ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

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第67話 不安

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父は、幼い女の子を連れてこの山脈に訪れている。
私はその事が気になって、アドルさん達にわがままを言って痕跡を追って来ていた。

「こんな所に洞窟が……」

それでなくともここは魔物の多い場所だ。
魔物の住みつく洞窟の中など、普通に考えれば子供を連れてはいる事などありえない。

だけど――

「ここって……自然にできた洞窟じゃないわよね」

通常の洞窟と違い、そこは内部がほんのりと明るく奥の方まで見通す事が出来た。

……父が何の意味もなく、子供を連れ回すとは思えない。

目的があってこの辺りまで来た。
そう考えるのが自然だ。
そしてこのこの明らかに自然物ではない洞窟。
父の目的がこの場所である可能性は高い。

「……」

どうしようか少し迷ってから、私は洞窟の中へと進む。
私にはガロスさんの様な優れた嗅覚はない。
ここ意外に進んでいた場合、どうせ見つけるのは難しいのだ。
だったら、可能性の高いこの場所を調べるのが正解だろう。

洞窟は入り口から直ぐに下る様な坂道が続く。
唯々ひたすら真っすぐに続く下りの坂道を降りて行くと、くだりきった先で私は広い空間へとたどり着いた。

「――っ!?」

その光景に私は息を飲む。

空間の中央には祭壇が置かれており、奥の壁面には杭で打ち付けられた巨大な人型をした不気味な異形の化け物の石像が立っていた。
祭壇の前には父の姿があり、祭壇の上には幼い女の子が乗せられている。

その様子から私の頭に浮かんだのは――

「お父様……」

――生贄の儀式。

どう見ても、壁の化け物に少女を生贄に捧げようとしている様にしか見えない。
だが直ぐに、そんな馬鹿なとその考えを頭から私は追い出した。

だって父は市民クラスでありながら王国最強の騎士で、誰からも尊敬される素晴らしい人物なのだ。
きっとこの状態にも、ちゃんと納得出来る何らかの理由があるに違いない。

「エンデか……なぜお前がここにいる?」

父はつまらない者を見る様な目を、私へと向ける。

――私は父の期待に応えられる様な娘ではなかった。

……アドルさんから力を貰って少し強くなれたけど、それでもまだまだだもんね。

大会でもガロスさんに負けてしまっている。
だから父のその冷たい反応も、仕方のない事だ。

「私は……その、アドルさんの護衛の仕事に御一緒させて貰ったんです。彼からは、色々と学べることがあるたと思ったので」

「アドルだと?」

アドルさんの名を聞いて父の表情が険しくなり、振り返って背後の異形の石像の方を見た。
その姿は、まるでその石像にと言うかえているかの様に私には見えた。

「ふむ……どうやら本当の様だな。くくく……丁度いい。奴には借りを返さねばならなかったからな」

父が口元を歪めて笑う。
その顔がとても醜悪に見えてしまい、言っている言葉の意味が分からない事も合わせて、私は凄く不安になってしまう。

父はいったい……

私は父の言動に驚きつつも、恐る恐る祭壇へと近づく。
父のこと以外にも、気になる事があったからだ。

「あの、お父様……その子は……」

――それは祭壇に寝かされた少女。

高価そうな衣類を身に着けているその少女の姿に、私はどこか見覚えがあった。
離れていては良く見えないのでその顔をハッキリと確認するため、私は祭壇へと近づく。

「――っ!?」

ハッキリと確認できる位置まで進んだ私は、その少女の顔を見て思わず息を飲んだ。
何故ならその少女は――

「レアン王女!」

ドラクーン王国の王女様だったからだ。
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