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留学生
第62話 アイスリンク
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「食らいなさい!」
「冗談!」
氷部の吹雪とエヴァの放った無数の泡がぶつかり合い、パンパンと泡が爆ぜる音が周囲に響いた。
パワーでは完全に氷部が勝っているため、泡で防ぎきれなかった冷気と刃がエヴァを襲う。
「くっ!」
エヴァはそれを素早く躱そうとするが、氷部のコントロールするその攻撃は執拗に彼女の後を追いかける。
「鬱陶しい!」
彼女は巨大な泡を生み出し、前面に展開する。
それが冷気を完全に受け止めきり、攻撃を相殺。
だが次の瞬間――
「くぅっ!?」
間合いを詰めた氷部の手に咲く氷の刃。
それがエヴァの体に打ち込まれた。
彼女は咄嗟に泡でガードしようとしたが、防ぎきれずに吹き飛ばされてしまう。
そこに氷部は容赦なく追撃を叩き込んでいく。
「さて、どうなるかな」
単純な能力で言うなら、確実に氷部の方が上だ。
普通に戦っていればまず負ける事はないだろう。
だがエヴァには魔眼のギフトがある。
さっきあいつの視界に入った時、俺にも弱化がかかった。
多分、視界に入るもの全てに効果を及ぼす類の物なのだろう。
試合中に俺に嫌がらせする余裕があるとは考えられないし、そもそもそんな事をする意味もないからな。
魔眼の効果は微々たる物だったが、長く受け続ければ馬鹿にならない。
そしてエヴァが弱いとは言っても、その実力差は圧倒的という程ではなかった。
守りに徹されれば、かなりてこずってしまうだろう。
「氷竜絶牙は……まあ使わないか」
彼女の必殺の奥義。
決まれば、試合がそこで終わる程強力なものだ。
だが使う事はないだろう。
あれが直撃すれば普通は大怪我物だ。
場合によっては死ぬ可能性すらある。
薬でラリってた四条や、組織の人間だと勘違いされていた俺と違ってエヴァは――留学生ではあるが――一般生徒でしかないのだ。
自分よりプラーナの量が大きく劣る相手に、氷部があれを使うとは到底思えなかった。
「となると、氷部がやや不利か」
戦況は氷部が押しまくっている形だが、エヴァはその攻撃を何とかではあるが凌いでいる。
何か手を打たなければ、戦いは間違いなく長期戦にもつれ込むだろう。
「どんな手を打つつもりなのやら」
このまま攻めきれずに、彼女が逆転負けする様な事はないだろう。
恐らく何らかの手を用意しているはずだ。
目を見ればそれが分かる。
そう、あれは何かを仕掛ける目だ。
「ああ、なるほど……」
彼女のプラーナの流れから、何をしようとしているのか気づく。
どうやら地の利を得る作戦の様だ。
ゲオルギオスのウォーターフィールドに近い。
「はぁっ!」
「くっ!」
差し合いの中、エヴァの動きがどんどん悪くなっていく。
逆に氷部の動きは変化し、鋭い物へと変わっていった。
直線だった動きが華麗に曲線を描く様になり、スピードがぐんと跳ね上がる。
「アイスバーン……いや、アイスリンクって言った方がいいか」
氷部は足元から冷気を流し、更に冷気と泡のぶつかり合いで生まれた氷のかけらを利用して武舞台上を凍結させたのだ。
そのため、武舞台上は今やアイスリンク状態だった。
「勝負あったな」
氷部は足の裏に氷でエッジを生み出し、スケートの要領で表面を舞う様に滑って戦っている。
それに対し、べた足のエヴァは滑る足場で明らかに動きが鈍っていた。
飛び道具は防げても、この状態で氷部の苛烈な近接攻撃を凌ぎ続けるのは難しいだろう。
因みに、氷部は氷で作ったバイザーをかぶっている。
それにより、彼女の視界は完全にシャットアウトされていた。
近接戦時に懸念されるエヴァの魔眼対策だろう。
「私が!こんな!!」
「終わりよ!」
氷部の連撃を受けてエヴァが吹き飛んだ。
彼女はなんとか立ち上がるが、もう反撃の手立ては――ん?
