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王子様御乱心

御乱心?

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「ああ、カルボ。ペペロン王子が明日お前に会いに来るそうだから、おめかししてお出迎えなさい」


会いに来る?
王子が?
何で?
まさかまたぶん殴られに、嫌味でも言いに来るとでもいうのだろうか?
まあそれはないか。

「王子様が私にですか?一体何の御用で」

父の口ぶりから、別に私に謝罪を求めにやってくるわけじゃないのは分かる。
そもそも謝罪させるなら呼び出される筈。
向こうの方が立場は上なのだから。

「御用も何も、婚約者のカルボと会うのに理由等いらないだろう?」

「は?」

婚約者?
何の話?
相手が破談を宣言し、私がグーパンした時点で完全にその話は流れた筈。
ひょっとしてお父様呆けちゃったのかしら?
まだ30代の筈なのに、お医者様……いや、私がこっそり魔法で見てあげた方が良いかな?

因みに魔法や転生の事は父にも秘密にしている。
娘が自分より長生きした婆の生まれ変わりとか聞かされても困るだろうし。
魔法に関しても、もうこの世界には存在していない力であるため、余計な事を言わず黙っている事にしていた。基本使う気も無いし。

何せ私は賢者ではなく、一人の女として平凡な幸せを掴むために転生したのだ。
周りに知れ渡ったら不気味がられて嫁の貰い手が無くなってしまう。
まあ現状でも貰い手は絶望的ではあるんだが、まだあきらめるには早い。

世の中捨てる神あれば拾う神ありだ。
きっと私を拾ってくれるイケメンがきっとどこかに居るはず。
それだけを胸に私は頑張っていく所存である。

「何をそんなに驚いているんだ?」

「私と王子の縁談は無かった事になったのでは?」

「ああ、王子を殴った事を気にしていたのか。それなら気にする必要はない。王子はその事を気にしてられないし、それ所か元気なお嬢さんで気に入ったと、大喜びしておられたぞ。流石私の娘だ」

……お喜び?
まさか……打ち所が悪くておかしくなった?

可能性は十分に在り得た。
怪我は魔法で回復させたとはいえ、ショックで脳に何らかの機能不全が起こり、思考が狂ってしまっているのかもしれない。
だとしたら大変な事をやらかしてしまった事になる。
ムカつく相手ではあったが、だからと言って相手の人生を無茶苦茶にする積もりは微塵も無い。何とかチャンスを見計らって魔法で直すとしよう。

となると、二人っきりになる必要がある。
流石に簡易魔法と違って、脳を完全修復させる様な魔法は気づかれない様さらっと行うのは難しい。その時、閨と言う単語が頭に浮かぶ。

いやいやいやいや!
ないないないない!
何考えてるの私!?
確かに二人っきりだけども!

上位貴族の婚姻ともなると、成婚するまでそう言った関係にはならないのが基本だ。
周りだってそれ前提で動く。
つまり閨まで行くという事はもうそれは既に結婚後の話である。
想像して顔が熱くなってしまう。

「おやおや顔を赤くして。ははは、頑張るんだぞ」

父は私が顔を赤くした理由を勘違いして嬉しそうに笑う。
いや、妄想の内容を考えると案外勘違いでは無いか。

とはいえ、あんな性格の悪い男との結婚などあり得ない。
まあ確かに顔は120点満点ではあるが、流石に性格があれでは無理だ。
不細工とはいえ、イケメン好きとはいえ、私にも選ぶ権利はある。

部屋へと戻った私はベッドに寝転がり、頭の中で作戦会議を開く。
しかし閨以外で、完全に周りの目が無い2人っきりの状態を作れる案は浮かばない。

いっそ魔法を使って宮殿に忍び込んでやろうかしら?
って流石に無理よね。
流石の私も、魔導具によるセーフティが施されている王宮に気づかれず侵入するのは難しい。

ああ、そうそう。
この時代には魔法がない代わりに、魔導なる珍妙な魔法と似て非なる力が存在する。
魔石と言う特殊な鉱石を依り代として、大気中のマナと呼ばれるエネルギーで魔法に似た力を発現させるというものだ。魔法に比べるとその出力は遥かに小さく、使える効果は魔導具(器)に込められた魔石と回路によって縛られてしまうが、誰にでも使えるという特性を持つ便利技術だ。

中には設置すると効果を延々発揮するものもあり。
そのタイプの魔道具が、不審者排除用に王宮には大量に配備されてある。

「閨しかないかぁ……」

「独り言とはいえ、はしたないですよお嬢様」

「う……」

指摘され、口から漏れ出ていた事に気づいて顔を赤くする。
最悪の独り言を聞かれてしまった。
死んでしまいたい。

ああ、もう全部あのバカ王子のせいだ!
とは言え放っておくわけにもいかない。
このままだとあれと結婚せざるを得なくなってしまう。
なんとか手を打たないと。

色々と考えているうちに、私はそのまま眠りこけてしまう。
気づけば翌朝。
案は無いが、兎に角王子と会って様子を確かめる事にしよう。

あれと顔を合わすのは憂鬱だと思いながらも私は侍女達に命じ、出迎えの準備を始める。
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