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第二章 希望を求めて
第五十六話 ボス戦は基本逃走不能
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月明りを背に受け、小女が此方を見下ろしている。
当たりに人影は無く、つい先程までそこに居た筈の仲間達の姿は見当たらない。
まさか全員やられた?
一瞬焦るが、頭の中に響く声がそれを否定してくれる。
≪安心しろ、主よ。他の僕達は吹き飛ばされただけだ。全員生きている≫
声の主は俺と融合している邪竜のヘルだ。
これまでは意思疎通の出来ない相手としか融合していなかった――彩音と融合中は気絶していた――ため気づかなかったが、意思のある相手ならば融合中でも対話が成り立つみたいだ。
俺は地面を蹴り、上空高く飛び上がる。
小女――厄災――から少し離れた位置で留まり、辺りを見渡す。
「全員無事みたいだな」
≪そう伝えたはずだが≫
俺の言葉に、不服そうにヘルが口を挟んだ。
自分の言葉が疑われたと思ったのだろう。
「生きてるってのと無事はイコールじゃないぜ」
死んでいなくとも、不意打ちで再起不能になっていたのでは話にならない。特にティーエさんとリンがその状態だと回復もできなくなってしまう。
だが幸い全員バラバラに弾き飛ばされてはいるが、怪我らしき怪我をしている様子はない。これなら問題なく――
≪俺が時間を稼いでる間に皆撤退しろ!≫
超距離通話で全員に撤退を指示する。
それを聞いて一斉に仲間達が散っていく。
俺の指示に反対する者はいない。
それもそのはず、相手は此方の必殺の一撃に耐えるような化け物だ。
まず此方に勝ち目はない。
仲間が逃げるまでの時間を稼ぎ、俺も適当な所で撤退させて貰う。
リンが立ち止まって心配そうに此方を見上げる。
俺の事を心配してくれているのだろう。
だが有難迷惑だ。
彼女がその場に留まれば留まる程、俺の稼がなければならない時間が無駄に増えてしまう。本当に俺の事を気遣うならとっとと行って欲しいものだ。
≪安心しろ、リン。俺も適当な所で切り上げて撤退するから≫
≪大丈夫……ですよね?≫
≪今の俺なら時間稼ぐらいできるって。俺を信じろ≫
≪分かりました。たかしさん気を付けて≫
立ち止まっていたリンが俺の言葉を信じて撤退を始める。
この世に自分程信じられない物は無いのだが、リンはそんな俺の事を素直に信じてくれる。
それが嬉しくもあり。
同時に将来誰かに騙されるんじゃないかと不安にもなる。
まあその将来とやらも、邪悪を倒せなければやって来ない訳だが。
「ま、彩音の頑張り次第か」
最早自分で倒そうなどと言う意思は微塵もない。
とにかく彩音に踏ん張って貰う方向だ。
しかし――
目の前の厄災は仲間達がこの場を離脱して行くのには目もくれず、俺をじっと見つめて動こうとしない。雑魚には興味が無いという事だろうか?
それにしても攻撃を仕掛けて来ないのが謎だが。
≪主!後ろだ!!≫
突然のヘルの叫びに反応して振り返る。
そこにはいつの間に回り込んだのか厄災の姿が――
いや待て、おかしいぞ!?
俺は体を半身にする形で背後へと視線を向ける。
そこには――
「ざっけんな!こいつも分裂すんのかよ!!」
2体の厄災に挟まれ思わず毒づく。
迂闊だった。
王墓の厄災が分裂した以上、他の厄災も分裂して当然と気づくべきだった。
俺の背後にもう一体を回り込ませて挟み撃ちをする。
その為にリンが去って視線が切れるまで動かなかった分けか。
完全にしてやられたな。
だが、ヘルのお陰で何とかゲームオーバーだけは避けられた。
気づかず不意打ちを喰らって畳みかけられていたら、確実に俺はやられていたはず。只挟みこまれただけなら、まだどうにでもなる。
先程よりも難易度が上がったのは間違いないだろう。
とは言えやる事に変わりはない。
時間を稼ぎ、間合いを離して転移で逃げる。
ただそれだけだ。
「問題は引き離せるかって事だな」
融合している状態では召喚者としての能力は一切使えない。
無詠唱で使えるとは言え、解除の瞬間攻撃されたらそのまま御臨終コースだ。
どうにかしてこいつらを引き剥がさないと。
「残念だけど……」
「貴方を逃がしはしない」
鈴の音を響かせる様な、美しく儚い声が響く。
厄災の口から交互に。
「ちっ」
俺は舌打ちする。
厄災が言葉を口にした事にではない。
王墓で戦った厄災も言葉を持っていた。
ならばこの厄災も言葉をそなえていてもおかしくはない。
予想は出来た。
問題は内容だ。
逃げる腹積もりが完全に筒抜けになっており、相手はそれを警戒している。
益々難易度が跳ね上がった。
厄介極まりない。
「「だから封印させてもらう!」」
「!?」
俺を挟む2体の厄災の声が重なる。
次の瞬間、厄災達の両手から淡く青い光が放たれ。
光は幾重もの波紋となって辺りを包み込み、お互いがぶつかり合って乱反射する。
「これは!?」
世界が青く染まる。
彼女達の放った光が幾層にも折り重なり、青い世界。
結界を生み出した。
「転移は封じた」
「もう貴方は逃げられない」
「ここは貴方を閉じ込める牢獄」
「この封印は私を倒さなければ出る事は出来ない」
厄介所の話では無かった。
絶体絶命の状況に俺は冷たい汗を流す。
当たりに人影は無く、つい先程までそこに居た筈の仲間達の姿は見当たらない。
まさか全員やられた?
