場合はガチだ。
こいつと一対一で戦って勝てる奴は、現在のプレイヤーの中には恐らくいないだろう。

「ふふ。ありがとう、アンちゃん。あ、そうだ。今から朝ご飯を作るんだけど、アンちゃんはどういった物を食べるの?」

「我か?我は肉食だ。肉なら何でもいいぞ」

「じゃあ豚を焼いてあげるわね」

「おい、猫のふりしてくれるんじゃなかったのか?」

母がキッチンで朝食を作り出したところで、俺は小声でアングラウスに苦情を告げる。

「最初はそのつもりだったが……短期ならともかく、長期間飼い猫としてこの家にいるのは色々と面倒臭そうだっだからな。だからこの際、使い魔として自己紹介したのさ。お前だって世話をするふりなんて、面倒くさい真似をしなくて済むだろ?正に一石二鳥だ」

住み着くのが年単位と考えると、気を付けていたってそのうちボロが出る可能性は高い。
そう考えると、確かに最初っからこいつが特別だってバラしておいた方が楽ではあるか。

「上手く行ったから良いけど、母さんがしゃべる猫を嫌がったらどうするつもりだったんだよ?」

使い魔と紹介してはいるが、猫型の生き物が話す事を不気味に思う可能性は十分ありえた。
だって普通は喋らないからな、猫は。

「死なない不気味な息子を持っているんだ。そんな些細な事など一々気にしないだろう」

「誰が不気味だ。誰が」

まあ確かに、冷静に考えるとぐちゃぐちゃにされても次の瞬間回復してるのは不気味っちゃ不気味ではある。
だが、流石に巨大な魔竜に言われる筋合いはないぞ。
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