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第43話 死霊の森
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精霊の森。
そこはかつて、世界樹を中心として広がるエルフ達にとって聖域と呼ばれる場所だった。
だが邪悪なる死霊術師の呪いによって、今や見る影もないおぞましい森へと姿を変えている。
――かつて世界樹の有った場所は、現在、冥界のゲートへと置き換わっている。
世界を手中にせんとした邪悪なる死霊術師、ペェズリー。
それに対抗すべく戦った、聖女エリクシスと勇者マーク・ギルバート。
その戦いの余波によって世界樹は崩壊し、勇者と聖女の二人と相打ちになったペェズリーは最期の力を振り絞り、呪いの力で冥界への扉を設置したと言われている。
輝かしい過去は今や風化し、その姿を記憶している者は殆どいない。
そして今、その森は死霊術師の森と呼ばれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「相変わらずくっせーな、ここは」
俺は久しぶりに死霊の森へと訪れていた。
アンデッドだらけなので、基本臭い。
ん、目的は何かだって?
そんなの決まっている。
遠距離アタッカー――後衛の入手だ。
遠距離アタッカーには、死霊のリッチーを採用する。
リッチーは光と神聖以外の魔法が扱えるので、敵に合わせて魔法を使い分ける事の出来る優秀な魔法アタッカーだ。
日の光の下だと弱体化してしまうという弱点はある物の、迷宮内で従える分には問題ない。
え?
アンデッドや死霊は死ぬと消滅するんじゃないのかって?
消滅するよ。
死霊術師の下僕も、野生?のアンデッドもそれは同じ。
死ぬと何も残さず消えてなくなる。
だが、俺には死霊の指輪があった。
これの効果は下僕の消滅を防ぐだけではなく、自分の倒したアンデッドにも適応される。
だからアンデッド系も、問題なく下僕にする事が出来るのだ。
ビバ!死霊の指輪!
俺は鬱蒼とした薄暗い森の中を、リッチーを求めて一人彷徨う。
クレアは連れて来ていない。
死との親和のないあいつを連れてきたら、魔物と戦闘しなければならなくなるからな。
だから――
「クレア。死霊の森は、死霊術師にとっては聖域。如何に闇のきずなで繋がったバディであろうと、お前を連れて行くわけにはいかない」
「闇の聖域……ふふ、それなら仕方がないわね」
――こんな感じで、お断りしておいたのだ。
リッチーを探してあっちこっちとうろついていると、冥界の扉――ゲートへとたどり着いた。
特に意図した訳ではない。
偶々だ。
「色が前と変わってる気が……」
気のせいだろうか。
ゲートの色が、前より少しく黒くなっている気がするが――
「ま、気のせいか」
気のせいだと結論付ける。
まあ仮に気のせいじゃなかったとしても、俺には関係ない事だ。
どうでもいい。
「ん?」
ゲートの前を去ろうとしたら、中から青白く光る人型の霊魂が急に出てきた。
男と女がひとりづつ。
男の方は御大層なごつい鎧を身に着けており、女の方はドレスっぽい服装をしている。
「エルフの霊か……」
男は人間(の死霊)だが、女の方は耳の先端が長く尖っており、エルフだという事が一目で分かる程に美しい顔立ちをしていた。
エルフはヘブンスオンラインにも登場する種族だが、数が極端に少なく、絶滅危惧種扱いになっている。
更にキャラメイクでの選択も出来ない事から、その冷遇っぷりから、実は運営の中にエルフ嫌いがいるのではないかと密かに噂されていた。
ま、死ぬ程どうでもいい話ではあるが。
「ペェズリーに魅入られし者よ」
男の霊が口を開く。
ペェズリーの名前が出た事から、その関連なのだろうと予測する。
但し、俺はこんなNPCを知らない。
現実特有の変異……多分そんな感じだろう。
「貴方が受け取ったその指輪は、この世界にとって危険な物です。今すぐに手放しなさい」
今度はエルフの女性が口を開いた。
綺麗な声ではあるが、上からのもの言いに少しカチンとくる。
何様だよ?
「そうですか?御忠告感謝します。じゃ、そう言う事で」
ゲームとしてのイベントではないのなら、報酬は期待できない。
そもそも、死霊術師にとって生命線とも言える指輪を捨てるとかありえないからな。
相手にするだけ時間の無駄だ。
俺は適当に返事して、その場を離れた。
「待て!それは世界に災いを齎す危険な物だ!」
「世界のためを思うのならば、それは処分しなければ――」
何か後ろでギャーギャー喚いてるが、無視する。
まあ仮に、だ。
彼らの頭の悪そうな主張が本当だったとして。
世界の安寧と。
俺のレベル上げと強さの追及。
どちらを取るかなど、天秤にかけるまでもない。
俺が目指すのは最強の死霊術師。
そこに妥協は無い。
「さーて、リッチーはどこかな」
――俺は知らなかった。
――彼らの言葉は真実であり、それを無視した事によって邪悪なる神がこの世界に召喚されてしまう事を。
その事を、俺は後々知る事になる。
え?
後悔?
