上 下
75 / 85
ネメシス

第74話 魔法

しおりを挟む
「美味い!」

他人の金で食うカツどんの美味い事よ。
まあそれ抜きにしても、実際かなり美味かった。
流石は評判の味だけある。

「理沙はそれだけでいいのか?」

理沙の前にはサラダのみが置かれている。
どう考えても足りないと思うのだが?

「ああ、ダイエット中なんだ。ここ最近、ちょっと体重が増えてさ……」

理沙の体重が増えた理由。
俺にはそれがハッキリと分かっていた。

「そんなの、気にしなくていいと思うぞ」

彼女の戦闘力あそこは、今や完全にDまで到達している。
この短期間でよくぞここまでと、褒めてやりたい程だ。
でも口にすると殴られそうなのでソムリエとしての意見は封印し、在り来たりな返事を返しておいた。

「男の竜也には、この悩みはわかんねーだろうな」

悩み多き年ごろっぽく、理沙は遠くを見つめる。
なんとか増量分は喜ぶべき事だと伝えたいのだが、上手く言葉が浮かんでこない。

というか胸のサイズが変わってるのに、本人はその辺り気づいてないのだろうか?

「まあそう言うな」

丼の上のカツを一つ箸でつまみ、理沙の顔の前に持っていく。

「美味いぜ。食ってみろよ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………し、しょうがねーな。全く」

固まるかの様に、ジーっとカツを眺めていた理沙が照れ臭そうにゆっくりと口を開いた。

俺は箸で掴んだカツを彼女の口に――――ではなく、素早く自分の口に放り込んだ。

なんか、照れくさそうな理沙の顔を見てたら急に気恥ずかしくなったので。

「やらん!」

「……」

「あっ!?」

理沙の目つきが剣呑な物へと豹変する。
冷たい眼差しで俺をじろりと睨んだ後、彼女は唐突に俺の前から丼を奪い取ってしまった。
そして無言でサラダ用のフォークを使い、黙々と自分の口へと丼をかき込み出す。

どうやら揶揄われたと思って怒ってしまった様だ。

「ああ、いやすまん」

「ふん!謝ってももうかつ丼は返さねーよ!」

理沙は思ったより早食いが得意な様だ。
あっという間に丼の中が空っぽになってしまった。
まあこれは俺が悪いので諦めるとしよう。

「しゃあないな。じゃあ今度は自分――」

自分の金で買いに行く。
そう言おうとして、俺は言葉を途切れさせる。

動きがあったからだ。

いや、動きだけなら実はフードコートに入った時点で既にあった。
見張ってた奴らが俺達から離れ、別の場所で集合するという動きが。

俺はその動きを特に問題ないと考え、放置していたのだが――問題は、そいつらに新たに合流した人物だ。

その気配に、俺は一瞬自分の感覚を疑ってしまう。
そしてそれまでいた奴らの気配の急激な変化。

その気配はまるで――

「ちょっと用事が出来たから、悪いけど30分程待っててくれ。待てないなら先に帰ってくれててもいい」

「な、なんだよ急に?怒ったのか?」

「ああ、違う違う。今のは俺が悪かったからな。ただちょっとばかし、用事が出来ただけだ。悪い」

そう言い残すと、俺は席を立って目的の場所へと急いで向かう。

「あ、おい!ちょまっ!」

理沙には後で説明するとしよう。
今は一秒でも早く、自分の感じた物を確かめたかった。

ショッピングモールを出て、大型の立体駐車場を駆け上がる。
屋上は閉鎖されている様だが、俺はそれを無視してすすむ。

「間違いなさそうだな」

屋上には、そこに集まっているはずの監視者達の姿がまるでなかった。
だが気配はハッキリと感じる。

――新聞部の上田の様に、ギフトで全員が姿を消している?

そんな事はありえないだろう。
あれだけの人数が、同じギフトを有している訳がないからな。

――ならなぜ見えないのか?

答えはいたって単純だった。
隠されているのだ。

“魔法„で生み出された結界によって。

つまり相手は、魔法を使えるという事だ。

「シャイン!」

素早く呪文を唱え、光の攻撃魔法で結界を破壊する。
別に殴って壊す事も出来たが、あえて相手にわかる様に魔法を使って見せた。

「ほう……魔法が使えるという報告は、どうやら本当だった様だな」

そこには仮面をつけた金髪の男が立っていた。
後からやって来た気配の持ち主であり――魔法を使ったのは、こいつで間違いないだろう。

他の奴らでは、どう考えても魔法が使えそうにないからな。

何故なら、仮面の男の周りにいるのは全てオークと呼ばれる魔物だったからだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

七英雄伝 ~長すぎる序章 魔王討伐に出た女勇者、返り討ちに遭ってなぜか魔王に求婚されたが絶対婚約なんてしない~

コメッコ
ファンタジー
人類の悲願魔王を討伐の為に仲間と共に魔界に旅立った勇者ルナティア。 しかし、魔王城に辿り着く前にルナティア達の前に立ちはだかったのは四天王最強にして魔王の側近たる黒騎士魔人シュトライゼン。 魔王城を目指すためにルナティア達は魔人シュトライゼンに戦いを挑むが、その実力差は明白だった。 そしてシュトライゼン相手に勝機を見出せないルナティアは仲間を逃がすために1人シュトライゼンと一騎打ちに出る事を決意する。 戦いの末、魔王城に囚われたルナティアはそこで予想もしていなかった事態に直面することになる。 この話は人間界に七英雄が現れる要因を作ったある事件が起こるまでを描いた作品になっています。 ↑ 話が進むまではなんのこっちゃって感じだと思いますのでそこらへんは当分無視して頂いて、なんか後々七英雄が出てくるんだなー。程度に思って下さったら嬉しいです。 私の別作品『魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!』とも一応関連している作品となっていますので、良かったらこちらも見て頂けると嬉しいです。 ↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/638530573/610242317 小説家になろうに投稿後した後アルファポリス、カクヨム、ツギクルにもまとめて投稿してます。

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

処理中です...