ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

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第28話 罠

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「――っ!?」

一階の惨状に、俺は思わず息を飲み込む。
宿の関係者は全員殺されていた。

暗殺者とは関係なかったのか。
それとも用済みとして始末されたのか。
今となってはどちらが正解か確かめ様がない。

「徹底してるな……」

「ここまでの事が出来るのは、やっぱりエブスで間違いないかと思います。彼は高位貴族の人間なので……師匠、巻き込んでしまってすいません」

「別に謝らなくてもいいさ」

別にベニイモ達が悪い訳じゃないからな。
悪いのは、その糞みたいなエブス・ザーンって奴だ。

「以前からロクデナシだとは思ってたが、此処まで腐ってやがったとは……」

タロイモが憤怒の形相を浮かべる。
揉めていた彼らも、流石にエブス・ザーンがここまでやるとは夢にも思っていなかった様だな。

「師匠。私は憲兵を呼んできますんで、師匠はここに居なかったって事にしてください」

「ん?どうしてだ?」

「憲兵はエブスの息がかかってるかもしれませんから。きっと不当な拘留が続く筈です」

憲兵の行動にまで干渉できるのか……

大規模な暗殺を仕掛けて来る様な奴だけあって、エブスと言うのはかなり大きな権力を握っている様だな。
ベニイモ達も随分厄介な相手を敵に回した物である。

「わかった。俺はなんとかゼッツさんに接触してみるよ」

ゼッツさんは王家の親衛隊を務めるぐらいだ。
相当な力を持っている筈。
相談すればきっと力になってくれるだろう。

「お願いします」

「任せとけ」

俺はイモ兄妹を残し宿を出て、人気のない適当な場所に身を潜める。

「ふむ……任せろとは言った物の、どうした物か」

手紙を渡して3日も連絡がないって事は、途中でそれがストップしているのは疑いようがない。
たぶんエブスって野郎の手で。

普通にもう一度城を訪ねてってのは、また妨害される可能性があるな。
かといって別ルートのコネもない。

「この際、いっそ忍び込むか……」

袋から使えそうなアイテムを取り出す。
指輪リング2つに、足輪アンクレットが2つ。
それと首輪チョーカーだ。

これは俺のお手製。
当然アルケミストの効果で、2個づつオプションが付いている。

因みにデザインはシンプルで飾り気などは全くなく、洗練された物とは言い難い粗雑な出来となっている。

まあ補正があるとは言え、素人づくりだからしょうがないだろう。
武具類と違ってマジックアクセサリーは直接戦闘に使う必要がないからな。
とにかく頑丈でさえあれば良いのだ。

鍛冶とは違い、俺はアクセサリー等の製作技術は学んでいない。
造りが荒いのはそのせいでもある。

俺は右手の人差し指にリングを嵌める。

これにはシャドーウォークと、陽炎のスキルが宿っていた。
シャドーウォークは盗賊のスキルで、気配を殺して動く事が出来る効果がある。
陽炎の方はオプション限定のスキルであり、周囲から視認されずらくなるという物だ。

この二つにアサシンのシャドウマスタリーが合わされば、余程ハッキリと発見されない限りは周囲を欺く事が出来るだろう。

更に、左手の指には別のリングをはめる。
此方には吸着と言う、忍者のスキルが二つ付いている。
これは壁や天井に張り付く事が出来るスキルで、効果は10秒程だ。

再使用時間の方が効果時間の倍ある為、基本的に連続使用は出来ない。
だが同じスキルを二つ付ける事で交互に発動できるので、このリングに限っては無限に壁などに張り付く事が出来た。

これがあれば誰かに見つかりそうになった時に、天井や壁も逃げ道として使えるだろう。

「アクセサリー類は、もっと大量に付けられれば便利なんだけどな」

アクセサリーは両手両足に一つずつ。
それに首から頭部にかけて一つの、計5つしか身に付けられない。
それ以上付けようとすると、効果が干渉しあって使えなくなってしまうのだ。

