29 / 165
エルフの森からやってきた少女
第二十九話 不安
しおりを挟む
ガーゴイル
翼持つ悪魔の姿を象った石像に、魂が宿ったようなモンスターだ。
高い飛行能力を有し、その鋭い爪は岩をも容易く切り裂く。
楽勝だ。
戦闘が始まってまだ10分と経っていないが、既に40匹近くのワイバーンを撃墜している。
ガーゴイルでワイバーンとどの程度渡り合えるか不安だったが、全くの杞憂に終わる。はっきり言って敵ではなかった。
強化魔法を受けているガーゴイルの飛行速度はワイバーンのそれを上回り、更に小回りまで効くため、容易くワイバーンの背に取り付く。
背に取り付いてしまえば、後はその鋭い爪で相手が死ぬまで滅多切りにするだけだ。
また、ガーゴイルは基本ワイバーンの上を取るように飛行しているため、火球による森への被害も発生していない。
「ふぁ~あ」
昨日緊張で夜遅くまで眠れなかったため、思わず欠伸が出る。
「た、たかしさん。いくら何でも緊張感なさすぎでは……」
「ごめんごめん。でもワイバーンが思ってたよりずっと弱くて拍子抜でさ。これなら楽勝だな」
俺の言葉が気に障ったのか、フラムが怒ったような顔で近づいてくる。
ずいっと顔を近づけたと思ったら、小さな声で俺に耳打ちしてきた。
「リンちゃんもいるんですよ」
そう言われはっとなってリンを見る。
リンは不安そうな顔で西の方を眺めていた。
マーサさん達の部隊がいる方角だ。
リンにとってマーサさんはただの里長ではなく、育ての親に当たる人だ。
幼い頃両親を亡くしたリンを女手一つで育てた恩人。
そんな相手を心配しないわけがない。
最初リンはマーサさんと同じ部隊を希望していたが、マーサさんの意向により俺達と行動を共にすることになったのだ。
俺達と行動するのが最も安全だと判断したからだろう。
実際その判断は当たっていたと言える。
現状余程の事がない限り、命どころか怪我一つする心配もないだろう。
何やってるんだ俺は……
リンの不安に気づきもしなかった自分の無神経さに腹が立つ。
リンの事を抜きにしてもそうだ。
他の部隊のエルフ達はそれこそ命がけで頑張っているというのに……
「すまん」
「とにかく、今は油断せずしっかり仕事をしましょう」
「わかった」
両手で頬を叩き気合を入れる。
自分自身が戦うわけではないが、状況次第でガーゴイルに指示を出すのは自分だ。
下手を打って万一リンに怪我をさせてしまっては、こちらを信じリンを預けてくれたマーサさんに合わせる顔が無くなってしまう。
「ワイバーンの大群がこっちに向かってきます!!」
リンが大声で近づくワイバーンの報告をしてくる。
は?大群?
言われて西の空を見ると、ワイバーンの群れがこちらへと向かって来ているのが目に入った。
40…いや50はいる……
ガーゴイルの戦闘能力ならワイバーンが50匹でも何とかなるだろう。
問題は俺達の方だ。
自分達の姿が見つかれば集中砲火を浴びる危険性がある。
そうなれば一溜りもないだろう。
「二人とも樹から降りてください!範囲透明化を使います!」
フラムの声を受け、急いで下に降り集まる。
「範囲透明化!」
素早く詠唱を終えたフラムが魔法を発動させる。
「これで簡単には見つからないはずです。何とかなりそうですか?」
「大丈夫だとは思う。けど倒しきるのに多少時間がかかるだろうから、しばらくは身を隠していた方がいいな」
「そうですね。りんちゃん?大丈夫ですか?」
フラムが心配そうにリンに声をかける。
「は、はい。大丈夫です」
リンの声は震えていた。
心配になってリンを見ると顔が真っ青だ。
「お、おいリン大丈夫か?」
「大丈夫です……」
リンは青い顔をして震えている。どう見ても大丈夫といった様子ではない。
その時、はっと気づく。リンが見ていた方向を……
ワイバーンの群れは西からやってきた。マーサさん達の居る方角から。
こういう時、なんて声をかけりゃいいんだ。
リンを安心させるための言葉が浮かんでこない。
「ひょっとしたらワイバーンの狙いは、たかしさんの呼び出したガーゴイルかもしれませんね」
フラムが明るく声を出す。
「すごい勢いでばんばん倒しちゃってましたから。敵の標的にされちゃったのかも」
フラムもリンの様子の原因に気づいたのだろう。
リンを安心させるためにもっともそうなことを言う。
「なるほど!それで他を無視してここに集まってきたわけか!」
話としてはかなり苦しい。
もしそうなら、西だけでなく他の方角からもワイバーンが集まって来なければ話の筋が通らないからだ。
「わ、わたし!マーサさん達の様子を見てきますね!!」
そう叫ぶとリンは範囲透明化の範囲から飛び出していく。
「な…」
「りんちゃん待って!」
フラムの静止に振り返ることなく、リンの姿は森の中へと消えていく……
翼持つ悪魔の姿を象った石像に、魂が宿ったようなモンスターだ。
高い飛行能力を有し、その鋭い爪は岩をも容易く切り裂く。
楽勝だ。
戦闘が始まってまだ10分と経っていないが、既に40匹近くのワイバーンを撃墜している。
ガーゴイルでワイバーンとどの程度渡り合えるか不安だったが、全くの杞憂に終わる。はっきり言って敵ではなかった。
強化魔法を受けているガーゴイルの飛行速度はワイバーンのそれを上回り、更に小回りまで効くため、容易くワイバーンの背に取り付く。
