ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

文字の大きさ
上 下
41 / 68

第41話 キメラ

しおりを挟む
「師匠!これは!?」

「わからない。俺はちょっと周囲の確認をして来る」

ダンジョンは色だけでなく、地形自体も変わっていた。
周囲には金属製の柱が立っており。
これまでの洞窟然とした物ではなく、もろ人口物の中にいる様な感じだ。

「俺達も一緒に」

「いや、お前達はエンデさんの傍で万一に備えてくれ」

工房内とは言え、眠っている彼女を一人置いて行くのは問題がある。
かといって、異変が起きている状態をエンデが起きるのを悠長に待つのも問題だ。
だから二人には、この場に残って彼女の護衛をして貰う。

「わかりました。でも気を付けてくださいね、師匠」

「分かってるさ、無茶はしない。それとこれを。何かあったら握り潰すんだ」

俺は袋からの小さな球を2人に渡した。
緊急アラームの様な効果を持つマジックアイテムで、握りつぶすと俺の持っている方の球が反応を示す様になっている。

「じゃあ行って来る」

俺はまず探索魔法を発動させ、周囲に魔物がいないかを確認する。
工房周りに反応はなかったが、謎の異変があったばかりなので油断はできない。
慎重に外に出て、周囲の様子を確認する。

「周りには特に何もないな」

俺は唯一あった、少し離れた場所にある生命反応。
魔物の方へと向かってみる。

「キメラか?」

そこにいたのは、巨大な4足獣の魔物だった。

体高は軽く3メートルを超え。
獅子の頭部に、蛇の尾、肩からはヤギの頭が生えている。
世にいうキメラという奴だ。

初遭遇なので、その強さの程はわからない。
だがその巨体から考えて、深層で処理していたアラクネやミノタウロスよ手強そうにに見える。

「ぐぅぅぅぅぅ……」

俺の察知が敵の殺意を感知する。
隠密フルセットで影からこっそり覗いただけにも拘らず、バレてしまった様だ。
まあ獣型の魔物なので、匂い辺りで気づかれたのだろう。

「があああぁぁぁぁぁ!!」

雄叫びと共に、キメラが突っ込んで来た。
巨体に似合わぬ速度で一気に間合いを詰められ、その巨大な顎が俺に迫る。

「はっ!」

それを躱し、相手の太い足に俺は剣を斬り付けた。
硬い感触。
振るった一撃は肉を切り裂きはしたが、骨までは断てなかった。

「硬った……」

硬さは下位のドラゴン以上だ。
更にその素早い動き。
こいつはミノタウロスなんかよりも遥かに強い。

「イモ達じゃ、少々きつい相手だな」

此方が間合いを離すと、尻尾の蛇が霧状のブレスを吐きかけて来る。
間違いなく毒系の攻撃だろう。
喰らってやる謂れもないので、俺はそれを素早く後ろに飛んで躱す。

「ぐおおおお!!」

そこに、自らの放ったブレスの中を突っ切ってキメラが突進してきた。
その巨体からくる重量に任せて、俺を吹き飛ばすつもりなのだろう。

「舐めんなよ!人間様にはスキルがあるんだぜ!『渾身の一撃クリティカルスラッシュ』!」

渾身の一撃は、最上級クラスである武王の攻撃スキルだ。
ディレイは1時間と長く、消費もかなり大きい。
だがその威力は、瞬間的に5倍に跳ね上がる程強力だ。

因みにこれは、この前つくったアイススソードについた武器スキルである。
俺自身は、SP的にまだこのスキルを習得できていない。

「はぁっ!!」

アイスソードが強烈なオーラを放ち、キラキラと輝く。
俺は手にしたそれを、縦一文字に力強く振り下ろした。
突っ込んで来たキメラの体が左右に分かれ、慣性で俺の横を通り過ぎていく。

「このスキルが無消費で打てるのはでかいよな」

アイテムに宿ったスキルは、発動や維持に消費が発生しない。
どういう仕組みかは全く分からないが、便利な事この上なしだ。

「しっかし……凄い経験値だな」

キメラを倒した事で、レベルが一気に71から73に上がってしまった。
ドラゴン系でも、最近では1レベル上げるのに2匹は狩らなければならなかった事を考えると、その経験値量は破格だ。

「ひょっとしてボーナスステージなのか?」

ゲームのダンジョンなんかだと、隠し通路や特定の条件で非常に美味しい狩場に行けたりする事がある。

「いや、流石にそれは無いか」

ゲームみたいな世界ではあるが、ここはれっきとした現実である。
それに、スキル渾身の一撃のお陰で簡単に倒せはしたが、普通に戦ったらキメラはかなり手強い魔物だ。
そう考えると、ボーナスには程遠い。

「さて、素材は……と」

キメラの情報は持ち合わせていないので、何が有用か分からない。
なので俺は魔法を発動させ、倒したキメラの死体の魔力をチェックする。

……だいたい使える素材の部分は、魔力を大量に含んでいるからな。

特に魔力の強い反応があったのはヤギの角の部分と、左半身の胸の部分。
つまり、心臓と思わしき部位だ。

「こりゃ……魔石か」

キメラの心臓部分から出てきたのは魔石だった。
それもかなり魔力の籠った強力な物だ。

通常、魔石は鉱山などで地中から採掘される。
魔物の体内から取れるなんて話、聞いた事もない。

「ま、考えても仕方が無いか」

何故とか言い出したら切りがない。
そういう物だと割り切るのが、異世界での正しい生き方だ。

「まあ後は角だけでいいか」

他にも魔力の反応が強めの部位はあったが、それは放置する。
本格的に解体しだすときりがないからな。
今は周囲の確認が先だ。

その後も可能な限り周囲の探索はしたが、結局変わった物は見つからなかった。
俺は探索を切り上げ、一旦工房へと戻る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お願いだから、私を追放してください!

詩森さよ(さよ吉)
ファンタジー
わたしエイリーンは、転生者で料理に関するスキルを神様からもらいました。 でもそのおかげで、賢者に選ばれた兄に勇者パーティー入れられてしまいました。 もう気力も体力も限界なんです。 そうしたら、見かねた勇者がパーティーを追放すると言ってくれたんだけど……。 アルファポリス(以後敬称略)、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことが多いので、コメントなどの受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...