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第53話 予言

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――それは突然の事だった。

私はユーリと共に、迷宮の167階層を駆け抜ける。
途中出て来る魔物は、正面にいる物だけ倒し、無視できるものは無視して進んでいた。

「――つっ!?」

168階層に繋がるスロープを駆け下りている最中、それは突如やって来た。

白昼夢の様に、私の脳裏にあるイメージが浮かび上がる。
それは169階層のボスエリア。
そこに横たわる複数の遺体の一つを抱きしめ、嘆くユーリの姿だった。

――予言。

それは未来を垣間見せる、私の持つユニークスキル。
自動発動タイプのスキルで、残念ながら自身で望んだ未来を見通す事は出来ない。
強力ではあっても、万能からは程遠いスキルだ。

「どうかしたのか?」

私が足を止めた事に気付き、ユーリが戻って来た。
予言の未来は、放っておけば確実に現実になる。
このままだと、ユーリは大切な人を失う事になってしまうだろう。

――だが、回避方法はある。

予言の見せる未来は、常に解決策とセットになっていた。
今回その方法は、ユーリに私の装備を貸して先を急がせる事だ。

私の身に着けている装備には、移動に有利に働く物がある。
ステータスに勝る彼がそれを身に付けて急げば、悲劇は回避できると予言は示していた。

「今、私の中の闇の魂ダークソウルが囁いたのよ。先を急げと」

「はぁ?急にどうした?」

予言の事についてはその内容も、能力についても、他人に伝える事が出来ない様になっていた。
だから私は、遠回しにすべき行動だけをユーリに伝える。

「戸惑うのは分かるわ。でも、私の中に眠る闇を信じて頂戴。これを貴方に――」

私は身に纏っているローブを脱ぎ、ユーリへと差し出した。
これは私が屋敷を旅立つ日、セバスチャンが用意してくれたものだ。

「この宵闇のローブには気配を押さえ、姿をおぼろにする効果があるわ」

効果は、アサシンスキルの隠密に近い物がある。
まあ流石に、姿を完全に消すまでには至らないが。
それ以外にも各種属性に対する耐性や高い防御力、意識外から飛んでくる攻撃を知らせてくれる効果などもある優秀な装備だ。

「そんな効果があったのか。で、なんで俺に渡すんだ?」

「私と一緒に行くより、あなた一人で走った方が早いからよ。これも――」

私は今度はブーツを脱ぎ、ユーリにそれを履く様に促す。
これはウィングブーツと呼ばれるマジックアイテムだ。
装備すれば走る速度を上昇させ、短時間ならば飛行も可能である。

私が履いていた物だが、履く人間に合わせてそのサイズが変化する機能も備わっているので、ユーリでも問題なく履く事が出来るだろう。

「ふむ……なんか、冗談って感じじゃなさそうだな」

「ええ、運命――ディスティニーよ。必ずあなたの行く先に、闇の祝福が待っているはず。だからエリアボスの元まで急いでちょうだい」

「……わかった」

ユーリは基本、お人よしなんだと思う。
普通、急にエリアボスの元まで一人で急げなんて訳の分からない話をされれば、事情を聞こうとするはずだ。
けど、彼は迷う事なくウィングブーツに履き替え、宵闇のローブを身に纏う。

「俺は急いでいくけど、クレアはどうするんだ?」

「私も直ぐに追いつくわ。気にせず先に進んで」

「気を……まあ大丈夫か。んじゃ、先に行くぜ!」

ユーリが勢いよく、スロープを駆け下りていく。
その姿が完全に見えなくなった所で――

「追いかけるとは言っても、流石に靴下の状態じゃ……ね。セバスチャン、いるんでしょ?」

私は振り返り、セバスチャンの名を呼ぶ。
すると何もない場所に、黒尽くめの3人が姿を現した。

「お気づきになられていたのですね。お嬢様」

「ふふ。いくら闇にひそんでいても、私の目は誤魔化せないわ……と言いたい所だけど。ユーリがあんなに色々と高額な物を用意してるのをみれば、流石に気付くわよ」

「ははは、そりゃそうですよね」

セバスチャンの後ろの人物が、両手を頭の後ろで組んで笑う。
それは知っている声だった。

「ケーニも見守ってくれていたのね。じゃあそっちはエイリンかしら。三人とも、私を見守ってくれてありがとう」

ケーニとエイリンはヴェルヴェット家に仕えている兄妹で、二人はセバスチャンに鍛えられた腕利きのエージェントだ。

「「「勿体ないお言葉です」」」

三人が、私の言葉に腰を折って頭を下げる。

「私は家を出た身だから、そんなに畏まらなくていいのよ」

「そう言う訳には御座いません」

まあ、そりゃそうよね。
それを気にしないでいいのなら、そもそも護衛する必要なんてないのだから。

セバスチャン達が直接護衛として傍に付かず、影ながらなのは、家を出た経緯のためだと思う。
ヴェルヴェット家を出た私に堂々と彼らが付いていたら、母や兄が後継者争いを勘繰る可能性が出て来るから。

「お嬢様、こちらをどうぞ」

セバスチャンが腰に付けた小さなポーチから、靴を取り出し私の足元に置く。
ポーチはマジックバックと呼ばれるアイテムで、見た目より遥かに大量に物を収納する事が出来るレアアイテムだ。

「ありがとう、セバスチャン」

私はその靴を履き、爪先をとんとんしたりして履き心地を確かめた。
違和感なく足に見事にフィットしている感じから、それがマジックアイテムだという事が分る。

いくらサイズがあっていても、普通の靴だと、慣れるまでに多少違和感を感じるからね。

「じゃあ私はユーリを追うわ。あんまり到着が遅いと、心配かけちゃうから」

そう三人に告げ、私はスロープを駆け下りる。
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