しないよ。
レベル上げに指輪は必須だからな。
邪神はまあ、倒せばいいだけだし。
極限レイドと呼ばれたあの頃に戻った最強無敵の俺が。
そこはかつて、世界樹を中心として広がるエルフ達にとって聖域と呼ばれる場所だった。
だが邪悪なる死霊術師の呪いによって、今や見る影もないおぞましい森へと姿を変えている。
――かつて世界樹の有った場所は、現在、冥界のゲートへと置き換わっている。
世界を手中にせんとした邪悪なる死霊術師、ペェズリー。
それに対抗すべく戦った、聖女エリクシスと勇者マーク・ギルバート。
その戦いの余波によって世界樹は崩壊し、勇者と聖女の二人と相打ちになったペェズリーは最期の力を振り絞り、呪いの力で冥界への扉を設置したと言われている。
輝かしい過去は今や風化し、その姿を記憶している者は殆どいない。
そして今、その森は死霊術師の森と呼ばれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「相変わらずくっせーな、ここは」
俺は久しぶりに死霊の森へと訪れていた。
アンデッドだらけなので、基本臭い。
ん、目的は何かだって?
そんなの決まっている。
遠距離アタッカー――後衛の入手だ。
遠距離アタッカーには、死霊のリッチーを採用する。
リッチーは光と神聖以外の魔法が扱えるので、敵に合わせて魔法を使い分ける事の出来る優秀な魔法アタッカーだ。
日の光の下だと弱体化してしまうという弱点はある物の、迷宮内で従える分には問題ない。
え?
アンデッドや死霊は死ぬと消滅するんじゃないのかって?
消滅するよ。
死霊術師の下僕も、野生?のアンデッドもそれは同じ。
死ぬと何も残さず消えてなくなる。
だが、俺には死霊の指輪があった。
これの効果は下僕の消滅を防ぐだけではなく、自分の倒したアンデッドにも適応される。
だからアンデッド系も、問題なく下僕にする事が出来るのだ。
ビバ!死霊の指輪!
俺は鬱蒼とした薄暗い森の中を、リッチーを求めて一人彷徨う。
クレアは連れて来ていない。
死との親和のないあいつを連れてきたら、魔物と戦闘しなければならなくなるからな。
だから――
「クレア。死霊の森は、死霊術師にとっては聖域。如何に闇のきずなで繋がったバディであろうと、お前を連れて行くわけにはいかない」
「闇の聖域……ふふ、それなら仕方がないわね」
――こんな感じで、お断りしておいたのだ。
リッチーを探してあっちこっちとうろついていると、冥界の扉――ゲートへとたどり着いた。
特に意図した訳ではない。
偶々だ。
「色が前と変わってる気が……」
気のせいだろうか。
ゲートの色が、前より少しく黒くなっている気がするが――
「ま、気のせいか」
気のせいだと結論付ける。
まあ仮に気のせいじゃなかったとしても、俺には関係ない事だ。
どうでもいい。
「ん?」
ゲートの前を去ろうとしたら、中から青白く光る人型の霊魂が急に出てきた。
男と女がひとりづつ。
男の方は御大層なごつい鎧を身に着けており、女の方はドレスっぽい服装をしている。
「エルフの霊か……」
男は人間(の死霊)だが、女の方は耳の先端が長く尖っており、エルフだという事が一目で分かる程に美しい顔立ちをしていた。
エルフはヘブンスオンラインにも登場する種族だが、数が極端に少なく、絶滅危惧種扱いになっている。
更にキャラメイクでの選択も出来ない事から、その冷遇っぷりから、実は運営の中にエルフ嫌いがいるのではないかと密かに噂されていた。
ま、死ぬ程どうでもいい話ではあるが。
「ペェズリーに魅入られし者よ」
男の霊が口を開く。
ペェズリーの名前が出た事から、その関連なのだろうと予測する。
但し、俺はこんなNPCを知らない。
現実特有の変異……多分そんな感じだろう。
「貴方が受け取ったその指輪は、この世界にとって危険な物です。今すぐに手放しなさい」
今度はエルフの女性が口を開いた。
綺麗な声ではあるが、上からのもの言いに少しカチンとくる。
何様だよ?
「そうですか?御忠告感謝します。じゃ、そう言う事で」
ゲームとしてのイベントではないのなら、報酬は期待できない。
そもそも、死霊術師にとって生命線とも言える指輪を捨てるとかありえないからな。
相手にするだけ時間の無駄だ。
俺は適当に返事して、その場を離れた。
「待て!それは世界に災いを齎す危険な物だ!」
「世界のためを思うのならば、それは処分しなければ――」
何か後ろでギャーギャー喚いてるが、無視する。
まあ仮に、だ。
彼らの頭の悪そうな主張が本当だったとして。
世界の安寧と。
俺のレベル上げと強さの追及。
どちらを取るかなど、天秤にかけるまでもない。
俺が目指すのは最強の死霊術師。
そこに妥協は無い。
「さーて、リッチーはどこかな」
――俺は知らなかった。
――彼らの言葉は真実であり、それを無視した事によって邪悪なる神がこの世界に召喚されてしまう事を。
その事を、俺は後々知る事になる。
え?
後悔?
しないよ。
レベル上げに指輪は必須だからな。
邪神はまあ、倒せばいいだけだし。
極限レイドと呼ばれたあの頃に戻った最強無敵の俺が。
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