異世界転生帰りの勇者、自分が虐められていた事を思い出す~なんか次々トラブルが起こるんだが?取り敢えず二度と手出しできない様に制圧するけどさ~

榊与一

文字の大きさ
上 下
82 / 83

第82話 慎重

しおりを挟む
「ふむ、例の対象の事で可及の用件か……」

先程まで会議中だった帝真一は、執務室に戻った所で秘書にそう告げられ眉をしかめた。

「はい」

「昨夜安田一家を監視していた衛星からの信号が途絶え、しかもその日の午前中にその対象の件に関する急用で佐藤が会いに来る。点と点を繋ぐ確実な根拠はないが……事が連続して動く以上、何らかの因果関係があると疑うべきか」

安田親子、もしくはどちらかが魔法使いである事を前提に帝真一は考え込む。

「魔法の事が分からない以上、過小評価は避けるべきだ」

彼は魔法に関して深い知識を持ち合わせてはいない。
その最大の要因は、日本という国では魔法が制限されてしまう謎の現象があったためである。
そのため、国内で活動する彼にとってこれまで魔法は脅威たりえなかった。
要は優先順位が低かったのだ。

――そして不明だからこその、強い警戒。

「最大限評価するとした場合……監視されている事に気付き、衛星を何らかの方法で攻撃。その後監視者であった佐藤の元に短時間で辿り着き、何らかの方法で懐柔して彼を手足の様に動かす。そして準備万端の状態で佐藤に同行し、ここに乗り込んで来る。そんな所か……」

今の状況で考えうる最悪を、帝真一は想像する。

もしこの想像が当たっていた場合、佐藤と迂闊に接触する事が危険である事は間違いないだろう。
だが魔法の事を詳しく知る人間がこの場に居たなら、その想定をきっと鼻で笑っていたに違いない。

――そんな事は不可能だと。

行動自体は、衛星への攻撃を除けば優れた魔法使いなら可能ではあるだろう。
問題はスピードだ。
昨日の今日でセキュリティレベルの高い帝真一の元まで辿り着くのは、いくら何でも現実的ではない。

――そう、普通であれば。

だが帝真一は魔法を深く知らず、そして知っている者もこの場にはいない。
それ故、最大限の警戒を以って慎重に行動に当たる。

「セキュリティレベルを最高レベルに引き上げさせろ」

帝真一が秘書にそう命じた。

「名目は私の命を狙う危険な魔法使いの迎撃だ。捕獲は考えなくていい」

「畏まりました」

「私は念のためこの場から退避する。用意しろ」

セキュリティを過信せず、迎撃を突破された場合に備えての退避。
万一に備えるその慎重さは評価に値するといえるだろう。

だが彼は知らない。
下手に身を隠すという行為が、無駄な手間を増やされた勇者の怒りを買う羽目になる事を。

まあもっとも……怒りを買おうが買わなかろうが、彼の悲劇はもうこの時点で決まっている訳だが。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

処理中です...