背に取り付いてしまえば、後はその鋭い爪で相手が死ぬまで滅多切りにするだけだ。
また、ガーゴイルは基本ワイバーンの上を取るように飛行しているため、火球による森への被害も発生していない。
「ふぁ~あ」
昨日緊張で夜遅くまで眠れなかったため、思わず欠伸が出る。
「た、たかしさん。いくら何でも緊張感なさすぎでは……」
「ごめんごめん。でもワイバーンが思ってたよりずっと弱くて拍子抜でさ。これなら楽勝だな」
俺の言葉が気に障ったのか、フラムが怒ったような顔で近づいてくる。
ずいっと顔を近づけたと思ったら、小さな声で俺に耳打ちしてきた。
「リンちゃんもいるんですよ」
そう言われはっとなってリンを見る。
リンは不安そうな顔で西の方を眺めていた。
マーサさん達の部隊がいる方角だ。
リンにとってマーサさんはただの里長ではなく、育ての親に当たる人だ。
幼い頃両親を亡くしたリンを女手一つで育てた恩人。
そんな相手を心配しないわけがない。
最初リンはマーサさんと同じ部隊を希望していたが、マーサさんの意向により俺達と行動を共にすることになったのだ。
俺達と行動するのが最も安全だと判断したからだろう。
実際その判断は当たっていたと言える。
現状余程の事がない限り、命どころか怪我一つする心配もないだろう。
何やってるんだ俺は……
リンの不安に気づきもしなかった自分の無神経さに腹が立つ。
リンの事を抜きにしてもそうだ。
他の部隊のエルフ達はそれこそ命がけで頑張っているというのに……
「すまん」
「とにかく、今は油断せずしっかり仕事をしましょう」
「わかった」
両手で頬を叩き気合を入れる。
自分自身が戦うわけではないが、状況次第でガーゴイルに指示を出すのは自分だ。
下手を打って万一リンに怪我をさせてしまっては、こちらを信じリンを預けてくれたマーサさんに合わせる顔が無くなってしまう。
「ワイバーンの大群がこっちに向かってきます!!」
リンが大声で近づくワイバーンの報告をしてくる。
は?大群?
言われて西の空を見ると、ワイバーンの群れがこちらへと向かって来ているのが目に入った。
40…いや50はいる……
ガーゴイルの戦闘能力ならワイバーンが50匹でも何とかなるだろう。
問題は俺達の方だ。
自分達の姿が見つかれば集中砲火を浴びる危険性がある。
そうなれば一溜りもないだろう。
「二人とも樹から降りてください!範囲透明化を使います!」
フラムの声を受け、急いで下に降り集まる。
「範囲透明化!」
素早く詠唱を終えたフラムが魔法を発動させる。
「これで簡単には見つからないはずです。何とかなりそうですか?」
「大丈夫だとは思う。けど倒しきるのに多少時間がかかるだろうから、しばらくは身を隠していた方がいいな」
「そうですね。りんちゃん?大丈夫ですか?」
フラムが心配そうにリンに声をかける。
「は、はい。大丈夫です」
リンの声は震えていた。
心配になってリンを見ると顔が真っ青だ。
「お、おいリン大丈夫か?」
「大丈夫です……」
リンは青い顔をして震えている。どう見ても大丈夫といった様子ではない。
その時、はっと気づく。リンが見ていた方向を……
ワイバーンの群れは西からやってきた。マーサさん達の居る方角から。
こういう時、なんて声をかけりゃいいんだ。
リンを安心させるための言葉が浮かんでこない。
「ひょっとしたらワイバーンの狙いは、たかしさんの呼び出したガーゴイルかもしれませんね」
フラムが明るく声を出す。
「すごい勢いでばんばん倒しちゃってましたから。敵の標的にされちゃったのかも」
フラムもリンの様子の原因に気づいたのだろう。
リンを安心させるためにもっともそうなことを言う。
「なるほど!それで他を無視してここに集まってきたわけか!」
話としてはかなり苦しい。
もしそうなら、西だけでなく他の方角からもワイバーンが集まって来なければ話の筋が通らないからだ。
「わ、わたし!マーサさん達の様子を見てきますね!!」
そう叫ぶとリンは範囲透明化の範囲から飛び出していく。
「な…」
「りんちゃん待って!」
フラムの静止に振り返ることなく、リンの姿は森の中へと消えていく……
0
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
MMOやり込みおっさん、異世界に転移したらハイエルフの美少女になっていたので心機一転、第二の人生を謳歌するようです。
遠野紫
ファンタジー
大人気スマホMMO『ネオ・ワールド・オンライン』、通称ネワオンの廃人プレイヤーであること以外はごく普通の一般的なおっさんであった彼は今日もいつもと変わらない日常を送るはずだった。
しかし無情にもネワオンのサ終が決まってしまう。サービスが終わってしまう最後のその時を見届けようとした彼だが、どういう訳か意識を失ってしまい……気付けば彼のプレイヤーキャラであるハイエルフの姿でネワオンの世界へと転移していたのだった。
ネワオンの無い元の世界へと戻る意味も見いだせなかった彼は、そのままプレイヤーキャラである『ステラ・グリーンローズ』としてネワオンの世界で生きて行くことを決意。
こうして廃人プレイヤーであるおっさんの第二の人生が今始まるのである。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる