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王墓探索

第六十八話 それはないわー

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「お疲れ様」

本日の探索を終え、俺は皆に労いの声をかける。

「おつかれさまでした!」
「おつかれさまでしたー」
「お疲れさん」
「ふふふ、お疲れ様です」

それに反応して皆も声を返してくれる。
一人を除いて。

今日の探索は、結局3層への階段を見つける所までで終了した。
朝の出発の時間が遅かったのもあるが、途中どうでも良い事で時間を取られ、ほとんど進むことが出来なかった為だ。

まあ、初日だしこんなもんだろう。
急ぐものでもなし、ゆっくり時間をかけて着実に歩を進めればいい。
と、俺は考えている。
他の皆も同様で、探索の遅行を気にする者は居なかった。
一人を除き。

探索の途中から、不機嫌を隠そうともしない男が一人。
レイン・ウォーカーだ。
気の短い男と言ってしまえばそれまでだが、彼に関しては、ほぼ無報酬に近い形で付き合わされているのだ。遅々として進まない状況にイラつくのは、ある程度しょうがない事ではある。

とは言えこのままじゃ空気悪いよな。
明日以降スムーズに進めるとは限らないし……というか現状だとこいつの力って必要ないよな。

「なあ、低階層ならお前無しでも大した問題はなさそうだし、ある程度進んでから参加してもいいんだぞ?」
「貴様の戦いぶりを見逃す気はない」

レインがじろりと、獲物を狙う猛禽類のような瞳で此方を睨み、拒否を返してくる。どうやら、決闘で俺をボコボコにする気満々のようだ。

マジ勘弁しろ。

パー曰く、現状で決闘をした場合、俺が奴に勝つ確率は六分といった所らしい。
身体能力では此方が大きく上回っているが、奴にはそれまでの人生で培った戦闘経験と勘、後は隠し玉的なスキルの有無。これらを錬金術的に考慮した数字だそうだ。
錬金術的ってなんだよ?と思いはしたが、聞くと長くなりそうだったのでその辺りはスルーした。

だがパーの予測は恐らく当たっているだろう。
レインが自分より明かに弱い相手に決闘を申し込むとは思えない。
だからと言って、勝ち目もない決闘を申し込む程愚かでもないだろう。
そう考えると、六分という数字が現実味を帯びて来る。

「雑魚相手の戦いなんか見てもしょうがないんじゃ?」
「貴様との戦いはすでに始まっている」

うん、いや全然始まってないからね。戦い。

何言ってるんだこいつは?と、懐疑の目を向けるが、本人は全く気にせず言葉を続ける。

「である以上、貴様のほんのわずかな挙動も見逃すつもりはない」

それって、俺だけを見つめ続けるって事か?
なんか普通に気持ち悪いんだが。

美女ならともかく、きつい目つきの男に見つめられても全然うれしくない。
何とかならない物かとパーを見るが、両手をクロスさせぺけまーくで答えて来る。
どうやら我慢するしかない様だ。

「まあお前がそれでいいってんなら構わないけど。これからも多分イライラする事になるぜ?」
「構わん。精神のコントロールも、訓練の一環だ」

全然コントロールできてないがな。
つい声に出して言いそうになるが、ぐっと堪えて飲み込む。
これ以上きつい視線で睨まれたら、冗談抜きで体に穴が開いてしまいそうだ。

「まあいいけど、次からは荷物あんまり持ってくるなよ」
「訓練用の錘を兼ねている。問題無いだろう」
「他のパーティーが見たら、お前ひとりに荷物押し付けてるみたいに見られるだろ?苛めだと思われたらかなわん」
「ははは、確かにそれはあるね。全員軽装は、それはそれであほのパーティーだと思われそうではあるけど、それでも誰かを虐めてると思われるよりはましだよね」

「わかった」

レインにしては珍しく、素直に返事が返って来る。

パーが同意したからか?
報酬の件といい今回の件といい、ひょっとしてパーに気があるんだろうか?
いや、流石にそれは無いよな。

「俺はこれで失礼させてもらう。また明日も同じ時間で良いんだな?」
「ああ、オッケーさ。それじゃまた明日」
「あ、ああ。また明日」

レインは振り返り、此方に背を向けると、一瞬軽く片手をあげ去っていく。
そしてその挙動のなか、奴の頬が赤らんでいるのを俺は見逃さなかった。
いや、俺だけではない。
こういった事が大好きな女も、勿論目ざとく気づいていた。

「あの?ひょっとしてレインさんって。パーちゃんの事好きなんじゃ?」
「あはは、ばれちゃった?いやーモテる女はつらいよー」
「やっぱり!!そうじゃないかと思ってたんですよ!」

フラムが今にも踊りだしそうな活き活きした顔で、語気を強める。

ホントこういう話好きだよな、フラムは。
二人の恋話がいつ迄も続きそうだったので、俺はリンとニカに声をかけ先に帰るのだった。

しかしパーが好きとかないわー。
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