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第47話 条件
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エリクシル・暗黒。
それは死者を蘇生させるスキルだった。
死んだものを生き返らせるなど、普通は不可能だ。
だがこのスキルは、不可能を可能にする奇跡を起こす効果を持っていた。
但し……スキルを使えれば、ではあるが。
――このスキルには使用条件があり、所持者が神に至れば使用可能となっている。
人は神になどなれない。
つまり、このスキルは実質使用できないという事だ。
だが、ひょっとしたらと言う希望が、僅かにだが俺の中にはあった。
それは俺が神話級クラスである事だ。
神より与えられた特殊なクラス。
言ってしまえば、それは俺が神に選ばれた存在である証とも言える。
――神は魔王の討伐を俺に望んでいた。
もし魔王を倒せば、俺を神にしてくれるのではないだろうか?
もしくは、神の様な力を与えてくれるとか。
少し夢見がちな妄想ではあるが、可能性は十分にある。
何故なら、王女の夢見があるからだ。
彼女は俺が魔王を倒し、神になる姿を見たと言っていた。
もしその力が本物ならば……
「師匠……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「体調が悪いようでしたら、もう少し休まれたほうがいいんじゃ」
新しいスキルに気を取られて、ついつい考えに浸ってしまっていた。
そんな俺を、ベニイモが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、そうじゃないんだ。どうやら新しいスキルを覚えたみたいでさ。そのスキルなんだが――」
俺はスキルの事を説明する。
王女から聞いた夢見の事も含めて。
「ソアラ師匠を生き返らせられるのか!?」
話を聞いたタロイモが興奮気に声を荒げ、俺に詰め寄って来た。
「俺が神になれたら、の話だけどな。それに……仮になれたとしても、今のままじゃ無理だ。蘇生には依り代――つまりソアラの体が必要になる」
死者の蘇生には遺体が必要だった。
完全な状態である必要は無いが、最低でも骨の欠片や髪の束が必要になって来る。
「……」
その俺の言葉に、タロイモが口を紡ぐ。
当然だ。
彼女の遺体は戦場から回収されていないのだから。
「そんな……それじゃあソアラ師匠は……」
「一応……体が残っている可能性はある」
「本当ですか!?」
「ソアラの遺体を奪って行ったのは、恐らく魔王だ」
彼女の遺体は戦場に残されていなかった。
状況的に考えると、魔王が持ち去ったと考えるのが妥当だろう。
問題は、何のためにそんな真似をしたのか……
もし食べる為だったなら、ソアラの遺体を回収するのは絶望的だろう。
だが――
「もし魔王がハンティングトロフィーとして持ち帰っていたなら、何らかの状態でソアラの遺体が残ってる可能性は高い」
ソアラは勇者だ。
それを討ち取った記念として、体を残している可能性は十分考えられる。
「可能性はあるって訳か」
「一応……程度ではあるがな」
それは可能性と呼ぶには、余りにもか細い物だ。
俺が神になるのも、魔王が遺体を保存しているのも、どちらも希望的観測に過ぎない。
「だが、試してみる価値はある」
どうせ端から魔王は倒すつもりだったのだ。
俺の行動に変わりはないし、そこにソアラ蘇生の希望が乗っかるなら、俄然やる気が出て来るという物。
「師匠!魔王を倒しましょう!そしてソアラ師匠を!!」
「ああ、魔王は俺が倒す」
俺は心の底から願う。
魔王がソアラの肉体を保存してくれている事を。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うぅ……ん」
目を開けると、そこは薄暗い場所だった。
私はでこぼこしている床に、仰向けに倒れている状態だ。
体が酷く重くて気怠い。
何とか起き上がろうとするが、まるで全身を紐でグルグルに縛り付けられたかの様に、全く動かす事が出来なかった。
どうしようもないので私は再び目を瞑り、そして考える。
ここはどこだろうか?
私は……そう言えば、私は誰?
今の状況もそうだが、そもそも自分が何者かすら分からなかった。
私は誰で、どうしてこんな暗い場所にいるのだろうか?
頭の中が疑問でいっぱいになる。
そんな私に、不意に声がかけられた。
「目が覚めたか」
静かで、穏やかな声だ。
目を開けるてみると、角の生えた赤い目の男性が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
見覚えのない顔だ。
「だ……れ?」
ろれつが上手く動回らず、言葉が途切れ途切れになる。
「お前は私の娘だ」
「むす……め?じゃあ……私の……お父……さん?」
「そうだ。お前は蘇生したばかりだ。今はゆっくり休みなさい」
そう言うと、彼は私の頭を撫でる。
蘇生?
