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王墓探索

第七十二話 お一人様

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「臭う、臭うぜぇ。この方角からヤバい奴の臭いがプンプン漂ってきたがる」

鼻をひくひくさせ、ガートゥは嬉しそうに告げる。

「面白い」

そんなガートゥの言葉を受け、レインもやけに楽しそうに答える。

二人共やる気満々のようだ。
正直何が楽しいのか俺には未だ理解できない。
まあ、する必要もないが。

俺達は今、30層の森の中にいる。

森は厄介だ。
見晴らしのいい草原などと違って、こういった場所にいる魔物は奇襲を得意とする。その為、例え相手が格下だったとしても、ふいの奇襲から手痛いダメージを受ける可能性が高くなってしまう。
だから森の中では慎重に進む必要があるのだが、前を行く二人――レインとガートゥ――は全く意に介さずに、ずんずんと進んでいく。

この二人の感知能力はずば抜けていた。
既に森の中で、ゴブリンのアーチャーやレンジャー十数匹と交戦している。だがその全ての戦いにおいて、彼らは敵に気づかれる前に動く。
奇襲されるどころか、逆に奇襲をかけて仕留めて来るのだ。
流石戦闘狂共だと感心せざる得ない。

ふいにレインが駆ける。
どうやら前方の敵に気づき、始末しに行くつもりなのだろう。
その背をガートゥは静かに見守る。

先に見つけた方が始末する。
彼らの間ではそう言った不文律が存在しているのだろう。
その為、二人同時にパーティーから遠く離れることは無い。

戦闘狂ではあっても、脳天パーではないのが救いだ。

「レイン君はりきってるねぇ」

走っていくレインの背を見ながらパーが呟く。

「頼もしいですよね、レインさん!素敵だと思いませんか!?」
「んー、どうだろうねぇ」
「恋人同士になったらきっとパーちゃんの事、命を賭けて守ってくれるに違いませんよ!」

恋愛大好きフラムがその手腕を見せるべく、パーにぐいぐいとレインをアピールしていく。

フラムには、レインの悩み事はすでに相談済みだ。
俺も勿論協力するつもりではあるが、恋愛経験皆無の俺ではたいして役に立たない。こういう事は経験者の力を借りるのが一番だ。

今でこそ、年がら年中ウェディングドレスをカジュアルに着こなすあほの子に成り下がってしまってはいるが、これでも恋愛経験はこのパーティーの中では断トツだ。
というかこのパーティー、フラム以外恋愛経験ほぼなしだ。

レイン
今までの人生をほぼ剣に捧げてきた。恋愛経験ゼロ。

パー
人生をほぼ興味の引く研究に捧げてきた。これまた恋愛経験ゼロ。

リン
リンはまだまだ子供だ。そもそも初恋もまだっぽい。

ニカ
よく分からないが、まだ14歳だし多分恋愛経験は無いだろう。
仮にあったとしても、いい年した大人が14歳の少女にそんな相談などできるはずもない。

ガートゥ
魔物の恋愛経験なんてものが役に立つとは思えない。
そもそもこいつもレインと同じタイプだから、恋愛とかしてなさそう。

彩音
戦闘狂その参。
そもそも異性に興味があるのかも怪しいレベル。

ティーエ
聖女になる為に男を遠ざけている。
凄くモテそうではあるが、目的を考えたら本人が誰かと恋愛するとは思えない。

ティータ
変態。却下。


語るまでも無し。

彩音たちはこの場に居ない為、そもそも相談できないのだが。
仮にできたとしても、たいして役には立たないだろう。

リン達はまだ子供だからしょうがないにしても。
こうやって考えると、俺の周りの奴って恋愛に無縁な奴ばっかだな。

フラムにしても、あのなりではこれから先の恋愛は絶望的だろう。
そう考えると碌なのが周りに居ない。

類は友を呼ぶ。
そんな言葉が頭を過る。

このままだと、俺も一生お一人様で過ごす事になりそうだ。
そんな暗い未来を想像していると、レインが戻ってきて告げる。

「この先で森は終わっているぞ」

どうやら出口は近いようだ。
ニカの母親達は、森を出た所で壊滅したと聞いている。

暗い将来への悲観は一旦置いておいて、気持ちを引き締める。
死んでしまっては、将来も何もあったものではない。

「お母さん……」

そう不安そうに呟くニカの肩に手を置き、俺は言葉をかける。

「大丈夫、きっとみつかるさ。そしたらお母さんを連れて帰ってあげよう」
「はい。お願い……します……」

今にも泣きだしそうな少女の表情に胸を締め付けられながら、俺は宣言する。

「よし!行こう!」

そして俺達は森を抜ける。
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