エヴァは自分の顔の前に大きな泡を生み出した。
そこには彼女の顔が映りこんでいる。
「私は負けない!」
その瞳が赤黒く輝く。
バイザーをしている上に、遠く離れている氷部に魔眼は通用しない。
一体何を?
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
エヴァが急に雄叫びを上げた。
その表情が狂気にまみれた物へと変わっていく。
「自分に使ったのか!?」
魔眼はどうやら他人だけではなく、自分に使う事も出来る様だ。
彼女は泡を鏡代わりにして、自分に使ったのだろう。
状態から見るに、恐らく狂化だ。
「プラーナが上がってる」
発狂して力が上がる……か。
四条との事を思い出す。
あいつも発狂状態で大幅にパワーアップしていた。
どうやらエヴァのバーサークは、組織の扱う薬品に近い効力を持っている様だ。
だが残念ながら、結果は覆らないだろう。
エヴァの力が大きく増した事で、氷部に遠慮が必要なくなったからだ。
「氷竜絶牙!」
氷部の前方に冷気が集約され、強大な白い竜へと生まれ変わる。
狂化されたエヴァ相手に彼女は遠慮なく奥義を叩き込む。
彼女がパワーアップした事で、死ぬ心配はないと判断したからだ。
実際今のエヴァの肉体を覆うプラーナの量なら、その心配はないだろう。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
エヴァが白い竜へと迷わず突っ込んでいく。
正常なら、絶対やらない行為だ。
あれを正面から受け止めて悦に浸るのは、俺くらいなもんだろう。
ちょっと突っ込みたくなる誘惑を堪え、勝負の行く末を見守る。
我ながら大人な対応だ。
白い竜とエヴァがぶつかり合う。
互いが触れた瞬間、龍が爆発して視界がホワイトアウトする。
「ふんっ!ふんっ!」
あまりの冷気に鼻の粘膜が凍りついてしまったので、片方ずつ閉じて鼻息で外に飛ばした。
目玉の方は両手で叩いて表面から剥がし落とす。
茨城の方を見ると、彼女は安全圏まで避難していた。
まあそれが正解だ。
「勝者!氷部澪奈」
視界が完全に晴れ、氷柱内に閉じ込められているエヴァ。
それを見て素早く茨木がジャッジを下す。
金剛の時とは違って意識が完全に飛んでいるからな。
手当の必要性も考慮して、早めの判決だ。
それを聞いた氷部が指を鳴らす。
武舞台中央にできた氷柱は大きく音を立てて砕け散り、そこへゲオルギオスとアメルが駆け寄った。
「エヴァ!」
ゲオルギオスがエヴァの意識を失った体を抱き抱え、アメルが能力を発動させる。
彼女の能力は回復だ。
その能力を使って、気絶しているエヴァのダメージをみるみる回復させていく。
「大した力だ」
彼女の保有するプラーナの量はかなりの物だ。
留学生3人の中では、彼女が頭一つ抜き出ていた。
普段の身のこなしも悪くはない事から、3人の中では彼女が一番強い可能性まである。
出来れば手合わせしたいものだ。
「ま、それはこの際置いておこう」
何せこれからメインディッシュが待っているのだ。
他に浮気するなど失礼に他ならない。
俺は体を軽く動かす。
さっきの氷部達の余波で、体が少し冷えてしまったからな。
「よし!準備運動終わり!」
俺は地を蹴り、ターゲットへまっすぐ突っ込む。
凍りで滑る武舞台の上を苦も無く疾走し、俺は縁を蹴って跳躍する。
そしてその勢いのまま、豪快に回し蹴りを叩き込んだ。
しかめっ面をしていたアポロンの顔面に向かって。
「冗談!」
氷部の吹雪とエヴァの放った無数の泡がぶつかり合い、パンパンと泡が爆ぜる音が周囲に響いた。
