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バトルフェスティバル
第32話 教師
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「千堂先生。此処は禁煙ですよ」
中庭の椅子に座り、煙草の煙で作った輪を千堂貴美子が口から吐き出していると声を掛けられる。
彼女が視線を向けると、そこには新任の教師である桜巫女の姿があった。
スーツをパリッと着こなし。
髪を綺麗に桜色に染め上げたその姿は、ジャージ姿でだらしなく座っている千堂とは対極の様相を醸し出している。
「やーねぇ。細かい事ばかり気にしてると、老けるわよ」
「大丈夫ですよ。私は若いですから」
「あらあら。その強気、後何年続くかしらねぇ」
桜は千堂の横に座り、手にした袋包みを開ける。
中から可愛らしい桜の花びらが描かれた、小さな弁当箱が姿を現す。
蓋を開けると、色とりどりの野菜とハンバーグが詰まっていた。
「小食ねぇ」
「先生が大食なだけですよ。何故あれだけ食べて、太らないのか不思議で仕方がありません」
千堂の昼食は、大盛サイズの焼き肉弁当とから揚げ弁当であった。
とても40代の女性が食べる量ではない。
普通なら腰回りや二の腕がとんでもない事になって然るべき量ではあるが、彼女は体質なのかいくら食べても太らなかった。
「うふふ。栄養はぜーんぶここに行ってるのよ」
彼女はその豊かな胸を両手で持ち上げる。
当然その上には、トレードマークである彼氏募集中のプレートが張り付いていた。
その姿を、桜はげんなりした表情で見つめる。
「それよりも鏡ちゃんの事、どう思う?」
「唐突ですね」
「あの子、スッゴイ強いわよ。ひょっとしたら、うちの女王様が負けちゃうかもね」
千堂貴美子は冗談めかしてそう口にしたが、その言葉を聞き、彼女を見る桜巫女の視線が途端に険しくなる。
もはや睨み付けていると言ってもいい状態だ。
「やーねー。冗談よ、冗談。あんたってば、ほんっと彼女に御執心ねぇ」
「……」
千堂はジト目で見つめる桜巫女に肩を竦め、手にした煙草を口にする。
余り一人の生徒に入れ込むのは宜しくないのだが、それは口にせず、胸の中の思いと共に煙を吐き出した。
「まああの化け物に勝てるのは、世界広しと言えどもあの人ぐらいでしょうし。安心しなさいな」
「先生に一々そんな事を言われなくても、他の誰でもない私がその事を一番分かっていますから」
「あら、そう?」
千堂貴美子は手にしていたタバコを捨て、踏んで火を消す。
学園内の中庭で堂々とポイ捨てをするその姿に、桜は大きく溜息を吐いた。
「毎度思うんですけど、いくら何でもマナー悪すぎませんか?生徒達が見たら何と思うか」
普段なら桜が黙ってそれを片付けるのだが、今回は機嫌が悪いためか嫌味を口にする。
だが千堂は特に気にする事も無く与太話で返した。
「悪魔の取り分ってあるでしょ?あれと同じよ。私は十分煙草を楽しんだから、残りは地球ちゃんに分けて上げようと思ってね」
「足で踏みつけてですか?」
「そ、この子はドMだから」
千堂は足でバンバンと派手に地面を踏みつける。
「でなきゃ、地表をこんな寄生虫塗れでほっといたりしないでしょ?楽しんでるのよ。この子は。自分の上で人間が引き起こす狂騒曲をね」
彼女は椅子から立ち上がり、軽く右手振ってこの場を立ち去って行く。
手早く食事を終えた桜は、ポケットから千堂の吸い殻回収用の袋を取り出し、ゴミ拾いする。
「全く。いくつになっても自由奔放のままね。先生は」
現在は同胞であり、かつての教師である千堂貴美子。
その変わらぬ姿に彼女は肩を竦めるのだった。
中庭の椅子に座り、煙草の煙で作った輪を千堂貴美子が口から吐き出していると声を掛けられる。
彼女が視線を向けると、そこには新任の教師である桜巫女の姿があった。
スーツをパリッと着こなし。
髪を綺麗に桜色に染め上げたその姿は、ジャージ姿でだらしなく座っている千堂とは対極の様相を醸し出している。
「やーねぇ。細かい事ばかり気にしてると、老けるわよ」
「大丈夫ですよ。私は若いですから」
「あらあら。その強気、後何年続くかしらねぇ」
桜は千堂の横に座り、手にした袋包みを開ける。
中から可愛らしい桜の花びらが描かれた、小さな弁当箱が姿を現す。
蓋を開けると、色とりどりの野菜とハンバーグが詰まっていた。
「小食ねぇ」
「先生が大食なだけですよ。何故あれだけ食べて、太らないのか不思議で仕方がありません」
千堂の昼食は、大盛サイズの焼き肉弁当とから揚げ弁当であった。
とても40代の女性が食べる量ではない。
普通なら腰回りや二の腕がとんでもない事になって然るべき量ではあるが、彼女は体質なのかいくら食べても太らなかった。
「うふふ。栄養はぜーんぶここに行ってるのよ」
彼女はその豊かな胸を両手で持ち上げる。
当然その上には、トレードマークである彼氏募集中のプレートが張り付いていた。
その姿を、桜はげんなりした表情で見つめる。
「それよりも鏡ちゃんの事、どう思う?」
「唐突ですね」
「あの子、スッゴイ強いわよ。ひょっとしたら、うちの女王様が負けちゃうかもね」
千堂貴美子は冗談めかしてそう口にしたが、その言葉を聞き、彼女を見る桜巫女の視線が途端に険しくなる。
もはや睨み付けていると言ってもいい状態だ。
「やーねー。冗談よ、冗談。あんたってば、ほんっと彼女に御執心ねぇ」
「……」
千堂はジト目で見つめる桜巫女に肩を竦め、手にした煙草を口にする。
余り一人の生徒に入れ込むのは宜しくないのだが、それは口にせず、胸の中の思いと共に煙を吐き出した。
「まああの化け物に勝てるのは、世界広しと言えどもあの人ぐらいでしょうし。安心しなさいな」
「先生に一々そんな事を言われなくても、他の誰でもない私がその事を一番分かっていますから」
「あら、そう?」
千堂貴美子は手にしていたタバコを捨て、踏んで火を消す。
学園内の中庭で堂々とポイ捨てをするその姿に、桜は大きく溜息を吐いた。
「毎度思うんですけど、いくら何でもマナー悪すぎませんか?生徒達が見たら何と思うか」
普段なら桜が黙ってそれを片付けるのだが、今回は機嫌が悪いためか嫌味を口にする。
だが千堂は特に気にする事も無く与太話で返した。
「悪魔の取り分ってあるでしょ?あれと同じよ。私は十分煙草を楽しんだから、残りは地球ちゃんに分けて上げようと思ってね」
「足で踏みつけてですか?」
「そ、この子はドMだから」
千堂は足でバンバンと派手に地面を踏みつける。
「でなきゃ、地表をこんな寄生虫塗れでほっといたりしないでしょ?楽しんでるのよ。この子は。自分の上で人間が引き起こす狂騒曲をね」
彼女は椅子から立ち上がり、軽く右手振ってこの場を立ち去って行く。
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「全く。いくつになっても自由奔放のままね。先生は」
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その変わらぬ姿に彼女は肩を竦めるのだった。
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