一瞬焦るが、頭の中に響く声がそれを否定してくれる。
≪安心しろ、主よ。他の僕達は吹き飛ばされただけだ。全員生きている≫
声の主は俺と融合している邪竜のヘルだ。
これまでは意思疎通の出来ない相手としか融合していなかった――彩音と融合中は気絶していた――ため気づかなかったが、意思のある相手ならば融合中でも対話が成り立つみたいだ。
俺は地面を蹴り、上空高く飛び上がる。
小女――厄災――から少し離れた位置で留まり、辺りを見渡す。
「全員無事みたいだな」
≪そう伝えたはずだが≫
俺の言葉に、不服そうにヘルが口を挟んだ。
自分の言葉が疑われたと思ったのだろう。
「生きてるってのと無事はイコールじゃないぜ」
死んでいなくとも、不意打ちで再起不能になっていたのでは話にならない。特にティーエさんとリンがその状態だと回復もできなくなってしまう。
だが幸い全員バラバラに弾き飛ばされてはいるが、怪我らしき怪我をしている様子はない。これなら問題なく――
≪俺が時間を稼いでる間に皆撤退しろ!≫
超距離通話で全員に撤退を指示する。
それを聞いて一斉に仲間達が散っていく。
俺の指示に反対する者はいない。
それもそのはず、相手は此方の必殺の一撃に耐えるような化け物だ。
まず此方に勝ち目はない。
仲間が逃げるまでの時間を稼ぎ、俺も適当な所で撤退させて貰う。
リンが立ち止まって心配そうに此方を見上げる。
俺の事を心配してくれているのだろう。
だが有難迷惑だ。
彼女がその場に留まれば留まる程、俺の稼がなければならない時間が無駄に増えてしまう。本当に俺の事を気遣うならとっとと行って欲しいものだ。
≪安心しろ、リン。俺も適当な所で切り上げて撤退するから≫
≪大丈夫……ですよね?≫
≪今の俺なら時間稼ぐらいできるって。俺を信じろ≫
≪分かりました。たかしさん気を付けて≫
立ち止まっていたリンが俺の言葉を信じて撤退を始める。
この世に自分程信じられない物は無いのだが、リンはそんな俺の事を素直に信じてくれる。
それが嬉しくもあり。
同時に将来誰かに騙されるんじゃないかと不安にもなる。
まあその将来とやらも、邪悪を倒せなければやって来ない訳だが。
「ま、彩音の頑張り次第か」
最早自分で倒そうなどと言う意思は微塵もない。
とにかく彩音に踏ん張って貰う方向だ。
しかし――
目の前の厄災は仲間達がこの場を離脱して行くのには目もくれず、俺をじっと見つめて動こうとしない。雑魚には興味が無いという事だろうか?
それにしても攻撃を仕掛けて来ないのが謎だが。
≪主!後ろだ!!≫
突然のヘルの叫びに反応して振り返る。
そこにはいつの間に回り込んだのか厄災の姿が――
いや待て、おかしいぞ!?
俺は体を半身にする形で背後へと視線を向ける。
そこには――
「ざっけんな!こいつも分裂すんのかよ!!」
2体の厄災に挟まれ思わず毒づく。
迂闊だった。
王墓の厄災が分裂した以上、他の厄災も分裂して当然と気づくべきだった。
俺の背後にもう一体を回り込ませて挟み撃ちをする。
その為にリンが去って視線が切れるまで動かなかった分けか。
完全にしてやられたな。
だが、ヘルのお陰で何とかゲームオーバーだけは避けられた。
気づかず不意打ちを喰らって畳みかけられていたら、確実に俺はやられていたはず。只挟みこまれただけなら、まだどうにでもなる。
先程よりも難易度が上がったのは間違いないだろう。
とは言えやる事に変わりはない。
時間を稼ぎ、間合いを離して転移で逃げる。
ただそれだけだ。
「問題は引き離せるかって事だな」
融合している状態では召喚者としての能力は一切使えない。
無詠唱で使えるとは言え、解除の瞬間攻撃されたらそのまま御臨終コースだ。
どうにかしてこいつらを引き剥がさないと。
「残念だけど……」
「貴方を逃がしはしない」
鈴の音を響かせる様な、美しく儚い声が響く。
厄災の口から交互に。
「ちっ」
俺は舌打ちする。
厄災が言葉を口にした事にではない。
王墓で戦った厄災も言葉を持っていた。
ならばこの厄災も言葉をそなえていてもおかしくはない。
予想は出来た。
問題は内容だ。
逃げる腹積もりが完全に筒抜けになっており、相手はそれを警戒している。
益々難易度が跳ね上がった。
厄介極まりない。
「「だから封印させてもらう!」」
「!?」
俺を挟む2体の厄災の声が重なる。
次の瞬間、厄災達の両手から淡く青い光が放たれ。
光は幾重もの波紋となって辺りを包み込み、お互いがぶつかり合って乱反射する。
「これは!?」
世界が青く染まる。
彼女達の放った光が幾層にも折り重なり、青い世界。
結界を生み出した。
「転移は封じた」
「もう貴方は逃げられない」
「ここは貴方を閉じ込める牢獄」
「この封印は私を倒さなければ出る事は出来ない」
厄介所の話では無かった。
絶体絶命の状況に俺は冷たい汗を流す。
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