ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一

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第17話 ぶん殴る

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騎士学校を卒業し、もうじき半年。
ソアラ師匠を亡くしてから、丁度1年程経つ。

――あの人は本当に強かった。

何より、夢を真っすぐに追う姿はキラキラと美しく輝いていた。
研鑽に励む日々の中、いつしか俺の心はそんな彼女に奪われる。

だが、俺は自分の気持ちをソアラ師匠に伝える事はなかった。
何故なら、彼女の横にはいつもアドル師匠が居たからだ。

師匠達が相思相愛でお似合いだったのは、誰の目から見ても明らかだった。
だから、俺は身を引いたのだ。

なのに――

「なぜ!?」

ソアラ師匠と一緒に、王都にやって来るとばかり思っていた。
なのにアドル師匠が村に残ったと聞かされ、俺は大声で叫んでしまう。

そんな俺を見て――

「大丈夫。離れていても、アドルはいつでも一緒だよ。私達は相棒だから」

王都に来て、顔を見せに来てくれたソアラ師匠は屈託のない笑顔でそう言う。
それは、俺が心奪われた輝き。
その笑顔は、かつてと何も変わっていなかった。
それを見て少しもやもやしたものはあったが、俺は一応その場では納得している。

だが1年と少し経ったところで、戦争が始まるという話が王都に広まり出した。
魔族側に大きな動きがあるという噂だ。
それは現実となり、そして戦争が始まってしまう。

王国最強まであっさり上り詰めたソアラ師匠はその力を期待され、13歳と言う若さにも拘らず出兵する事になり――

俺達の元に、ソアラ師匠が魔王と戦って戦死したという知らせが届いたのはそれから3か月程経ってからの事だった。

俺はそれを知り、目の前が真っ暗になる。
信じられない思い。
そして悲しみ。

その次に来たのが――

怒りだった。

魔王への怒りではない。
アドル師匠への物だ。

魔王との戦いは、ソアラ師匠が後一歩のところまで追いつめていたそうだ。
王国軍の敗走に追撃が無く、その後の侵攻が止まった事を考えると、魔王も相当なダメージを負っていた事は間違いない。

だから――

アドル師匠がその場にさえ居れば、ソアラ師匠は死なずに済んだ筈だ。
その事実に、俺は腹が立ってしょうがなかった。

師匠達が離れなければ――

二人が一緒だったなら――

こんな事にはならなかったのにと。

勿論、アドル師匠にも何か考えがあったのだろう。
二人が離れて1年ちょっとの短い期間で、魔族側が本格的な侵攻をして来るのが予想できなかったというのもある。

それでも。
それでも、相棒だったあの人が彼女の側に居さえすれば避けることが出来た悲劇だったのだ。

理不尽だとは分かっているが、俺はそれがどうしても許せなかった。

「兄さん」

「分かってる」

ベニイモと二人、俺は今、王国北部にある極寒山脈へとやって来ていた。
魔法のテントで眠りについていた俺達は、魔物の気配で目を覚ます。

「ドラゴンか……」

「多分ね……」

ここへは、師匠の足取りを追ってやって来ている。
ソアラ師匠の護衛騎士だったゼッツさんからの情報だ。

彼の情報によると、アドル師匠は村を出て3か月程タンカクという村に滞在していたそうだ。
その村は鍛治で有名な場所で、どうやら師匠はそこで鍛冶の指導を受けていた様だった。

それ以降は冒険者として各地を転々としていたのだが、その動きからどうやら師匠が竜を狩っている事が判明する。
単なるレベル上げか、それとも他に理由があるのかは分からない。

そしてその動きから予想できた次の獲物ねらい
おれはこの極寒の山の主――アイスドラゴンだった。

俺達は外に飛び出し、速攻でテントを荷物袋マジックインベントリへと回収する。

「逃げるのは、無理よね」

「ああ」

ここのドラゴンは探知能力に優れていると聞く。
俺達の事は既にとらえている筈だ。

だから此方に近づいて来たのだろう。
自分のテリトリーに足を踏み入れた、愚か者を罰するために。

「やるしかない」

アイスドラゴンは強力な魔物だ。
今の俺達が戦って勝てるかどうかは、少々厳しい相手と言える。
だがこの山に足を踏み入れた時点で、最悪こうなる事は想定していた。

「そうね。二人でドラゴン一匹追倒せない様じゃ、魔王なんて夢のまた夢だもんね」

ベニイモが軽口を叩く。
だがその通りだ。
魔王を倒し、ソアラ師匠の仇を討つためには、こんな所で負けてなどいられない。

それに、俺はまだアドル師匠をぶん殴ってはいないからな……

「来るわ!」

「倒す!」

それまで俺は死ねない!
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