パワーでは完全に氷部が勝っているため、泡で防ぎきれなかった冷気と刃がエヴァを襲う。
「くっ!」
エヴァはそれを素早く躱そうとするが、氷部のコントロールするその攻撃は執拗に彼女の後を追いかける。
「鬱陶しい!」
彼女は巨大な泡を生み出し、前面に展開する。
それが冷気を完全に受け止めきり、攻撃を相殺。
だが次の瞬間――
「くぅっ!?」
間合いを詰めた氷部の手に咲く氷の刃。
それがエヴァの体に打ち込まれた。
彼女は咄嗟に泡でガードしようとしたが、防ぎきれずに吹き飛ばされてしまう。
そこに氷部は容赦なく追撃を叩き込んでいく。
「さて、どうなるかな」
単純な能力で言うなら、確実に氷部の方が上だ。
普通に戦っていればまず負ける事はないだろう。
だがエヴァには魔眼のギフトがある。
さっきあいつの視界に入った時、俺にも弱化がかかった。
多分、視界に入るもの全てに効果を及ぼす類の物なのだろう。
試合中に俺に嫌がらせする余裕があるとは考えられないし、そもそもそんな事をする意味もないからな。
魔眼の効果は微々たる物だったが、長く受け続ければ馬鹿にならない。
そしてエヴァが弱いとは言っても、その実力差は圧倒的という程ではなかった。
守りに徹されれば、かなりてこずってしまうだろう。
「氷竜絶牙は……まあ使わないか」
彼女の必殺の奥義。
決まれば、試合がそこで終わる程強力なものだ。
だが使う事はないだろう。
あれが直撃すれば普通は大怪我物だ。
場合によっては死ぬ可能性すらある。
薬でラリってた四条や、組織の人間だと勘違いされていた俺と違ってエヴァは――留学生ではあるが――一般生徒でしかないのだ。
自分よりプラーナの量が大きく劣る相手に、氷部があれを使うとは到底思えなかった。
「となると、氷部がやや不利か」
戦況は氷部が押しまくっている形だが、エヴァはその攻撃を何とかではあるが凌いでいる。
何か手を打たなければ、戦いは間違いなく長期戦にもつれ込むだろう。
「どんな手を打つつもりなのやら」
このまま攻めきれずに、彼女が逆転負けする様な事はないだろう。
恐らく何らかの手を用意しているはずだ。
目を見ればそれが分かる。
そう、あれは何かを仕掛ける目だ。
「ああ、なるほど……」
彼女のプラーナの流れから、何をしようとしているのか気づく。
どうやら地の利を得る作戦の様だ。
ゲオルギオスのウォーターフィールドに近い。
「はぁっ!」
「くっ!」
差し合いの中、エヴァの動きがどんどん悪くなっていく。
逆に氷部の動きは変化し、鋭い物へと変わっていった。
直線だった動きが華麗に曲線を描く様になり、スピードがぐんと跳ね上がる。
「アイスバーン……いや、アイスリンクって言った方がいいか」
氷部は足元から冷気を流し、更に冷気と泡のぶつかり合いで生まれた氷のかけらを利用して武舞台上を凍結させたのだ。
そのため、武舞台上は今やアイスリンク状態だった。
「勝負あったな」
氷部は足の裏に氷でエッジを生み出し、スケートの要領で表面を舞う様に滑って戦っている。
それに対し、べた足のエヴァは滑る足場で明らかに動きが鈍っていた。
飛び道具は防げても、この状態で氷部の苛烈な近接攻撃を凌ぎ続けるのは難しいだろう。
因みに、氷部は氷で作ったバイザーをかぶっている。
それにより、彼女の視界は完全にシャットアウトされていた。
近接戦時に懸念されるエヴァの魔眼対策だろう。
「私が!こんな!!」
「終わりよ!」
氷部の連撃を受けてエヴァが吹き飛んだ。
彼女はなんとか立ち上がるが、もう反撃の手立ては――ん?