「ま、潜入だけなら5つあれば十分だろう」

右足と左足にそれぞれアンクレットを装着する。

右のアンクレットはシャドーダッシュと、2段ジャンプの効果付きだ。
シャドーダッシュはアサシンのスキルで、音や気配なく短時間高速ダッシュできる。

2段ジャンプの方はゲームなどでよくある、空中でジャンプするアレだ。
これもオプション専用のスキルとなっている。

左側のアンクレットのオプションの1つは、右と同じシャドーダッシュ。
それと浮遊が付いてある。
これは10秒程空中に留まるスキルだ。
飛べるわけではなくただ留まるだけなので、まあこっちの効果は潜入にあまり意味はない。

最後はチョーカーだ。
これには透視と、魔力視認が宿っている。

どちらもオプション限定スキルで、透視は障害物の向こう側を見る事が出来る効果をしており、魔力視認の方は魔力を目視する事が出来る効果となっている。

透視は内部の様子や物理トラップの確認。
魔力視認は魔法によるトラップや結界を目視できるので、潜入には持って来いの効果となっている。

「仮にも王族が住む城な訳だからな、魔法の結界なんかは何重にも張ってあるはずだ」

まあ物理的なトラップに関しては、そこまで警戒する必要はないと思うが。
城には大量の人間がいるからな。
巡回の兵士などが引っかかる恐れを考慮すると、融通の利きづらい物理トラップはあまり仕掛けられていないだろうと思われる。

まあ宝物庫みたいな特殊な場所だと、話は変わって来るんだろうけど。
もちとんそんな所に寄るつもりは更々ない。

「しっかし……勇者の相棒が城に潜入か……」

何かを盗む訳ではないとはいえ、泥棒みたいな真似をするのはどうかって気もしなくもない。

「ま、弟子達を助けるためだ。ソアラだってきっと笑って許してくれるだろ」

俺は人影がないのを確認し、街中にある時計塔のてっぺんに二段ジャンプで昇る。
そこからは、遠くにある城も一望できた。

「でっかい結界が張ってあるな」

予想通りではあるが、城には巨大な結界が張られてあった。
何も考えず乗り込んでいたら、速攻で侵入がバレてしまった事だろう。

「待ってろよ。ベニイモ。タロイモ」

宿の方を見ると、兵士達に連れていかれるベニイモとタロイモの姿が見えた。
その両手は縛られており、まるで犯人扱いだ。
ひょっとしたら、二人が暗殺者を撃退する事も含めての罠だったのかもしれない。

そうなると不当な拘留どころか、罪を擦り付けられてしまう可能性も十分考えられる。

「ベニイモが俺だけ別行動するよう判断したのは、ある意味ファインプレーとも言えるな」

一緒に捕まっていたら、きっと厄介な事になっていただろう。
まあその気になればフィジカルで無理やり脱出可能ではあるが、その場合、お尋ね者待ったなしだ。
それは出来れば避けたい所である。

「広い城内でゼッツさんを見つけるのは時間がかかるだろうし、さっさと行くか」

俺は塔から飛び降り、闇夜に紛れて城へと向かう。

◇◆◇◆◇◆◇◆

深夜。
王城にある離宮の一つ。
その一室で、1人の少女が体を天蓋付きのベッドの中で体を起こす。

「王子様が……来る」

彼女はそう呟くとベッドから降り、直ぐ傍のテーブルの上にある小さな箱を空ける。
そこには赤く輝く石が入っていた。
少女がそれを手に取ると、その石は彼女の手に吸い込まれる様に消えてしまう。

「中庭へ……」

少女は再びそう呟くと、音もなく部屋の扉を開ける。
その脇には警護を務める兵士が二人立っていたが、何故か扉が開いた事にも、そして彼女が部屋から出て来た事にも気づかない。

「……」

少女は離宮を抜け、真っすぐに中庭へと向かう。
夢の中で見た、彼女が王子様と呼ぶ人物と出会う為に。
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