何の事か分からない。
でも、その人に頭を撫でられると凄く眠くなってきた。
その誘惑に抗えず、私は瞼を閉じる。
「お休み。我が娘、ソ――」
父が何と言おうとしたのか。
それを聞き終えるよりも早く、私の意識は闇に吸い込まれてしまう。
それは死者を蘇生させるスキルだった。
死んだものを生き返らせるなど、普通は不可能だ。
だがこのスキルは、不可能を可能にする奇跡を起こす効果を持っていた。
但し……スキルを使えれば、ではあるが。
――このスキルには使用条件があり、所持者が神に至れば使用可能となっている。
人は神になどなれない。
つまり、このスキルは実質使用できないという事だ。
だが、ひょっとしたらと言う希望が、僅かにだが俺の中にはあった。
それは俺が神話級クラスである事だ。
神より与えられた特殊なクラス。
言ってしまえば、それは俺が神に選ばれた存在である証とも言える。
――神は魔王の討伐を俺に望んでいた。
もし魔王を倒せば、俺を神にしてくれるのではないだろうか?
もしくは、神の様な力を与えてくれるとか。
少し夢見がちな妄想ではあるが、可能性は十分にある。
何故なら、王女の夢見があるからだ。
彼女は俺が魔王を倒し、神になる姿を見たと言っていた。
もしその力が本物ならば……
「師匠……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「体調が悪いようでしたら、もう少し休まれたほうがいいんじゃ」
新しいスキルに気を取られて、ついつい考えに浸ってしまっていた。
そんな俺を、ベニイモが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、そうじゃないんだ。どうやら新しいスキルを覚えたみたいでさ。そのスキルなんだが――」
俺はスキルの事を説明する。
王女から聞いた夢見の事も含めて。
「ソアラ師匠を生き返らせられるのか!?」
話を聞いたタロイモが興奮気に声を荒げ、俺に詰め寄って来た。
「俺が神になれたら、の話だけどな。それに……仮になれたとしても、今のままじゃ無理だ。蘇生には依り代――つまりソアラの体が必要になる」
死者の蘇生には遺体が必要だった。
完全な状態である必要は無いが、最低でも骨の欠片や髪の束が必要になって来る。
「……」
その俺の言葉に、タロイモが口を紡ぐ。
当然だ。
彼女の遺体は戦場から回収されていないのだから。
「そんな……それじゃあソアラ師匠は……」
「一応……体が残っている可能性はある」
「本当ですか!?」
「ソアラの遺体を奪って行ったのは、恐らく魔王だ」
彼女の遺体は戦場に残されていなかった。
状況的に考えると、魔王が持ち去ったと考えるのが妥当だろう。
問題は、何のためにそんな真似をしたのか……
もし食べる為だったなら、ソアラの遺体を回収するのは絶望的だろう。
だが――
「もし魔王がハンティングトロフィーとして持ち帰っていたなら、何らかの状態でソアラの遺体が残ってる可能性は高い」
ソアラは勇者だ。
それを討ち取った記念として、体を残している可能性は十分考えられる。
「可能性はあるって訳か」
「一応……程度ではあるがな」
それは可能性と呼ぶには、余りにもか細い物だ。
俺が神になるのも、魔王が遺体を保存しているのも、どちらも希望的観測に過ぎない。
「だが、試してみる価値はある」
どうせ端から魔王は倒すつもりだったのだ。
俺の行動に変わりはないし、そこにソアラ蘇生の希望が乗っかるなら、俄然やる気が出て来るという物。
「師匠!魔王を倒しましょう!そしてソアラ師匠を!!」
「ああ、魔王は俺が倒す」
俺は心の底から願う。
魔王がソアラの肉体を保存してくれている事を。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うぅ……ん」
目を開けると、そこは薄暗い場所だった。
私はでこぼこしている床に、仰向けに倒れている状態だ。
体が酷く重くて気怠い。
何とか起き上がろうとするが、まるで全身を紐でグルグルに縛り付けられたかの様に、全く動かす事が出来なかった。
どうしようもないので私は再び目を瞑り、そして考える。
ここはどこだろうか?
私は……そう言えば、私は誰?
今の状況もそうだが、そもそも自分が何者かすら分からなかった。
私は誰で、どうしてこんな暗い場所にいるのだろうか?
頭の中が疑問でいっぱいになる。
そんな私に、不意に声がかけられた。
「目が覚めたか」
静かで、穏やかな声だ。
目を開けるてみると、角の生えた赤い目の男性が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
見覚えのない顔だ。
「だ……れ?」
ろれつが上手く動回らず、言葉が途切れ途切れになる。
「お前は私の娘だ」
「むす……め?じゃあ……私の……お父……さん?」
「そうだ。お前は蘇生したばかりだ。今はゆっくり休みなさい」
そう言うと、彼は私の頭を撫でる。
蘇生?
何の事か分からない。
でも、その人に頭を撫でられると凄く眠くなってきた。
その誘惑に抗えず、私は瞼を閉じる。
「お休み。我が娘、ソ――」
父が何と言おうとしたのか。
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