エヴァは自分の顔の前に大きな泡を生み出した。
そこには彼女の顔が映りこんでいる。
「私は負けない!」
その瞳が赤黒く輝く。
バイザーをしている上に、遠く離れている氷部に魔眼は通用しない。
一体何を?
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
エヴァが急に雄叫びを上げた。
その表情が狂気にまみれた物へと変わっていく。
「自分に使ったのか!?」
魔眼はどうやら他人だけではなく、自分に使う事も出来る様だ。
彼女は泡を鏡代わりにして、自分に使ったのだろう。
状態から見るに、恐らく狂化だ。
「プラーナが上がってる」
発狂して力が上がる……か。
四条との事を思い出す。
あいつも発狂状態で大幅にパワーアップしていた。
どうやらエヴァのバーサークは、組織の扱う薬品に近い効力を持っている様だ。
だが残念ながら、結果は覆らないだろう。
エヴァの力が大きく増した事で、氷部に遠慮が必要なくなったからだ。
「氷竜絶牙!」
氷部の前方に冷気が集約され、強大な白い竜へと生まれ変わる。
狂化されたエヴァ相手に彼女は遠慮なく奥義を叩き込む。
彼女がパワーアップした事で、死ぬ心配はないと判断したからだ。
実際今のエヴァの肉体を覆うプラーナの量なら、その心配はないだろう。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
エヴァが白い竜へと迷わず突っ込んでいく。
正常なら、絶対やらない行為だ。
あれを正面から受け止めて悦に浸るのは、俺くらいなもんだろう。
ちょっと突っ込みたくなる誘惑を堪え、勝負の行く末を見守る。
我ながら大人な対応だ。
白い竜とエヴァがぶつかり合う。
互いが触れた瞬間、龍が爆発して視界がホワイトアウトする。
「ふんっ!ふんっ!」
あまりの冷気に鼻の粘膜が凍りついてしまったので、片方ずつ閉じて鼻息で外に飛ばした。
目玉の方は両手で叩いて表面から剥がし落とす。
茨城の方を見ると、彼女は安全圏まで避難していた。
まあそれが正解だ。
「勝者!氷部澪奈」
視界が完全に晴れ、氷柱内に閉じ込められているエヴァ。
それを見て素早く茨木がジャッジを下す。
金剛の時とは違って意識が完全に飛んでいるからな。
手当の必要性も考慮して、早めの判決だ。
それを聞いた氷部が指を鳴らす。
武舞台中央にできた氷柱は大きく音を立てて砕け散り、そこへゲオルギオスとアメルが駆け寄った。
「エヴァ!」
ゲオルギオスがエヴァの意識を失った体を抱き抱え、アメルが能力を発動させる。
彼女の能力は回復だ。
その能力を使って、気絶しているエヴァのダメージをみるみる回復させていく。
「大した力だ」
彼女の保有するプラーナの量はかなりの物だ。
留学生3人の中では、彼女が頭一つ抜き出ていた。
普段の身のこなしも悪くはない事から、3人の中では彼女が一番強い可能性まである。
出来れば手合わせしたいものだ。
「ま、それはこの際置いておこう」
何せこれからメインディッシュが待っているのだ。
他に浮気するなど失礼に他ならない。
俺は体を軽く動かす。
さっきの氷部達の余波で、体が少し冷えてしまったからな。
「よし!準備運動終わり!」
俺は地を蹴り、ターゲットへまっすぐ突っ込む。
凍りで滑る武舞台の上を苦も無く疾走し、俺は縁を蹴って跳躍する。
そしてその勢いのまま、豪快に回し蹴りを叩き込んだ。
しかめっ面をしていたアポロンの顔面に向かって。
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